6年って、長い?短い?
6年目。
振り返ると「あっという間に」という気持ちの方が断然大きい。
シンを倒すべくユウナ達と駆け抜けたあの日々の方が、「あっという間」というべきではあるけれど、あの旅は、そう、時間とか、年単位とか、そんなわかりやすい形容詞が当てはまるような日々ではなく、もっと刹那的だった。
話す事、笑う事、彼女の背中をただ黙って見つめる事も、自分を取り巻くすべての事が一瞬で、時折、あの日々を振り返れば、脳裏を過ぎる言葉は「ずっと走ってたなあ」
なのだ。
出会ってから、別れまでの数ヶ月。
そして、今、別れてから再会して5年が過ぎた。
もしかしたらあの頃の自分は、先を行くユウナに追いつきたかったのかもしれない。
断崖絶壁の先、道が途絶えているのだとわかっていても尚、笑顔で踏み出そうとしていたあの華奢な背中を後ろから抱きしめて、こちら側へ引き寄せて、「もう心配ないから」と伝えたかったのかもしれない、と。ただ、伝えたいことが現実になったのなら、途端に己の足元が崩れていくことも承知で。
祈り子達の言葉の裏に隠された真実に、ユウナが気がつかない訳もない。
遠慮がちに訊ねられて、必死に誤魔化すしか手立てがなかった自分は、滑稽だったし幼かったのだと思う。
アーロンに促されるのでもなく、流れに諾々と身を任せたのでもなく、自分で走り抜けると決めたあの日々は、結果としては満足できるものではあったけれど、ユウナに言わせれば「勝手」なんだそうな。そんな会話が出来るようになったのも、ここ最近の話。
なんとなく話しそびれていた話題だっただけに、あの頃の気持ちだとか、飲み込んだ言葉だとかが止め処もなく溢れて、困ったように笑うユウナは、記憶の中の「17歳の彼女」だった。「なにか心配事でもおありですか?」
不意に、柔らかな声が耳元に届いた。
それはたった今脳内で自分を詰っているユウナの声であるけれど声のトーンはまったく違う。
当時のユウナはといえば、17歳の少女にしてはとても落ち着いてはいたけれど、それはもう必死に背伸びをしている感じで、しかし今の彼女はといえば「幸せにどっぷり身を浸からせてもらっています」と言って憚らない、立派な大人の女性に変貌していた。「う?!ああ、ごめんごめん!ユウナに攻めてもらってたッス・・・妄想で」
「・・・もそうそ・・・っ!?や!えっち!」
「・・・えっちって・・・なんかそれ心外」
歳を重ねて、それはもう美しくおなりの恋人の、ただ一点だけ変わらないのはこんなところ。
こう言えば困るだろうな、とわかっていて繰り出す台詞に、悉く素直に反応して赤面するのだ。「キミの普段の行いがそう言わせてるんですう」
ささやかな抗議の言葉と共に差し出されたカフェオレを受け取って、苦笑い。
「それはそうかも。だけどユウナが嫌だって言うなら、努力して改めますけど?」
そう、あの時はこんな言葉遊びすら、許されていないような気がして。
「もう、意地悪ね。別に、嫌っていうわけじゃないもん」
隣に座り、ぷう、と脹れたユウナの頬に軽いキス。
「ユウナ?」
「なあに?」
呼びかければ返される優しい声に、過去も、今も、そして確実にこの手にあるだろう未来も、ずっと救われていくに違いない。
「あのさ、今更なんだけど」
「・・・・?」
共に生活するようになって6年目に入る今日。
本当に今更過ぎて、少しだけ恥ずかしい。「結婚、しない?」
「・・・っ?!」
突然のプロポーズに、驚きで見開かれた色違いの瞳へ、もう一度。
「結婚式。今更なんスけど・・・ダメ?」
「だっ・・・!だめじゃない!全然!だめじゃない!・・・う、うれしい、よ?」
薔薇色に染まった頬を誤魔化すように俯くユウナへ、「よかった、ありがとう」と囁いた。
実際、この一言を言えるまでの6年間は自分のこととはいえ「長かった」とは思う。
もしかしたらこれは夢で、夢の中で夢を見ているだけの存在で、いつか、もしかしたら何かの拍子にあっという間に覚めてしまうかもしれない。
過去、この身に実際起こった事を思えばこそ不安にもなったし、しかしその反面、漠然と「大丈夫」とも感じてはいたのだけれど。そして、おぼろげに決めていた「5年」という区切りが終わった。
何事もなく、5年間、スピラに在り続けられたなら、もうある日突然消えたりなんかしないだろう、などと考えた17歳の自分は臆病者で幼くて。
「待たせちゃって、ゴメン」
それは、本当に心から。
「うふふ、わたし、ちっとも待ってなかったよ?・・・一緒にいたもの、ずっと」
ユウナが笑った。
こちらも、つられて笑った。
手をとって、指を絡ませて、顔を寄せて、キスをする。
「あー。やっと言えたッス」
彼女の膝を抱え込むように倒れこんで、口をついて出た情けない言の葉はユウナが笑うことで救われた。
fin
2007.7.21up
FF10発売6周年に寄せて。