いつもこの時間は、ここで。
日課
お昼ごはんを済ませて、食後のお茶を飲み終わる頃、視界の隅に小さく揺れる黄金の光に知らず笑みが零れるのはどうしてだろう。
居住区の片隅で、腰を下ろし居眠りをするチョコボのふかふかの羽毛に埋もれるように眠る恋人のクセ毛が、チョコボの呼吸に合わせてゆらゆらと揺れるのだ。
午前中いっぱいを自己鍛錬の時間にあてる愛しい人は、マスターが用意してくれた昼食を素晴らしい勢いで平らげると、満足気な表情のまま『指定席』へと移動し、あっという間に眠りに落ちる。
チョコボの方も心得たもので、その時間にティーダが傍へ歩み寄ってくると何食わぬ顔をして自分も昼寝の体制に入るのだ。「食べたばっかりなのによく眠れるよ〜」
リュックが呆れかえったような口調で言うのもいつものこと。
「そうだねえ」
そしてその声にユウナが笑顔で返事をするのもまた、日々の日課になりつつあった。
午後の陽だまりの中で、女の子だけのティータイム。
他愛ない話は様々な場所へ飛び、その都度笑ったり驚いたり。
決して静かではないはずのおしゃべりの声をBGMに、ティーダの柔らかな髪はチョコボ越しに右へ左へ微かに揺れる。
五月蝿くはないかと訊ねると、遠すぎず近すぎずに聞こえる話し声が、午後の転寝のBGMには最高なのだそうだ。
ユウナはミルクティーを片手にその様子を視界の隅に捉えながら、自然に湧き上がる笑みを隠すことなく笑う。
「なんかさ、こう、チョコボの毛ってお日様の匂いがしない?」
日課である昼寝の場所が何故チョコボの羽毛の中なのかを問うた時、少しだけ考えてから嬉しそうな笑顔と共にもたらされたティーダの回答を思い出した。
聞いたときこそ「そうかな?」などと首を傾げてみたものの、ユウナは後日こっそりとそれを確かめて妙に納得してしまったのだ。「いいかな?」と声をかけてから、手を伸ばして、柔らかい羽毛を撫で、そっと顔を寄せた。
羽毛はとても気持ちよくて、息を吸い込むと香ばしささえ感じるその香りは確かにお日様の匂いそのもので、同時に頬から伝わる温もりは、気を抜けばあっという間に睡魔を引き寄せてしまいそうで・・・。
「気持ちいいね」
顔を上げ、素直にそう呟いたら、真っ黒な瞳を満足気な光でいっぱいにしたチョコボと視線が合って小さく笑った。
そして、今日もまた愛しい人はお日様の匂いに包まれてお昼寝。
ティーポットに2回目のお湯が注がれて、お皿いっぱいに盛られたお茶菓子が残り少なくなる頃になると、チョコボの影から2本の腕がニョキニョキと現れる。
羽毛の中の塊が小さなうめき声を発するのと同時に、チョコボも大きなあくびを一つ。
「んああああああ、よく寝た〜っ」
少しだけ掠れた声は、まだちょっと眠そうで
「おはよ?」
チョコボの背中越しにぴょこんと現れたティーダの顔にご挨拶。
「おはよ。つか、そのクッキーうまそッスね」
目ざとく見つけたお茶菓子よりも甘ったるい笑顔の青年に
「チイは寝てるか食べてるかしかないわけ〜?!」
遊び相手のお目覚めが嬉しいくせに、つい文句が出る可愛い従兄妹。
「まだあるよ?キミも一緒に紅茶飲む?」
ユウナは笑顔でお茶へ誘いながら、元気に立ち上がった恋人を見て小さなため息を一つついた。
「まずはキミの寝癖を直してあげてからね?」
あらぬ方向へ向いている黄金の髪が午後の日差しに反射し、ユウナの笑顔を包み込んでいった。
fin