贈り物を君に。

 

ティーダと再会を果たして一ヶ月。

カモメ団にはこれといった依頼もなく、平穏な日々を過ごしている。
ティーダはといえば、ワッカにブリッツの練習へと駆り出される以外には 雑用以外することもなく、しばらくの間手持ち無沙汰だったようだが、最近では小さなマキナにいたくご執心だ。
ユウナの手のひら2つに収まってしまうくらいの大きさのそれを、時間さえあれば弄っており、そんなティーダの定位置は、ブリッジ内のシンラが座る席のすぐ傍の床と決まっていた。

「なあ、ここにさ、・・・・・を入れたいんだけど・・・」

ユウナは なにやらシンラと密談中のティーダの背後へそっと近寄り覗き込んだ。

「ねえ、何を作ってるの?」

「うわ、ユウナか・・・。コレ?・・・・・秘密。」

にんまりと笑って、すぐに視線をマキナへと戻してしまった恋人に ユウナは小さくため息をついてブリッジを後にした。

 

 

「ねぇねぇ!ユウナん!アイツさ、何作ってるの?!」

お茶でも飲もうと共同居住区へやってきたユウナへ、興味津々といった様子のリュックが駆け寄ってきた。
セルシウスきっての元気印の、目下一番気になるところと言えばティーダがこそこそと作っているらしい代物の正体だ。

「秘密だって」

つまらなさそうに肩をすくめてそう言ったユウナ以上に 目の前の従兄妹はあからさまにガッカリの風情で項垂れる。
この光景は今日に限らず、最近の日課とも言えるだろう。
ユウナは苦笑しながらカウンターへ腰掛け、熱い紅茶を注文した。

「シンラにもの凄い小さな音楽スフィアを注文してた」

階段を降りてきたパインがユウナの横へ座り、笑いながらそう言う。
実際、最近のあの熱中ぶりを見ていて、それが何なのか一番知りたいのは他ならぬユウナ自身。

「何作ってるんだろうねー、アイツ」

搾りたてのフルーツジュースを飲みながらリュックがそう言うのへユウナは小さく頷きながら、心の中でそっとため息をついた。

 

 

ゆるゆると心地の良い眠りの世界に漂うユウナの耳へ、遠くから優しい音楽が聞こえてくる。
夢を見ているのだと、ぼんやりとした意識の中でそう思っていたが、小さく鳴り続けるそれに次第に脳が覚醒してきたユウナは、うすく色違いの瞳を開けてみた。
月明かりが支配する薄暗い部屋は、朝がまだ遠い先の話だと教えてくれている。

ふと見れば、隣にいるはずの愛しい温もりが存在しない。

尚も鳴り続けている儚げで優しい音のする方向へユウナが無意識に視線を泳がせると、少し離れた場所でイスに腰掛けている愛しい人の背中がそこにあった。

「ティー・・・ダ?」

起きたばかりの声帯は思うように働かず、小さく掠れて床へ落ちる。
その声と共に、今まで聞こえていた音楽も鳴り止み、いまだしっかりと開いてくれない瞳を擦りながら上体を起こしたユウナへ優しい声が返ってきた。

「ユウナ、出来たよ」

「・・・出来・・た?」

わけがわからない様子のユウナへ向かい、何かを手にしたティーダが近づく。
不思議そうにしているユウナの横へ腰掛けたティーダが、微笑みと共に差し出したそれは 『秘密』と言っていた小さなマキナだった。

「あげるよ。蓋、開けてみ?」

そう言って微笑む恋人の意図がつかめぬまま、言われたとおりに箱状になっている蓋部分を押し開けると、先ほど聞こえてきていた優しい音楽が流れ出した。

 

「これ・・・?」

「オルゴールって言うんだ。まあ、本物とはだいぶ違うけどね」

 

『オルゴール』と教えられた小さなマキナを不思議そうに眺めているユウナへ、ティーダがぽつぽつと説明しだす。

すべてが機械仕掛けだったザナルカンドで、このオルゴールだけは『職人』と呼ばれる人たちが作っていたこと。

中に入っているのは、本当はもっと原始的で複雑なものだったということ。

それを自分が作るのはどだい無理な話だったから、シンラにとてつもなく小さな音楽スフィアを作ってもらったことなど・・・。

「オレ、こっちに帰ってきたばっかで収入ないッスからね。・・・それでも、ユウナになにかあげたくてさ」

だから『秘密』で作っていたのだと、照れたように笑うティーダへ愛しさがこみあげた。

あまりにも、この小さなマキナへご執心だったから、少しだけヤキモチを焼いていた自分が恥ずかしい。

「あ・・・りがと・・・う」

心の狭い、ちっぽけな自分と、彼の真心に嬉しさがこみ上げてくるのがないまぜになって、涙腺が緩んでくるのがわかる。

「ユッ・・・ユウナ?!」

突然泣き出してしまったユウナに、状況が把握できないでいるティーダが慌ててその顔を覗き込んだ。

「・・・うれし・・・い」

それだけ言って、ぽろぽろと涙を流し続けるユウナに小さく苦笑したティーダは 彼女の手のひらの上で音楽を奏で続けているオルゴールの中へ、スウェットのズボンのポケットから何かを取り出し ころり と転がした。

「メインは、これなんだけど?」

溢れてくる涙に閉じられていた瞳がそっと開くと、そこには月明かりに輝く銀色の指輪があった。

「・・・これっ?!」

「ワッカがさ、契約金くれたんだよな。いらないっつーのにさ、無理矢理寄越すから・・・それ、買っちゃった」

驚きで声も出ないでいるユウナへ ティーダは悪戯っぽく微笑みながら指輪を取り出し、震えている左手の薬指へそっとはめる。

「お、ピッタリ。良かった」

はにかんで笑う恋人の顔から左手の薬指へと視線を落とすと、そこにはピンク色をした小さな石が控えめに輝いていた。

「ブリッツでバンバン稼ぐようになったら、もっと、ちゃんとしたやつ買わせてな?」

「・・・・・っ」

もう、十分すぎるくらいに嬉しいというのに。『ありがとう』と伝えたいのに、胸が詰まって何も言葉が出てこないのだ。
溢れてくる涙も止まりそうもない。
今の自分の胸の内が、彼に伝わればいいのに、と心から思う。

ユウナは大切なオルゴールを枕元へそっと置くと、優しく微笑み続けている最愛の人へ抱きついた。
抱きしめることで、この気持ちの端だけでも伝われと願いながら。

「好きだよ、ユウナ。愛してる」

甘い囁きに頷くことしか出来ないユウナは、返事の代わりにそっと口づけをした。

fin

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