月とわたしだけのひみつ

 

ぱす。

ぱすぱすぱす。

褐色の肌。大好きな彼の手が白いシーツの上を泳ぐ。
寝返りを打ち、うつぶせ寝の状態のティーダが、あるべき場所にあるはずの温もりを寝ながらにして探している。
夢うつつのその仕種は、普段の彼からは想像もつかないほどあどけなく見えて、少しだけ面映い。

「ふふ・・・探してる探してる・・」

ユウナは思わず笑ってしまいそうになるのを必死に堪えながら、目の前でいまだ彷徨い続けるティーダの手に捕まらないよう身じろぎ、その追跡を逃れる。

そんなユウナの動きを知ってか知らずか、ゆったりと彷徨う腕は力ないもので、彼の動きが意識してなされていないのは明白だ。何より、共に聞こえてくる規則正しい寝息が『眠りの世界の住人』ですと明確に謳っている。

ぱす、ぱすぱすぱす・・・・・・ぺた。

シーツを探り続けていた手がようやくユウナの肩に触れると、『うう・・ん』と小さく唸って最愛の温もりを引き寄せる。

腕の中に閉じ込めて、擦り寄ってきた栗色の髪に鼻先を埋めて、そして小さなため息を一つ。

「お日様の匂い」

抱きしめられて逞しい胸元へ頬を寄せて小さく呟いたユウナの顔は、この幸せに溶けてしまいそうだ。

事の発端はほんの些細な出来事で、夜中、喉の渇きに目が覚めて少しの間ベッドを離れ、戻った時に起こっていたことだった。

眠る恋人を起こさぬよう細心の注意をもってして褐色の砦から脱出し、戻ったユウナの視界に飛び込んできたその光景は、無意識のうちに自分の温もりを捜し求めるティーダの姿そのものだったのだ。

ぱすぱすと音を立ててシーツを彷徨うその手が嬉しくて、それでも一向に起きる気配のないティーダが可愛くて、ユウナは内心で『ちょっと意地悪かな』と思いながらもしばらく眺めてしまった。

寝ているはずなのに一生懸命探すその様を見て、思わず水を飲むことも忘れてベッドに戻るとあっという間に捕まえられて腕の中に閉じ込められた。

抱きしめられて

ユウナの存在を確認するように大きく息を吸って

そして安堵のため息を一つ

何度試してみても同じ事を繰り返す恋人に、思わず『起きてる?』と小声で尋ねたことは内緒。

問いかけへの答えはなく、聞こえてくるのはすやすやと安心しきった様な寝息ばかり。
いつしかこの彼の『癖』を見るのがたまらなく好きになっていたユウナの身体は、ティーダが寝入った頃に目が覚めるという特技を身につけるまでになる。

このことはお月様と自分しかしらない幸せの儀式。

たくましい腕に唇を寄せながら、教えてあげてもいいかな、とも思う。

もしも彼がこの事を聞いたらどんな顔で笑うのかすごく知りたい。

きっと最初は『まじッスか?!』などと言いながら少しだけ照れたように笑うのだ。

事実だと肯定してみせたその後、笑いながら『愛してる』と言ってくれるはずだから。

それもいい。

でも、もう少しだけ。

もう少しだけ内緒でいるの。

スピラ中が眠りに落ちているそんな時に、こっそりと、ただ独りだけでティーダを独占しているような気がするから。

そんなことをしなくても、今だって十分独り占めしているのだけれども。

自分が『彼』なしではいられないように

彼もまた、『自分』がいなくてはいられないのだ、と勝手に解釈して―――。

「キミも、少しは私の事探してくれてもいいと思うっすよ?」

甘ったるい笑顔と共に零れ出た言の葉は、幸せそうに眠る黄金へ密やかに舞い降りたのだった。

fin

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