想うだけで
言葉にするだけで
こんなにも幸せだと感じられるのはどうしてなのでしょうか?
THANKS
『すっかり幸せボケをしている』と、大好きな従兄妹が呆れたようにそう言った。
立ち止まってるのかな?
そう見えるのかな?
彼から与えられる『幸せ』に浸りきっておかしくなっているのかな?
ささやかな自問自答。
けれど、答えなんて初めからわかりきっている。
彼をこの手でしっかりと抱きしめたあの日、全力疾走していた自分のゴールが見えたような・・・そんな気がした。
召喚士になる為の修行の日々も
祈り子達と言葉を交わしたあの日々も
彼を、手放してしまったあの日々も
『終わり』が何処にあるのかさえもわからないまま、ただひたすら映りゆく時に目を背け走り続けていたような、そんな自分が過去に居て。
そんな自分を認めたくなかったから、尚更にひた走って。
そして、『終わり』と共に現れた『始まりの日々』。
幸せで、幸せで、こんなにも自分だけが幸せでいいのだろうかと申し訳なくなるほどに幸せで。
立ち止まっては、いないよ?・・・そう言って笑った。
むしろ、立ち止まっていたのは走り続けてた過去の自分だと、今なら素直にそう思う。
変わり映えのしない日々。
小さな食卓に並ぶ2人分の食事。
南国特有の強い日差しに反射して輝く白いシーツ。
2人で植えた花。
目まぐるしかった時が、穏やかにゆったりと移ろい、視線を少し動かすだけで愛しい黄金がふわりと揺れる。
なんて幸福な日々。
これが『幸せボケ』なのかな?と心の中で小さく苦笑もするけれど。
「ユウナ〜?だからさぁ、一緒に行こうって!」
『幸せボケ』に身を委ねていたユウナの背後から愛しい人の甘ったるい声が飛んできて、そこでようやく我に返り、洗いかけの食器を片付けにかかる。
確かに少々幸せに浸りすぎの感も否めないな、と頭の片隅で反省しながらユウナはこの日何度目かもわからない『行きません』を恋人へ投げ返した。「ワッカだっていいって言ってるッスよー?!」
お気に入りの白いソファーに陣取り、少しだけ拗ねたように言の葉を紡ぐ彼の人は、明日からの遠征合宿にユウナを連れて行こうと再三再四の『おねだり』中だ。
「もう、キミは遊びに行くんじゃないんだから」
「お仕事ッス!」
「でしょう?私はここでお留守番してます」
この再三再四のおねだりは今日に始まったことではなく、遠征合宿の日程が組まれたその日からの攻防戦ゆえ、もう半月は経っていようかの長期戦。
『ユウナがいないと身が入らない』だとか
『ユウナがいないと寂しい』だとか
果ては『他の女の子に目移りするぞ』などという、まったくもって信憑性の欠片もないささやかな抵抗にも物ともせずに、ユウナは笑顔で『行きません』を繰り返していた。
「一緒に行けば楽しいッスよ?」
「そうっすね?」
出発を明日に控えても尚、諦めない恋人の隣へ座り小さく苦笑。
本心を言ってしまえば、行きたくないかと問われれば『否』に決まっているのだけれど。「あ〜あ〜!!ユウナ、言い出したら曲げないんだもんなー!!」
ティーダは盛大なため息と共に隣に座る恋人の膝の上へ倒れこみ、柔らかな愛しい感触をその身に刻むように頬擦りを繰り返す。
「キミだって諦めないよね、特にこういうことに関しては」
ふわふわと太股をくすぐる柔らかな黄金の髪をゆったりとした動作で梳きながら、ユウナも負けじと言い返す。
「ユウナの事に関してだけッス」
さらりと言ってのけられたその一言が、過去のあの日と重なって。
「私もキミの事に関しては、もう、想いを曲げたりしないって誓ったっす」
歌うようなその声を驚いたように見上げる青が愛しくて。
「あのね?」
差し出されたティーダの手を問いかけと共に握りしめて
「うん?」
嬉しげなその声に、やっぱり自分も嬉しくなって
「キミの事大好き」
自然に、零れ出る愛の言の葉
「・・・・・は、あ・・・うん?!ユ、ユウナもう一回言って?!」
慌てて起き上がろうとする恋人の身体を押さえるようにその身をかがめ、日向の匂いがする黄金の髪へ口づけ笑う。
『好き』だと
『愛している』と
想うたび
感じるたび
声に出して伝えるたびに、こんなにも幸せだと感じてしまうのはおかしいだろうか?
「・・・やっぱり、幸せボケしてるのかな?」
「オレは幸せボケしてるッスよ?」
目を見合わせて『うふふ』と笑い、そして今日もゆったりと歩く・・・喩えるならそんな日々。
fin