[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
謹んで、新年のご挨拶。
Boys Talk 8
「お前な、普通こういう時くらい手土産の一つも持ってくるもんじゃねぇのか?」
新しい年が明けて、だからといってとりたてて何が変わるわけでもなく、相変わらずマキナと油にまみれた日々を送る自分の元へ悪友殿がやってくるのだと連絡を受けてから5時間後。
『何も変わることがない』と言いつつも、そこはやはり新年のことである。
気など使ってもらうつもりなどさらさらないが、他人を気遣うことに関しては群を抜いている奴の『細君』が、きっと何か用意したに違いない。奴を呼び出す際には必ず酒盛りをするのが慣わしで、だからこそ少しばかり『お土産』を期待してしまっていたのがそもそもの間違いか。
彼の道行の一番最後がジョゼ寺院だということが不運だったと諦める他道はなさそうだ。
「ああ、なんかユウナにいっぱい持たされたんだけどベベルとキノコ岩で全部消化してきちゃった」
勝手知ったる他人の家よろしく、シニカルな笑顔を浮かべた悪友殿は自室に転がるマキナを押しのけ悠然と腰掛ける。
「・・・消化・・・って、少しはこっちにも回さんか」
『消化』の単語で『土産』の内容が丸わかりなところが少し悲しい。
飲んでも飲んでもケロリとしているのだから、勿体無いことこの上ない。
「だってさ、ギップルにも持ってくって言ったら『勿体無いから飲もう』って言うし」
ベベルも、キノコ岩も、ろくでもない。
「今日はセルシウスは?」
せめてこの場を彩る『華』でもあれば『とっておき』の酒を出さないでもないのだけれど。
「ルカに寄ってからこっちにくるってさ」
大あくびと共にもたらされたのは少しだけ悲しい現実で。
「・・・飲むか?」
「飲む」
結局のところこうして、くつろぎまくっているスピラの大スター様へ『とっておき』を出してしまうのだった。
「ところでよ、お前達いつになったら結婚するんだよ」
気の置けない友人が『勿体無い』を連発しながら出してくれた酒はどれも美味で、アルコールの作用で身体がふかふかとする感覚を楽しんでいたところへの痛い一撃。
「・・・ぐ。」
直球。
もう少しこう、わかりにくく、回りくどく、答えやすいように質問できないものかといつも思う。
『アルベド人はわかりにくいのは嫌いです~!』と、脳裏で叫ぶ小柄な少女へ苦笑いを浮かべつつも、自分だって回りくどいことは苦手だと腹を括る。スピラに『還って』きて、もう3年。
こうして新年の挨拶などというザナルカンドでの生活では考えられないような恒例行事も実に楽しく、そして仕事も順調、愛すべき存在は今でも『どうしようもなく』愛しくて、まさに『言うことナシ』といった感じだ。
収入だって、結構ある。
自信だってついた。
それが自分以上にわかりきっているらしい『彼ら』は、事あるごとに『いつだいつだ』と聞いてくる。
「いつ、って言われてもなあ」
正直タイミングを掴めないというのが本当で
「年が明けたんだから良い話くらい出せってよ」
この話題になると途端に楽しげになる悪友こそ、『良い話』の一つでも出せばいいのにと切実に思うけど
「そっちこそ。捨てられても知らないッスよ」
「俺はいいんだよ。お前がまとまったら考えるわ」
「どこのオッサンだよ、それ」
視線を合わせて、そして笑う。
「まあね、考えてないことはないッスよ」
グラスの中の美酒を喉へ流し込んで
「右に同じ」
「だったらツッコミ入れんなよ」
「他人の事は楽しいからな」
男2人、痛い腹を仕舞いこんでひっそりと笑い合ったその瞬間ドアの向こうから聞こえてきた『騒音』に思わず顔を見合わせる。
「ギップルー!いるー?!」
『誰』などと聞かなくとも誰しもがわかるその声は、真紅の飛空艇が誇る『元気印』その人のものだ。
「もうアイツも来てるんで・・・あー!もう飲んでるしっ!!」
確認もせずに勢いよく開け放たれたドアの向こうには両手いっぱいの荷物を抱えたリュックが立っていて、その肩口からひょこりと顔を覗かせたユウナが恋人へ向かってふわりと微笑んだ。
「おめでとうございます、ギップルさん。あの、これお土産。きっと手ぶらで来てると思って」
「おお~!さすがユウナ様だねえ、ご推察のとおり手ぶらで来やがったぜコイツ」
そして一気に華やいだマキナだらけの部屋は祝宴のそれへと変わり、お互いの近況に話の花を咲かせたのだった。
小僧2人の視線が『余計なことは言うなよ』とお互いに牽制しあっていたことは、女の子は知らない話。
fin
新年一発目的なボーイズトークです。(笑)
実は、メールの内容で『好きです』とカミングアウトされる率NO.1のシリーズです。(爆笑)
気軽に始めたこの男の子シリーズもはや8作となりました。
このおせんべいシリーズ、忘れた頃に更新ですがよろしくということで。(笑)