ごめん

 

いつかは言おう。

否。

言わなければならないだろうと半ば脅迫めいた思いで、でも言えなかった一言がある。

意気地のない自分は『言わないでいられれば、それはそれで構わない』とさえ思っていた。

 

けれど。

 

立ったまま青空を見上げ無言になる時

真夜中、ふいに意識が戻るそんな瞬間

突然・・・本当に突然、まるで『そこに在る』ということを確認するかのように君が自分に触れるから。

言わなくちゃいけないな、と思う。

どんな言葉をもってしても、彼女の不安は拭えないかもしれないけれど。

彼女の為に。

そして、何よりも自分の為に。

 

 

「ユウナ・・・まだ、怖い?」

眠る自分の胸元にそっと顔を寄せたユウナの気配に瞳を閉じたまま小さく問いかける。

「・・・あ、えと、起こしちゃったね?・・・ごめんね?」

声を潜め慌てた様子の返事は自分の質問への答えそのものではなくて―――。

「いや、大丈夫ッスよ?完全に寝てなかったから」

少しだけおどけた口調で言うのは、酷く緊張している自分の心をほぐすためだ。

「怖い?」

身体を離しかけたユウナを抱き寄せてもう一度問う。

ユウナの身体が一瞬強張ったことから、質問の意図はわかっているのだろう。

「・・・うん、まだ、少し不安になる」

当たり前だ。

2年前のあの日、自分は彼女の目の前で跡形もなく消えたのだから。

『お互いを想いあってさえいれば大丈夫』

勇気づけるように言ったのは、自分。

ユウナに向けてというよりも、互いに向けてと言った方が正しかったあの一言。

「ユウナ、手、貸して?」

「うん?」

ごそごそと自分の腕枕へ収まった最愛の温もりに空いている手を差し出すと、すぐに小さな手が重なった。

「あのさ?」

ユウナの小さな手をしっかりと握り締めて。

 

「オレ、自分があの時選んだ道は間違ってないって思ってるから」

 

「・・・ティ・・・ダ・・・?」

ユウナの声が掠れた。

でも、言わなくちゃいけないって思っていた。

そう結論付けなければ、これ以上先には進めない。
それはユウナにとって言い訳以外の何ものでもないのだろうし、聞けばきっと過去を思い出させて辛くなる。

だから。

「だからさ、ユウナ?怒ってくれていいッスよ?文句だって気が済むまで言ったらいいし、なんだったら殴ってくれてもいいから」

泣いてくれても、いい。

泣いてくれればいい。

君のあの2年間の涙は、拭いたくても拭えなかった。

きっと、大声を上げて泣いて、罵ってくれさえすれば、あの時辛くさせた事の何分の一かでも楽になるかもしれないから。

きっと、それも言い訳で、自己満足に他ならない。

 

「怒って、ない・・よ?・・・でも、もうナイショはいや。」

縋る様に見つめられることに居心地の悪さを覚えたくせに離そうとしなかった。

「うん。もうナイショなし、な?」

それが出来たらどんなにか良いだろう、と思う反面、もしも彼女がすべてを知ってしまえばシンもナギ節も、スピラも放り投げて攫って逃げてしまいそうだった。

「う・・・浮気、ダメっす」

俯いて

「しないッス」

笑って

「私以外に笑顔とかって向けたら、ちょっと妬いちゃうかも」

見上げて

「いっぱい妬いて」

はにかんで

「ずっと傍にいてね?」

守ることを前提とした約束

「いるよ、大丈夫・・・・ユウナ、あのさ・・・」

さあ、ここだ

「なあに?」

世界でたった一人の大切な君へ

 

 

「ごめんな」

 

 

あの日の選択は間違ってない。

だって君はそこに居る。

けれど、間違っていなかったと伝えた後に言いたかった。

ただ、ごめん、と。

ユウナが息を呑んだ。

あの日をきっと思い出してるに違いない。

 

抱きしめて

キスをして

愛してると囁いて

 

「オレも実は怖かったりしたんだけどさ、でもそれ以上にユウナと生きていける『今』がオレの中で自信になってるって言ったら、怒る?」

おかしいだろ?

怖いけど怖くないんだ。

だってユウナがちゃんとこの腕の中に居てくれる。

眠りの世界へ意識を手放すあの瞬間も、ユウナの温もりと吐息がふわふわと包んでくれるから。

「ずっと。もうこの手は離さないから。大丈夫ッスよ?」

握り締めた手に力を込めて。

こんなことぐらいしか出来ない情けない自分だけど。

 

「ティーダ?」

「うん?」

「かえってきてくれて、ありがとう」

 

 

ふわりと微笑んだその顔に不覚にも泣きそうになった。

楽しい時も

悲しい時も

不安で眠れない闇夜の日にも

君を離さないよ

もう二度と、『ごめん』は言いたくないから

fin

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