そうくるとは、思わなかったな・・・。

 

Boys Talk 4

 「そんな古いスフィアじゃなくってさー!もっとあったらしいので写してよ〜〜〜!!」

 「コレがいいんだって!はい!リュック笑う!!」

 ティーダとリュックがまるで仲の良い子犬の兄弟のようにじゃれ合いながら、飛空艇内を所狭しと駆け回っている。
 その光景は以前よりくり広げられていたのだが、ここ数日はさらにパワーアップしていると言っても過言ではない。

 「一体、なんなんだ?」

 呆れ顔で『子犬たち』の様子を眺めていたパインがため息混じりに呟いた。
 青い瞳を輝かせ、スフィアを片手に撮影に勤しむティーダを遠巻きに見つめながら、ユウナはさも残念そうに肩をすくめて見せた。

 「私にも教えてくれないんだよ?」

 マキナ派のリーダーギップルからティーダ宛に火急の用事があると呼び出され、出向いていったのは1週間前のこと。
 『火急の用事』のわりには驚くほど早く飛空艇へと帰ってきたティーダの手には何やら古ぼけたスフィアが握られており、翌日から楽しそうにそのスフィアを弄っていたかと思うと 突然飛空艇内を撮影しだしたのである。

 『途中で拾った』とだけしか教えてもらっていないその謎のスフィアの中に、何が映されていたのか今となっては拾ってきた本人しか知る由もなく、ユウナは彼の奇怪な行動をただ黙って見ていることしか出来ないでいた。

 『ナイショで見ちゃえば良かったのに〜〜〜!!』

 などと不穏なことを言ってのけたリュックだったが、今ではしつこいくらいにティーダに追いかけまわされて少々困惑しているところだ。

 それこそ『どんなスフィアだったの?』と尋ねてもみたユウナだったが、愛しい青年は素晴らしく悪戯っぽい光をあの青い瞳いっぱいに湛えて『ナイショ』と笑っていたから、それはもう意地の悪い作戦を練っているのであろう事だけはわかる。
 ただ、その『意地の悪い作戦』が『誰』に向けられているのかは、さすがのユウナでもさっぱり見当がつかなかったのだけれど。

 

 

 「ユウナ、ユウナ!こっち来て!早く!」

 昼食が終わった後、チョコボの影から嬉しそうに手招きしているティーダにユウナは不思議そうな顔で歩み寄る。

 「なあに?」

 「あのさ、お願いがあるんだけど?」

 「・・・お願い?」

 小さく首をかしげたユウナに、ティーダは満面の笑みで大きく頷いたのだった。

 

 

 

 「お〜!ユウナ様じゃねぇか!元気そうだな」

 少しだけ画像が揺れる通信スフィアの向こうで陽気な男が陽気に挨拶の言葉を投げかける。

 「こんにちわ。ギップルさんもお元気そう」

 先日ジョゼ寺院までティーダを送っていった折にユウナたちは彼と顔を合わせなかった為、ちゃんと会話をするのは至極久しぶりだ。
 最近では暗黙の了解になってしまっているが、ティーダがギップルの呼び出しをくらう時は彼だけがジョゼでセルシウスを降りる。
 その後飛空艇はルカへ向かい、消耗品の補充やら、息抜きのため遊びに出かけたりと各々好きに行動をするのが習わしとなっていた。
 ティーダが長くかかりそうな用件の時にはそのままスフィアハントにも出かけるし、日帰りの予定ならば迎えに行ったり彼がルカまで歩いて帰るのを待つ。
 『寂しい』と思う時もあるけれど、ティーダとギップルの関係を見ていると 複雑ながらも反面嬉しいユウナだった。

 何はともあれ、ティーダにとって初めてとも言えるであろう『同世代の友人』だ。

 こんなに意気投合するとは ユウナをはじめ周囲の人間ですら予想はしなかったのだけれど・・・。

 「どうした?何か用か?」

 せっかちな性格そのままに本題を切り出してくるマキナ派のリーダーに、ユウナは思わず声を立てて笑う。

 「うん。あのね?ギップルさんにスフィア買って欲しいの」

 「おお〜?何かお宝掘り出したってか?!」

 嬉しそうにスフィアを覗き込んでいるギップルの顔が画面内で揺れる。

 「うん。これなんだけどね?」

 ユウナはにこにこと笑顔のまま、ポケットの中から取り出したスフィアを見せた。

 「・・・・・・・・・・・・・・ッ?!」

 「ギップルさん?」

 映し出されたスフィアを目にした瞬間、ギップルが凄まじく動揺し絶句しているのが見てとれる。

 「・・・それっ・・・中、見た・・・か?」

 「ううん。見てないけど?」

 ユウナの返事を待っていたかのように彼女の肩口からティーダがひょっこりと顔を覗かせた。
 その笑顔は壮絶に意地の悪い光をいっぱいに湛えていて・・・。

 「・・・・ティっ・・・・おまっ・・・反則だろう!?」

 「何がっスか〜?スフィアハンターのお仕事に専念してるだけッスよ?それともエボン党に売ったほうがいい?」

 男同士のせめぎ合いにユウナは首を捻るばかり。

 ただ、ティーダに言われたとおりにしているだけ。

 

