それは、本当に突然の出来事で。

 

Boys Talk10

 

 端的に言えば吃驚した。

 過去の話や現在の話、未来への不安までも口に出してしまった己にも。

 そして、何より驚いたのは、目の前の彼(か)の人が本当に突然、いきなり大爆笑を開始したんだ―――。

 

 

 「わーはっはっはっはっはっはっはっは!」

 何一つとして『面白い話』などなかったはずだ、と僕は心の中でつい今しがた間での時間を反芻する。
 どんなに思い返しても、やっぱり愉快な内容の話など見つからず、逆を言えば彼が気分を害しても仕方がないようなものでさえあったと思うのに・・。

 「あは、はははははは!」

 部屋に響き渡る笑い声に驚いて僧官が飛んできやしないかと少しだけ焦る。

 声も、顔も、ふわりと揺れる黄金の髪でさえ『あの男』にそっくりなのに、今僕の目の前にいるのは違う人間。

 「・・・い、いきなりどうしたんだい?」

 愚鈍な僕は笑い続ける彼にそう聞くことしか出来なくて

 「・・・つられて笑うとかしないんスか?」

 困ったような顔の僕を見咎めて笑うことを中断してはくれたけれど、逆にそう問い返されてこちらが言葉に詰まってしまう。

 「・・・いや、突然だったし・・・僕はそんなに愉快な話をしていたかな・・・」

 海を思わせるような青い瞳にまっすぐ射竦められることが、いまだに、こんなにも落ち着かないだなんて、正直に話したらそれこそ真剣に笑われそうだ。

 

 あの戦いで、僕が手にしたものは何だったのか。

 

 手にしたかったのは、何だったのか。

 

 あの日還ってきたというこの青年は、声に出したくとも出せない僕の気持ちを見透かすようにふらりとベベルへやってきては他愛もない話をして帰って行く。
 なんでも『この世の中で逆立ちしたって好きになれない』という人間と僕とがだぶり、どうにも好感が持てなかったのだと面と向かって言い切られた時には、その正直さに思わず笑ってしまった。
 その正直者の『好きになれない』相手の名を聞くに至っては、内心ひっそりと納得さえしたものだ。

 しかし彼は、好感が持てなかったはずの僕のところへやってくる。

 時にはこちらからのカモメ団への依頼をこなすために。

 時には今日のように用事もないのに話をするためだけに。

 

 

 影が。

 

 

 あの『影』が。

 

 

 いまだ僕を占領しているような、そんな感覚に陥ってしまいそうになる時に、そうして必ず現れるんだ。

 

 

 

 「君は、不思議な人だな」

 先刻までやかましいくらいに笑い続けていたかと思えば、今は大人しく座ってコーヒーを啜っている。

 「よく言われるッスねぇ。人気者は少しミステリアスなのがいいって、何かの本に書いてなかった?」

 そういう意味の『不思議』じゃあないんだけど。

 「・・・そんなこと何処にも書いてないよ・・・誰が言ってたの?」

 絶対に君の言葉じゃないのがわかるから、かえって可笑しくて思わず笑う。

 「ギップル」

 「なるほどね」

 

 

 過去の傷。

 僕が吐露してしまいたい今。

 口には出せないはずの未来への不安。

 

 

 コーヒーを手に笑う君と同じように、僕にも未来があるのだろうか?

 そんなくだらない想いにがんじがらめにされそうになるんだ。

 

 

 怖いんだ。

 

 

 嬉しいんだ。

 

 

 なにより、傷が、痛むんだ。

 

 

 黄金の髪が眩しいから

 青い瞳が射抜くから

 僕は、つい、太陽に魅せられて、くだらない想いを言の葉にのせてしまう。

 

 

 

 「ユウナがさ」

 突然彼女の名を出されて我に返る。
 今までとは全然違う、少しだけ大人びたその口調にもどきりとしたのかもしれない。

 「・・・ユウナ様?」

 「以前(まえ)にね、『笑おう』って言われて無理矢理大笑いしたことあってさ。オレ、その時はもう『笑ってる場合じゃないっつーの!』ってな状態で悲惨極まりなくて、それでもまあ、やってみたらコレが意外と可笑しくて」

 話す間にも思い出しては笑う彼。

 笑う?

 笑う。

 僕は何日笑っていない?

 「バラライも笑ってみたら?案外イイかもしれないッスよ?」

 シニカルな笑顔を向けられて

 君はたったそれだけの事であんなに笑って見せたのか?

 「エボン党の議長が大口を開けて笑ってもいられないだろう?」

 それだけ言うのが精一杯だったけれど

 笑顔というよりも呆れて笑ってみせることしか、素直でない僕には出来なかったけれど

 

 

 「カモメ団に入ってみたらいいのに。おっかしいッスよ、毎日」

 

 

 議長なのに

 責任だってあるのに

 ああ

 そうやって君は、いとも簡単に何もかもを飛び越えてしまうんだ

 

 

 「冗談だろう?僕は今が一番なんだ」

 ささやかな強がりにこみ上げてくるのは笑顔。

 『腹がへった』と主張する『スピラの太陽』へ向けて、僕は少しだけ声を立てて笑ってみせた。

fin

 

ボーイズトーク番外へーん。

予想に反して議長登場だ。
個人的設定ではティーダは議長のところにも出没してはくだらない会話をして帰ります。(笑)

「オレ、あんたのこと好きになれなかったんだよな〜」

とカミングアウトしますから。ええ。面と向かって。
だってシーモア。(笑)

なんとなくね、お友達なんです。
ギップルとバラライと。
ヌージですか?
うわあ、全然考えられない。(大爆笑)
きっとお付き合いはあると思いますけどね。

topboys