初めて『彼』を紹介された日を思い出して小さく笑う。
何かの因果かと
罪も罰も忘れるなと
まるで神がそう言っているようだと
神など、最初から信じてなどいなかったくせに―――。
Boys Talk 11
何の前触れもなく現れた彼の人に、どう声をかけたらいいのかわからずに曖昧な笑顔で出迎える。
『忙しそうだけど、暇?』
屈託のない笑顔で辻褄の合わない質問をされて、先刻の曖昧さを忘れて思わず苦笑した。
「暇といえば暇だね。今は本当に」
「そっか。そのわりには休んでないって皆言ってたッスよ?」
『皆』。
多分ここへ通されるまでの道々、愛想の良い彼のことだ僧官と世間話でもしてきたのだろうと容易に想像がついてしまうから可笑しくて。
「君こそ忙しそうだけれど、こんなところまでどんな用向きで?」
彼が、ブリッツボールプレーヤーとして華々しいデビューを飾ったことは聞いていたから嫌味でもなんでもなく、ただ素朴な疑問としてまず一つ。
「う〜〜〜ん。それがさあ、なんだかどうにも気持ちが悪くてどうしても会いたかったんスよね」
「・・・僕に?」
『そう』と笑顔で肯定されて少しだけ戸惑う自分がいる。
『どうしても会いたかった』
彼は今確かにそう言ったけれど、『真エボン党議長』という肩書きを外した自分に『会いたかった』などという単純な理由で尋ねてくる人間がいるなどということが信じがたかったのもまた事実。
何より、今目の前にいる『彼』に紹介されたのは本当に最近のことで、旧知の仲ならいざ知らず、自分に言わせれば『昨日今日』の間がらだ。「何故?」
当然の疑問。
彼が、自分の肩書きを面会とする理由が見つからないから。
これしかないけれど。
そう言って渡した何も入れていない苦いだけのコーヒーを受け取った彼の人はイメージ通りそのままの笑顔で受け取って、照れたように熱い液体を啜るから、何やら申し訳ないよう思えて可笑しくて。
「オレさ?」
手にしたカップの中の琥珀色の液体に視線を落とし祈るような声音で紡がれた言葉に心臓が飛び跳ねる。
「オレ、なんかさ、紹介された時の第一印象っていうの?すっごく、こう、悪くってさ?」
言いにくいことを無理矢理搾り出す様に紡ぐ様が痛々しいと思うのは、やはり過去への悔恨が胸の奥底で燻っているからだということには目を瞑り
「そうだろうね」
そう、聞いている己でさえも寒々しいと思える言の葉を平気で紡ぐ。
「うわ!あのさ!誤解しないでほしんだけどっ!あの!印象が悪いっていうのは他に理由があって!!」
「・・・理由?」
気分を害するでもなく、素直に正直にそう思えたから言った『そうだろうね』の一言に、まるで風船が破裂するような勢いで顔を上げた彼が叫ぶ。
「・・・・・・っオレさあ!かっこ悪いんだけどものスッゴイ後悔したことがあって!」
「・・・うん?」
「もう、その後悔っていうのがこれから先の人生で後にも先にもないってくらいのもんなわけ!」
「・・・ああ」
熱かったコーヒーが冷めてしまうまで
『あの人』と僕が重なったのだと懸命に伝える彼が、あまりに一生懸命で言の葉をつむぐことさえ忘れ笑顔さえ浮かべる僕を見て、スピラの歴史上『後にも先にもない』はずの英雄が矢継ぎ早に言の葉を紡いでは所在なげに黄金の髪をかいた。
「今日は良かった」
帰り際に彼が言う。
「・・・良かった?」
心底不思議だから僕が問う。
「ああ、やっぱりオレ、ここに来て良かったって思ったから」
『良かった』と。
照れて微笑むその姿が。
「・・・君は・・・スピラの神なのか?」
救いの手が
同じように未来が
痛いくらいに
切ないほどに
「まさか。ああそうだ、これからはバラライって呼ぶから」
『またね』と笑顔で告げられ、つられてこちらも右手を上げた。
まるで親しい人を送り出すような仕種で
恥ずかしくなった
けれど
それでも
小さくなる彼の背中に救われたような気がして
音に出せば感じた以上に救われる気ががして
「これで、良かったと思うかい?」
まるで僕だけ救われて
青空に黄金が輝いて、その眩しさに瞳を閉じる。
ああ、君はなんて器用なのだ、と。
『僕』は『僕』なのだと『神』に認められたように思えて。
だいぶ小さくなった彼の影が勢いよく手を振るのを見て、僕は『友人』へ向けて小さく手を降り返してみせたのだった。
fin
Boys Talk番外編2です。(^^)
意外にキライでない議長×太陽のSSでした。
議長萌えな方にお贈りするSSでございます。(爆笑)
上手く書けていればいいのですが。