今のこと、昔のこと。

 

Boys Talk 9

 

 「なんか、すげぇ不思議ッスね・・・。こんなにちっさいのにちゃんと人間の手だもんなぁ」

 生まれたばかりの幼子の小さな小さな手を恐々と弄びながら、奇跡の果てから生還した青年がため息をつく。
 その感想はここ何日かの間に幾度となく彼の口から零れ出たもので、最初の頃こそ何くれとなく相槌をうってはいたものの、今では小さく苦笑してみせるばかりだ。

 「あんたにもそんな時があったのよ」

 彼の世話を至上の喜びとする少女が不在の間の管理を買って出た美貌の姉が、感動しきりの青年の目の前に次々と料理の乗った皿を並べ、揺れる黄金の髪を軽く弾いた。

 「こんな時・・・ねえ」

 小さな寝息に青い瞳を細め肩を竦めたその瞬間、唐突に掴まれた肩に慌てて振り返るとそこには・・・3ヶ月前に紹介されたガラの悪そうな男が悪戯っぽい笑顔を満面に湛えて立っていたのだった。

 

 

 「ユウナ様はお出かけだって?」

 とりあえず仮住まいとなっている元青年同盟宿舎へと珍客を招き入れると、彼の人は腰を落ち着かせる間もなく言の葉を紡ぎだし、何の前ふりもなく繰り出されたその本題にティーダは呆気に取られつつも小さく頷くばかりだ。
 目の前にいるのは紛れもなく『あの男』。
 愛する人が紹介しておきたい人がいるからと案内されたあの寺院で、驚くでもなく、怒るでもなく、豪快極まりない大笑いをもってして自分を迎えたかと思えば、有無を言わさず熱砂の砂漠へ放り込んだ張本人その人だ。

 思えば散々な出会いはどれもこれも強烈ではあったものの、その際たるものはやはりこの男だろうと頭の片隅で振り返る。

 『久しぶり』でも『元気だったか』でもなく

 「・・・で?今日は何スか?」

 もしや『ユウナのいない隙に発掘に行ってこい』とか言うのではなかろうか?
 そんな想いをそのまま顔に書きなぐっているティーダが胡散臭げにギップルの動向を窺って

 「おいおいおいおい、そんなに警戒すんなって!今日は飲みに来たんだよお前さんと!」

 「・・・・・・・・・はあっ?!」

 自分の記憶力が確かならば、この男は確かマキナ派のリーダーであったはずなのに。

 「ユウナ様のいない隙を狙ってきたんだ、付き合えよ?」

 シニカルな笑顔でそう言い放ったギップルに、ティーダは苦笑まじりに肩を竦めて見せたのだった。

 

 

 月が中天にかかる頃、取り留めのない会話を交わしては愉快気に笑っていたギップルが急に真面目な顔をしたかと思ったその瞬間に切り出された本題に、ティーダはまたも驚かされることになる。

 「だからな?ザナルカンドの話をしろって」

 「・・・ザナルカンド・・・ッスか?」

 口元へ運んだグラスをテーブルの上に戻し、探るようにギップルを見つめる。

 

 

 ザナルカンド。

 それは自分の故郷であり、召喚士の行き着く果てでもあった場所。

 

 

 「『ザナルカンドから来たガード』って、お前のことだろ?」

 相対するギップルはしれっとそう言い放ち、空のグラスへ新たなアルコールを注ぎ、ぐい、と空けた。

 「う、ん・・・まあ」

 返事が歯切れ悪くなるのは、少しだけ嫌な思いをした過去があるから。

 「まあな、俺はどっちでもいいんだけどよ?その話が本当なんだったら、だ。聞きたいんだよ機械都市ザナルカンドのマキナのことをな」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・どうした?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・ぷっ」

 「ああん?」

 「ぐ、ぶははははははははっ!」

 「なんだあああ?!」

 いたって大真面目な質問だったはずだというのに、何故か目の前の伝説のガード様は大爆笑で、いよいよ酔いが回ったかと大慌てで身を乗り出せば、その様子を目の当たりにしてさらに大笑いをするではないか。

 「おい!だからなんだってい・・・っ」

 「だっ・・・くくくくっ!だってさ!リュ、リュックが言ってた通りだからっ!あは、あはははははは!」

 「言ってた通りって・・・俺は真面目にだなあっ」

 「だっだから、おかし・・・っはははははは!マ、マキナバカっ!!あはははははははっ」

 「マキナバカあああああああ?!」

 

 『マキナのことばっかり考えてるような男で、いっそのことマキナと結婚すればいい』

 幼なじみを端的にバッサリと切り捨てたセルシウスきっての元気印の言の葉が、あまりにもそのままだったから、真面目な顔をすればするほど可笑しいのだと息も切れ切れに教えると、苦虫を噛み潰したような顔で美酒を啜るからそれがさらに可笑しくて。

 

 「どうせマキナバカだよ、俺は」

 「わ、悪い悪い!何から話す?!う、うははははははっ」

 

 楽しげな笑い声は明け方まで

 そうして『つかず離れず』の友情が芽生えたのも、思い返せばこの日から

 今はいない愛しい人が、この珍客の話を聞いて色違いの瞳を細めるのはそう遠くない未来の話。

fin

 

クリクリで太陽捕獲して後に、馬鹿大将(ギップル)と並んで戦っているのを見て愉快気に笑っているのは私だけでしょうね。(遠い目)←(爆笑)

ユウナんはLMにおでかけ中です。
だからこれはLM設定のボーイズトークでございました〜。

topboys