「ダメ?」と聞かれれば「ううん」と答えてしまう。

 きっと彼の瞳には不思議な力があるに違いないって、確信めいた気持ちでそう思う。

 

 イジワル。

 

 毎年、他人のそれは驚くほどに憶えているというのに自分の記念日にはまったく頓着がないと言っても過言ではない恋人が、何故か今年のその日に限っては朝からとても上機嫌で一つの提案を持ちかけてきた。

 「プレゼントの代わり?」

 「そう!オレ、今はこれといって欲しい物ってないし、誕生日プレゼントの代わりにお願いがあるんスよね!・・・それじゃダメ?」

 夏の、それも一番暑い時期にこの世に生まれた恋人の今の職業は、『召喚士のガード』でもなければ『スフィアハンター』でもなく、ブリッツボールのプレーヤーだ。
 落ち着いてお互いの誕生日を祝えるようにはなったものの、彼の記念日はその天職ともいえるブリッツボールの最盛期にあたり、『祝う』と言ってもルカの、それもスポンサーが用意してくれているホテルの一室のことで、結局は外で食事をして、コッソリと用意しておいたプレゼントを渡すという以外に手立てがないところに件の『お願い』である。

 自分にとっては願ってもない申し出だと、あの時は、あの瞬間は、そう思ってはいたのだ。

 ―――過去形で。

 

 

 

 

 

 

 「えええええええええっ?!やっ、やだやだ!そんなことできませんっ!!」

 何やら普段より若干浮かれ気味のスターの活躍によって今日のオーラカのトーナメント戦は気持ちが良いくらいに快勝だった。
 試合後の食事会にも出席せず一目散に舞い戻ってきた恋人が、出迎えた彼女に満面の笑みをもってして開口一番告げた約束であるところの『お願い』に、一瞬で全身を桃色に染めたユウナが絶叫しながら部屋の片隅へと後ずさる。

 「えええええええええっ?!だってユウナ今朝『いいよ』って言った!!」

 窓際まで逃げてしまった愛しい少女へ大股で歩み寄りながらティーダが盛大に抗議の声をあげた。

 「そっ・・・!そんなお願いだったら言わなかったもんっ!!」

 歩み寄られた分と同じ距離を壁沿いに移動するユウナも必死に抗議。

 「約束っ!オレ誕生日っ!!」

 「お誕生日忘れるくせにズルイ!!」

 一般の客室よりも若干広めの一室を宛がわれているとはいえ、ユウナが『伝説のガード』様で『自分の恋人』の追尾から逃げおおせていられたのも時間の問題で、あっという間に部屋の片隅に追い詰められると逞しい腕の中に閉じ込められてしまう。

 「ユウナ?」

 最近、わかっていてわざと『そう』するのだと信じて疑わない、少しだけ掠れた低い声が耳元で甘く響けばこの後自分は絶対に『否』と言い切れないのも覚悟して。

 「・・・ダメ?」

 「・・・だ、だめ。恥ずかしいも・・・」

 「オレとユウナしかいないのに?」

 合わせたら最後だと思って必死に逸らした視線を追いかけてきて、普段他人には絶対に見せないような甘ったるい笑顔で笑うから。

 「・・・・・・・・・・お風呂、入る」

 「やったぁ」

 結局頷いてしまうダメな自分に内心盛大に呆れながら、ユウナは所謂『心の準備』をするべく浴室へと向かったのであった。

 そうして、浴室を覆う白い湯気を見ながらドアの向こうで嬉しげに待っているであろう恋人を考える。

 次から次へと。

 まるで自分を困らせては楽しんでいるフシも見られなくもないけれど。

 「・・・でも、大好きなんだよねぇ・・・」

 子供みたいにはしゃぐ彼の顔が脳裏を過ぎって小さく苦笑しながらも、『心の準備』を整えた彼女はゆっくりと立ち上がったのだった。

fin

 

ご想像におまかせします。(大爆笑)

第一声がそれか、オレ。

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