驚いたよ?正直『またかぁ』って思ってたからさ。

 

Boy meet a Boy

 飛空艇のエンジン音を聞きながら、ティーダは眠るチョコボの羽毛に埋もれるようにして座りぼんやりとしていた。
 頬へ寄せてくる嘴の付け根あたりを優しく撫でてやりながら ぽつりと呟く。

 「シューイン・・・ねぇ」

 「・・・疲れた?」

 目の前に突然現れた熱いコーヒーの入ったカップに少しだけ驚いて視線を上げると、そこには優しげな微笑と共に立つ愛しい少女の姿があった。

 「ありがと。疲れてないッスよ?・・・ベベルも、討伐隊も面白かったし」

 『もう、討伐隊じゃないんだよな』と、はにかんで言うティーダに寄り添うようにしてユウナも座る。

 「もう、ジョゼだね」

 「もう一回ビックリされるわけッスね・・・」

 「うん、そうだね」

 コーヒーを飲みながら、恋人達は密やかに微笑みあった。

 ティーダがスピラへと帰還を果たしてからすでに半月が経とうとしていた。
 空白の2年間を埋めるには、まだまだ時間が足りないといったところが本音だが、それでも少しずつ生活にも慣れ、楽しむ余裕も出てきたところへマキナ派から依頼が舞い込んできたのだ。

 『ビーカネル砂漠難所部 発掘』

 これはティーダが『アルバイトがしたい』とリュックに持ちかけた為に発生したミッションなのだが、表向きはあくまで『マキナ派からの依頼』ということになっている。
 ビサイドからジョゼ寺院までの道すがら、どうせならばバラライとヌージにもティーダを紹介しておこうという事になり、つい先ほど青年同盟本部を後にしたのだった。

 「ユウナ・・・あのさ・・・」

 何かを言いかけたティーダを牽制するようにスピーカーからもの凄い声が響く。

 「ジョゼ寺院っ!!とおちゃああああああっく!!」

 カモメ団リーダーの無駄に大きな艦内放送に、2人は苦笑いしながらブリッジへと向かったのだった。

 

 

 「・・・・・・・・・・・・『すげぇ客人』って・・・・・アンタのことだったのか・・・・・・・・・・・・」

 金髪を逆立て、眼帯をしたやけに陽気そうな男が 自分を見た瞬間それだけを呟いて絶句している。
 その様子を楽しそうに静観しているリュックとパインは、今回も何も言ってくれないらしい。

 (そんなに似てるッスかねぇ?)

 3度目ともなると、もういい加減慣れてしまっている自分に内心小さくため息をつきながら、ティーダはそれでも努めてにこやかに自己紹介を開始する。

 「ベベルではあからさまに作り笑いのまま固まられて、キノコ岩では撃ち殺されそうになったっス」

 「あっあのね?!ギップルさん・・・!」

 『自己紹介』というよりも、『事後報告』を朗らかにしているティーダをちゃんと紹介せねば、とユウナが焦って前に出るが、当のギップルは、まるでマキナに使う部品を選別でもしているかのように まじまじと見つめているだけだ。
 さすがにティーダも『何か言わなければならないだろう』と口を開いた瞬間、その言葉は大爆笑をもってしてかき消されることとなる。

 「いやー!悪ぃ悪ぃ!いやいや、ビックリしたぜ〜〜?あんまりソックリだからよっ・・・・あは、あははははっ!そ、そうか!!撃ち殺されそうになったってか!!」

 豪快に笑うマキナ派のリーダーは、戸惑うティーダの背中を笑い声以上に豪快に叩く。
 これにはさすがのティーダも、体勢を崩さざるをえない。

 「いってっ・・・!痛ぇ!!やめろっつーの!!」

 「オマエ!名前はっ?!」

 「ティーダ!!」

 背中を何度も叩かれながらも、大笑いしているギップルへティーダが抗議の声をあげながら振り仰ぐと 豪快なリーダーはにやりと笑い突然抱きついてきた。

 「はああああっ?!」

 「気に入った!!ティーダか!いい名前だ!!俺はギップル。このマキナ派のリーダーだ。」

 「はあ・・・・」

 そこでようやくティーダを解放して、ギップルはさらに畳み掛ける。

 「アンタ合格。ビーカネル北部の発掘、一人で行けるな?期間は一週間だ。くわしくはナーダラに聞いてくれ」

 「・・・一人っ?!」

 今まで事態を静観していた3人娘が慌てて声をあげるも後の祭り。
 仕事の斡旋をした青年はもう何処かへ向かって歩き出しているではないか。
 いかにティーダといえども、初めから一人きりで北部の発掘など、馬鹿げているにもほどがある、と抗議を仕掛けたその瞬間、

 「もちろん、シドの娘他2人は東部で発掘だ。これで2倍は部品が手に入るからな。そんじゃ、よろしく〜」

 悠然と言い放ち、ひらひらと右手を振りながら寺院の中へ姿を消したギップルの背中に、ティーダは大爆笑をもってして了解の返事に代えたのだった。

 

 

 「なに笑ってるんだよ、さっきから、気持ちが悪いな」

 初めて会ったあの時よりも、精悍さが増したギップルが 酒の入ったグラスを片手に目の前に座る青年へと声をかける。

 あれから2年。
 たまさかに呼び出されては、こうして付き合い続けているな、と思いながらティーダは答えた。

 「いや、別に?初めて会ったときのことをなんとなく思い出してさ」

 「あ〜〜!あん時は驚いたな、マジで」

 つられて笑顔になりながら答えたギップルへ、今度はティーダが不思議そうな顔になる。

 「・・・驚いてたッスか?アレで?」

 「あったりめぇだろ?シューインと対決してから半月だぜ?半月。バラライもヌージも肝心なことは何も教えてくれなかったしよ」

 ぐい、とグラスを空けてそう言うギップルに、ティーダは自然笑顔になる。
 この一風変わった陽気な男とはなんとなく波長が合うのか、いままでつかず離れずこうした時間を持つことに、少しだけくすぐったく感じるときもある。

 「つーかさ、突然呼び出して『北部行ってこい』とか言うの、やめない?」

 「しかたがねーだろ?お前くらいしか適任いないんだからよ」

 「あのね、ブリッツで忙しいっつーの」

 『忙しい』と文句を言いながらも、結局はここでこうしているのだ。
 これからも、きっと、ずっとこんな感じなのだろう、と お互い漠然とそう思っているに違いない。

 「お前さ、一度くらい朝まで酒に付き合ったらどうよ?」

 呆れ顔で不平を言う悪友に、ティーダは艶然と微笑してキッパリと言いきった。

 「残念。男と飲む酒よりもユウナのほうがずっといいのです」

 「うわ、出たよ、ユウナ様バカ」

 普段は機械音で溢れかえっているジョゼ寺院も、『伝説のガード』が尋ねてくる日だけは陽気な笑い声がいつまでもこだましており、それにすっかり慣れてしまったマキナ派のメンバーは、何事もないかのように黙々と作業を続けるのだった。

fin

 ギップル×ティーダ初遭遇編です。(笑)
SSSの秘密の後こうなってました。

topboys