ずっと言いたかったんだよな。たとえおせっかいって言われてもさ。
call
「あー。変わっちゃったッスねえ」
2年前は厳かな空気に包まれていた広間のいたるところに転がるマキナを見て、ティーダは呆気にとられたように呟いた。
「おう!こっちだ!悪ぃなあ、わざわざ来てもらっちまって」
広間の奥から陽気な声が飛んでくる。
視線を声の下方向へ向けると、そこにはマキナ派のリーダー・ギップルが人懐こい笑顔で手を振っていた。一週間前カモメ団に砂漠発掘の依頼をしてきたのが、誰あろうこのギップルである。
連日行われている発掘作業員の面接で人手こそ増えていってはいるものの、東部や北部といった難所を任せられる人間は少なく、それでも発掘の手は広げたいというギップルが思いついたのが今回の依頼だったのだ。
ユウナからビーカネル砂漠の話を聞いていたティーダが、喜び勇んで参加したのは言うまでもない。契約期間を終了し、その報告と発掘アイテムを届けるためジョゼ寺院へやってきたのはつい今しがたのこと。
弄りかけのマキナが乱雑に転がっているギップルの部屋を興味深げに見回しているティーダに、リーダー自ら茶を入れる。
「どうも」
「いやいや、ご苦労さんだったな。おかげでいい部品がガッツリ手に入ったぜぇ?報酬も奮発しておいたからな、またよろしく頼むわ」
「オレも面白かったッスよ」
カモメ団に入って半月ほど経った頃、ティーダは目の前に座るギップルをはじめ、青年同盟のヌージ・真エボン党のバラライへ、立て続けに紹介された。
元来、人見知りをしない性格のティーダは、この3人ともあっという間に打ち解け、中でも特に『馬が合った』のが、このギップルだった。気さくで、一見軽そうにも思うが人を見る目はあり、尚且つ統率力も持ち合わせているらしいこのマキナ派のリーダーは、シューインに酷似しているティーダに 初めこそ目を丸くしていたものの、すぐに別人だと看破するや否や抱きついてきたのである。
「そういえば、今日はユウナ様は?」
当然のように隣に居るであろう彼女の姿が一向に現れないことに、ギップルはいぶかしむようにティーダへと問う。
茶を啜りながら、手近にあったマキナを弄びつつギップルを見て、「ビサイドに行ってる。ルールーが病気でね。イナミの面倒を見に行った」
と言い、苦笑してみせる。
「へえ!アンタ達でも別行動する時があるんだなあ!」
ひどく感心したような顔で大真面目に言うギップルがなんだか可笑しくて思わず吹き出してしまったが、それでも笑いを堪えながら、やっとの想いでティーダは説明する。
「そりゃ、あるッスよ!今だってスフィアハントは、あの3人が行ってるんだぜ?」
「・・・マジかっ?!」
「マジッすよ。そこ、そんなにビックリするところ?」
「いや、アンタなら絶対について行くと思ってたから」
キッパリと言い切るギップルに、自分たちが傍からどのように見られているのかが容易に想像がつく。
スフィアハントの件にしたって、リュックなどは『ユウナと行け』と、それはもう五月蝿かったのだ。
さすがに、危険そうな場所にはついて行くつもりではある。
女の子だけで行動させるのも 心配でないと言えば、嘘だ。
けれど、自分が『そこ』へ入っていくのは何か違うような気がしたから、基本的には『今まで通り』のスタイルで行こうと決定したまでのこと。当のユウナも、ティーダが行くと言ってきかないであろうと予測していただけに、少し拍子抜けした感も否めないながらも、今までどおりリュック・パインと行動を共にすることに関しては嬉しかったようである。
「・・・ってことは、シドの娘もビサイドか?」
何の気なしにギップルの口からでた一言に、ティーダはちらりと視線を上げた。
本来なら、結果報告など通信スフィアで十分事足りるのだ。
そこをわざわざ、ユウナと行動を別にしてまでジョゼで飛空挺を降りたのには、それなりの理由がある。射抜くような視線をギップルへ送りながら、ティーダは口元だけ笑ってみせた。
「『シドの娘』って?」
「えっ?!シドの娘って言えば、シドの娘だよ。元気にしてるか?」