 愛しい青年からの『お願い』は、

 まず、誰にも内緒でギップルに連絡を取って欲しいという事。

 自分が拾ってきたスフィアをギップルに買って欲しいと交渉してもらいたいという事。

 その際、内容については決して触れない事。

 最後に通信スフィアを使って、手に入れたスフィアを彼に見せる事。

 

 「・・・ユウナ様・・・中は、見てないんだな?」

 「うん」

 「おう、か、買わせてもらうぜ・・・そいつに、ジョゼまで持って来させてくれ・・・じゃ、じゃあな!」

 

 一気に疲れが出ましたとでも言わんばかりのギップルの様子を、ユウナの背後から盗み見していたティーダは、通信が切れた瞬間に大爆笑を開始した。

 「ねぇ?これって、なあに?普通の映像スフィアでしょう?」

 しかも中身はカモメ団の日常生活しか入っていないはずだ。

 「くくくく・・っあは!い、いや、やっぱりさ、『お礼』はしておかないと、と・・・わははははははは!」

 一体、何の『お礼』なのか皆目見当もつかないユウナは、お腹を抱えて大笑いしている恋人をただ不思議そうに見つめているしか出来なかった。

 

 

 「テメェなあ、アレは反則じゃねえか?」

 ギップルが相変わらず弄りかけのマキナでいっぱいの自室中央にどかりと腰掛け、待ち焦がれた客人へ開口一番抗議の声をあげる。

 「反則って言うならギップルの方が先だろ?オレ、ルカであのスフィアスクリーン見た時ビックリしたっつーの」

 ティーダは青い瞳を細めながらそうしれっと言い切ると、泣く子も黙るマキナ派のリーダーの射抜くような視線もものともせず転がるマキナを慣れた手つきで脇に寄せて座り込んだ。

 『あのスフィアスクリーン』

 今期リーグ戦から広場に設置された巨大スクリーン。
 試合中はその模様などを配信するのを目的とされたそれは、その役目が終わると巨大広告となっている。
 更にブリッツボール人気再燃の手助けとなるべく採用されたのは他ならぬティーダの満面の笑顔だったのだ。

 その笑顔はいわゆる『営業用』に撮りおろしたものではなく、『素』の笑顔。

 仕掛け人であるリンに依頼を受けたギップルが、半ばだまし討ちとも言える方法でティーダの笑顔を隠し撮りしたのだ。

 「お礼はキッチリさせてもらう主義ッスから」

 勝って知ったる他人の家よろしく、ごそごそとポットを探し当てるとさっさとコーヒーなど入れだす始末。

 「・・・シドの娘とかには・・・見せてないよな・・・?」

 探るような緑の瞳にティーダは艶然と微笑みかけると『モチロン』とだけ返答する。

 「はい。じゃあ、お代頂きますかね?」

 「おまっ・・・!マジで金取るのか?!」

 「当たり前ッスよ。オレ、これでも一応スフィアハンターよ?それとも・・・」

 「わ〜〜〜!!わかった!わかった!!」

 当たり前のように差し出されたティーダの右手にギップルは忌々しげに『だまし討ちへの高すぎる代償』を叩きつけた。

 「あ〜。ラッキー。臨時収入」

 ティーダは悪びれる様子もなくさっさと『臨時収入』をポケットにしまい込むと、勢いをつけて立ち上がり部屋を後にするべく歩き出した。

 「もう帰るのか?」

 「うん。外でセルシウスに待ってもらってるからね。・・・また来るよ。じゃあね」

 素晴らしく魅惑的な笑顔だけを残し去っていった伝説のガードを見送った後、ギップルは何の気なしに先ほど『買い求めた』お宝スフィアの電源を入れる。
 せめて、手元に戻ってきた大切なスフィアでも拝まないことには気も済まない。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?!」

 果たして、古ぼけたスフィアの粗い画像の中現れたのは記憶に新しいあの『魅力的な』映像ではなく、見慣れたセルシウス艦内と・・・

 「リュックばっかりじゃねぇか!!」

 流れる映像はほとんどがリュックばかり。
 隠し撮りもあればきちんと被写体として捕らえて映されたものもある。
 唖然とした表情のまま手にしたスフィアを確認するも、紛れもなく『あのスフィア』なわけで、いたるところを弄ってみるも、あの映像はどこにもなく、やがて最後に・・・

 

 

 

 『いい加減、キッチリさせたら?』

 

 

 

 「・・・根性、悪っ・・・!」

 それだけを言うのがやっと。

 もう、あのタチの悪い伝説のガード様をだまし討ちするようなことは、絶対にしないでおこう。

 最後に映し出された壮絶に意地の悪い笑みを浮かべたティーダの一言に、ギップルはただただ苦笑するしか出来なかった。

fin

はい!
前回の『アレ』決着編です。(爆笑)

無事に、女の子に知られることなく、元の持ち主の下へ帰りました。(笑)

ティーダはリュックの味方です。(笑)

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