「理性」って、誰かオレにわかるように説明してくれないかなぁ。

 

それは迷信。

 

「ヤバイ」

それが正直な感想だった。

何を今更、と別の自分が呆れて物申している事は認める。
普段の我が身の行動を振り返れば、それはもう『認める』なんて
可愛らしいものではない事も重々承知の上だ。

けれど。

この広い飛空艇に。

愛してやまない彼女と。

名実共に『2人っきり』であるこの状況は!

それはもう凄まじく!!

『ヤバイ』のだ。

探査機に微弱なスフィア波が認められ、早速現地へ赴いたまでは良かった。

カモメ団に所属していながら いまだしっかりとスフィアハントに出かけていない自分はそれこそ『意気揚々』と出て行こうと思っていた。

そう。

ユウナが熱さえ出さなければ。

折りしも現場は霊峰ガガゼト。

誰もがその心地よさに心を奪われる秘湯が存在するその場所に、スフィアハントに出たリュック・パインは別としてセルシウス乗組員全員が出て行ってしまうというのはいかがなものか。

これはもう『ユウナの発熱』に『留守番』が出来たと便乗したに他ならない。
今頃秘湯にどっぷりと頭まで浸かり、気の抜けたため息でもついている頃だろう。
愛しい少女の病状が心配なティーダは当然居残りなわけで、そうなると、今現在この飛空艇に残っているのは自分とユウナだけだ。

 

「も・・・オレ、信じられねぇ・・・」

盛大なため息と共に吐き出された呟きは自分の右手へと注がれる。

熱の為に普段よりも幾分熱い白く愛らしい手がしっかりと自分の手を握り締めていた。
その小さな手の主の眉は発熱の為苦しげに歪められており、いっそのこと代われるものなら代わってやりたいとさえ思う。

 

なのに。

心配で仕方がないというのに、そんな彼女の苦しげな表情に欲情している自分がいる。

浅い眠りの中苦しげに吐き出される熱い吐息にも

発熱の為に薔薇色に染まっている愛らしい頬にも

少しだけ汗ばんでいる首筋にも

不謹慎極まりないとは自分のことではないか。

せめて、握り締められた手を離すことが出来たら、とも思うけれどそれはそれで「出来ない」し、「したくない」。
もう、勝手なことこの上ない。

「2人しかいない」というこのシチュエーションがすべて悪い、と苦しい言い訳をしつつ、ティーダはもう何度目かわからないため息をついた。

 

「・・・・・ティ・・・・・・・ダ?」

 

ざわついている自分の心が煩かったのだろうかと思えるほどのタイミングで、ユウナがゆるゆると目を覚ます。

「ごめん、起こした?」

努めて冷静に、と念じながら微笑みと共に返された言葉は少しだけうわずっていたけれど。

「みんなは?」

「リュックとパインはスフィア探しに行ったよ。残りは全員温泉」

「全員?」

「そ、全員」

ユウナの為を思えば 熱があるのだから寝ている方がいいけれど会話していると余計なことを考えないで済む分非常に気は楽だ。
紡ぎだされる言葉の力強さに、ピーク時よりは熱が下がっているのがわかって一安心。

「まだ当分は帰ってこないと思うッスよ?だから、まだ寝て・・・」

「変な夢、見ちゃった」

気遣うティーダの言葉を遮る様にユウナがぽつりと切り出してきた。

「変な、夢?」

不思議そうに尋ねるティーダへユウナは熱で赤くなった頬を更に赤く染めながら
掛け布団を顔が隠れるほど引っ張り挙げて消え入りそうな声で呟く。

 

 

「あの、ね?その・・・キミと、えっちなこと・・・してる夢・・・」

 

 

その告白に これ以上は開きませんと言うくらいに青の瞳を見開いたティーダは呆気に取られたまま布団の中へ隠れてしまった可愛い恋人を凝視した。

多分、目の前の愛しい人は次に目覚めた時、この「とんでもない」発言をしたことすら憶えていないだろう。

すべては熱にうかされて思わず口をついて出た一言なのだ。

 

わかっている。

 

わかっては、いるのだ。

 

けれど。

 

「ユウナ・・・?顔、見せて?」

掠れた呟きにおずおずと色違いの瞳が姿を見せる。

今までの苦労はすべて彼女がぶち壊したんだ、と微笑みの下で自嘲気味に言い訳をして。

「しよっか」

「えっ・・・・!するって・・・あの・・・」

「ユウナが、悪いんだからな?」

責任転嫁も甚だしい自分に呆れかえりながらも するりと彼女のベッドの中へ侵入した。
いつもならばもっと抵抗されるところではあるけれど、今日に限っては彼女の発熱に感謝である。

「ダメ・・・!風邪だったら・・・っん!」

慌てて恋人の身体を押しのけようとしたユウナの唇を塞ぎ、いつもよりも熱い彼女の舌を堪能したティーダは不敵ともいえる微笑を浮かべて甘く囁いた。

 

「移したら、治るって言うッスよ?・・・2人っきりだしね」

 

熱で熱くなっているユウナの身体はどうしようもなく気持ちが良かったのだけれど、その後激しく反省をしているティーダの姿があったのは言うまでもない。

fin

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