伝えても、伝えても、追いつかないくらいに。
アイ・ラブ・ユー
『今日一日、私に向かって『スキ』とか『愛してる』とか『可愛い』とか言ったらダメっすよ?』
朝起きて、好きで好きでたまらない可愛らしい顔が目の前にあって、思わず『おはよう』と言う前に『ユウナ可愛い・・・』などと呟きかけたところへの杭打ちだった。
「・・・冗談ッスよね・・・?」
もそもそと起き上がり愛想笑いを浮かべユウナの様子を窺う自分に、最愛の彼女はいとも簡単に『本気っすよ?』と言い放ち艶然と微笑んだのだ。
恐る恐る約束を破った際のペナルティーを尋ねたティーダに返ってきたのは『1週間一緒に寝ない』という世にも恐ろしげな内容で思わず天井を仰いだくらいだ。
その笑顔はまさに先ほど宣告した内容が本気であると肯定しており、これはもうユウナの言うとおりに今日一日ガマンをするしかなさそうだな、と諦めて『了解』と答えたのは2時間前―――。
「がああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ユウナに気が付かれない様にコッソリとやってきた甲板の舳先で思い切り叫ぶ。
スピラ上空は本日も快晴。
もしもビサイドにいたりした日にはワッカがすっ飛んできて『練習だー!』とか叫びそうな青空。
身体全体に感じる風も心地いいけれど、今の自分にその感触を楽しむ余裕はないな、とティーダは独り苦笑した。
昔から割合と思ったことは即実行するタイプ。
だから、『こうしたらいいな』と思うことはやってみるし、発言に関しても然りではある。
「こんなにストレス溜まるとは思わなかったッス・・・」
立ち尽くし、うなだれて、感情の赴くままに零れ出たのは、情けなさ大爆発のそんな愚痴。
侮っていたのだ。
他でもない『自分』を。
どんなにユウナが可愛かろうと一日くらいは我慢出来る!と余裕の表情すら見せていたというのに。
けれど、『約束』をしてからまだ2時間しか経っていないというのに、もう、今すぐにでも『可愛い』『スキスキ』と連呼して差し上げたい。
「・・・ユウナが悪いッスよ・・・可愛すぎ・・・・・」
その場にへたり込むように座ったティーダが半泣きで呟いたその瞬間、後方のハッチが開く音と聞きなれた軽やかな足音が耳に滑り込んできた。
「ここにいたんだ。いいお天気だもんね、今日」
先ほどの自分の雄叫びなどつゆとも知らぬ涼やかな声が幾分楽しげな空気をはらんで近づいてくる。
そして自分の隣へ到着したユウナはそれはそれは愛らしく微笑むに違いないのだ。
自分の中ではもうすでに、『ユウナが何故突然あんな事を言い出したか』よりも、愛しい少女へこのだだ漏れの愛を伝えられないことの方が死活問題になりつつある。
ぶっちゃけ『しんどい』。
『可愛い』と思った時に『可愛い』と言いたいし、それとほぼセット状態になりつつある『好き』だって伝えたい。
周りからどんなに呆れられようともユウナが嬉しそうに頷いてくれたらそれだけで満足だと言い切る自信だってある。「ティーダ?」
ほら、また。
そういう可愛い顔で名前呼ぶし。
「ユウナ様、降参。ダメ?」
のろのろと立ち上がり、大きなため息と共に吐き出すようにお許しを請うた。
そんな崖っぷちに立たされている様な気分そのままの表情のティーダに、ユウナは思わず声をたてて笑いながら小さく頷き愛しい青年の頬へ口づけた。
「いいよ?」
「・・・ほんとッスか?」
ティーダは条件反射で思わずユウナの腰に手を回し、愛して止まない色違いの瞳を覗き込む。
「本当。・・・っていうか、私も降参っす」
「へ?」
予想だにしなかった恋人の『降参』の一言を理解しきれずに固まってしまったティーダに、ユウナは朝からずっとおざなりになっていた『理由』を楽しそうに話しだした。
「ほら、キミってね?いつも、その、『可愛い』とか、『好きだよ』とか言ってくれるでしょう?あんなに連呼してたら威力も激減するって言われて、そうなのかなーって思って・・・」
「・・・・・・・・・・・・リュックだろ、それ」
「な、なんでわかったの?!」
驚くユウナを見て『わからいでか』と心の中で凄まじく大きなため息を一つ。
素直で少しだけ抜けてる自分の恋人に、『そんなこと』を『吹き込む』のはあの『元気印』以外誰だと言うのだ。
もうその言葉だけで『誰』にそう言われたのか解ってしまう自分が少しだけ悲しいかもしれないほどに、今まで散々遊ばれてきたというのに。
ユウナを、というよりも毎回振り回されて悶絶している自分を見て楽しんでいるらしいアルベドの少女を一体どうしてくれようか、と思案に耽っているティーダをユウナが心配そうに覗き込んできた。
「・・・怒った?」
「まさか。ユウナ可愛いなあって思って」
お許しが出たところでようやく『ストレス発散』に勤しむ。
可愛い可愛い。
威力が激減だろうがなんだろうが、そんなことはどうだっていい。
言葉で安心してもらえなければ、この身すべてを捧げてどんなにユウナを愛しているのかわからせてあげる方法だってあるのだ。
ティーダは艶然と微笑み『威力』について考えていたらしいユウナに、今度はこちらから質問する番だと言わんばかりに立て続けに言の葉を紡いだ。
「で?威力については違いはあったんですか?」
「え?えと・・・なかった、かな?」
当たり前。
そもそもこの溢れんばかりの自分の愛は『威力』などという次元の話ではないぞ、と密かに思う。
幾度となく繰り返し伝える『想い』は、いつでも、どんな時でも『100%』なのだから。
「じゃあ、なんでユウナが『降参』?」
腰にまわしたままの腕に力を込めて更に引き寄せた。
近くで見たら絶対に『可愛い』と言ってしまうに違いなかったから、今朝から少しだけ距離を保っていた『ストレス』も、この際だから発散させてもらうよ?と笑顔の下に見え隠れさせながら笑みだけは崩さない。
「キス、する前に教えて、ユウナ?」
唇が触れ合う寸前でその動きを止めて。
「え・・・う、あの・・・ね?」
視線の距離があまりに近く恥ずかしいのか、頬を薔薇色に染めたユウナが思わず視線を逸らしかけたけれど、もう一度、低い声で彼女の名前を呼ぶことでその動きすら封じて。
「いっ・・・意地悪言ってごめんね?!もう言わないから、あの・・・・・・意地悪、しないで・・・」
もういい加減我慢も限界だったところに必殺の上目遣い。
しかもご丁寧に『ウルウル』というオプション付きだ。
確実にノックアウトされているのは自分の方だけれど、今は少しだけ余裕ぶってみたって罰は当たらないはずだ、と密かに思う。
「しょうがないッスねぇ。・・・じゃあ、キスしてからな?・・・・・・・・・・・愛してるよ、ユウナ?」
伝えても、伝えても、追いつかないんだ。
君に溺れて。
君に酔って。
君だけしかいらないくらいに全身全霊で愛してる。
『『愛してる』って言ってもらわないと、ムズムズするの』
長い長い口づけの後 小さく呟いた可愛らしい恋人にティーダは『笑顔』のオプションつきで、いつでも最大級の『愛してる』を贈ったのだった。
fin