「だから、『シドの娘』って言えば、『シドの娘』って・・・誰?」
もう、口元すら笑っていないティーダにギップルは目を丸くする。
「リュ・・・クだけど・・・」
唖然としながらも紡ぎだされた『シドの娘』の名前を確認すると、ティーダは猛烈な勢いで話し出した。
「そう!リュック。リュ・ッ・ク!!」
「わっ!わかってるよ!!」
「わかってないッス!!」
たじろぐギップルの鼻先へ『ビシ!』と指をつきつけたティーダは、少しだけその青の瞳を細めてマキナ派の若きリーダーの顔を覗き込んだ。
「オレ、初めてソレ聞いた時から気になって仕方なかったんスよね。大体ねえ、ユウナもパインも名前で呼ぶのに、どうしてリュックだけは『シドの娘』なわけ?」
「な・・・なんでだろうな?」
「笑って誤魔化そうとしても無駄ッスよ」
まさに『笑って誤魔化す』つもりでいたギップルは、ティーダの冷たい先制攻撃に固まってしまう。
今やティーダに詰め寄られて壁際まで追い詰められたギップルは、押し倒されんばかりの体勢だ。「もしかして、お前、そんなことを言う為だけに此処へ来たのか?」
「『そんなこと』を言う為だけに来たッスよ」
ティーダは憮然とした表情のまま、その場へ座りなおしてそう告げた。
最初こそ勢いに呑まれてたじろいでしまったが、『そんなことを言う為だけ』に此処に居る目の前の青年が、なんだか酷く可笑しくなって、つい笑ってしまう。「あはははははははっ!参った!!さすがユウナ様の想い人だ!」
手を叩いて大笑いするギップルに、思い切り顰め面をして見せたティーダが立ち上がった。
「悪かったッスね、どうせ馬鹿ですよ。でも、ちゃんと名前で呼べよな」
キッチリ、しっかり、それだけは釘を刺すように言うとティーダは出口に向かって歩き出す。
「お・・・おい!もう帰っちまうのか?!・・・って、どこに行く気だ?!」
飛空艇はビサイドへ向かって航行中である。
迎えに来るといっても後半日はかかるはずだ。
慌てた様子のギップルに、ティーダは戸口で悠然と振り返りにやりと笑うと、「ルカまで」
しれっと発言したものである。
「はあ?!ルカだって?チョコボでも使う気か?」
「いや?歩きッスよ。運動しないと鈍るから。今から出れば、ワッカ乗せたセルシウスがルカに到着する頃には入れると思うし」
ギップルは、いくらなんでも無茶だと内心絶句する。
スピラが平和になったとはいえ、いたるところに魔物は出現するのだ。「ホバーか何かで送・・・・・・」
そう言いかけて、ある事実に気がついた。
そうだ。
目の前のこの青年は、『永遠のナギ節』をもたらした『伝説のガード』その人ではないか、と。
水を形にしたような大剣を軽々と肩に担いで艶然と微笑むティーダに 『敵わないな』と、心の中で白旗を振ってみせる。
「それじゃ、また来るッスよ」
「おう。またな、おせっかい」
おせっかいも甚だしいことくらい、ティーダ本人が一番よくわかっているのだ。
けれど、あの愛すべきアルベドの少女が、ギップルのことを憎からず想っているのがわかるだけに、せめて名前で呼んでやってはくれないか、と切に願う。愛しい人から呼ばれる自分の名前ほど、幸せな響きはないのだから・・・。
ティーダをジョゼで降ろしたセルシウスへ通信が入ったのは3時間ほどしてからのこと。
それは、たった今ティーダがルカへ出発したことを告げる内容のもので、予定通りに行けば今日の夕方には目的地に到着しているだろう、と スフィアの向こうのギップルは豪快に笑いながらそう言った。
『今度はお前も一緒に来いよ、リュック』
言い逃げるように切られた通信スフィアの前で、驚きで目を丸くしながらもその後、嬉しそうに微笑むリュックが居たことを、ティーダが知るのはもう少し後の話・・・・・・・・・・・・・。
fin
ギップル×ティーダ第2弾。(爆笑)
プレイ中、マジでティーダと同じように思っていた私。(苦笑)
『昔付き合ってた』は嘘だと思うので、彼らはこれからでしょう。(ニヤリ)
だって、付き合ってる暇ないと思うから・・・。(笑)ギップルとティーダのお友達関係は、書いてて非常に楽しいのですが、
いかがでしょうか?(どきどき)