Happy!

 

日替わりで出されるマスターの今日のドリンクは、スピラのおいしい果物がどっさり入ったミックスジュース。
一口飲めばそのお味たるや言わずもがなの大当たりで、それだけでも今日は幸せだーなどと思えるのに、視界に飛び込んでくるあの光景のなんと幸せなことか。

そんな大当たりなミックスジュースに口をつけるのも忘れ、居住区の2階部分をそれはもうにやにやと見上げているリュックの真横から冷ややかな声が突き刺さった。

「さっきからにやにやと気持ちが悪い」

声の主はそんなきつめの突っ込みとともに隣へ座り、アイスティーを注文した。
今日の日替わりドリンクが最高なのに、いつでも午後のお茶はアイスティーの相棒へリュックはあからさまに頬を膨らませて反論してみせた。

「だってパイン、見てよ!あそこ!」

美貌の剣士の冷ややかな視線など気にも留めず、力強く指し示された方角には、据え置かれているベッドへ腰掛け、スフィアブレイクの説明を受けているらしい黄金の髪の青年の姿があった。優しく微笑む彼の視線の先には、もちろん、リュックが愛してやまないユウナが幸せそうに微笑んでいた。

「『だって』の意味がわからない。ユウナとティーダが2人でいるだけじゃないか」

アイスティーを受け取りながら呆れ顔でリュックへ視線を送るパインに、セルシウスの元気印は訳知り顔で人差し指を突き出し、『ちちち』と左右に動かしてみせる。

「ユウナんと、アイツが、2人で居るっていうのが、いいんじゃん」

緑のぐるぐる眼を幸せそうに細めたリュックは、自信満々といった体でそう言い切ると、再び愛すべき2人へと視線を戻す。

「ユウナんがさ、ナギ節が来ても、こうやって、ここで生きてて、笑ってて・・・・そうしてくれたのって、アイツなんだよね」

その呟きは伏せられた瞳と共に小さく零れ落ちた。

『召喚士』としてのユウナの決意と真正面から戦ってくれたのは、まぎれもなくあの青年ただ一人だったとリュックは今でも思っている。
自分だって彼女を助ける為に色々と奔走はしたけれども、真実、彼女を救えたのは『アイツ』だけだ。
彼が現れなければ、きっと、ユウナの覚悟のままに事は進んでいたのだろうし、いつ復活するとも知れないシンの脅威に怯え続けていたに違いない。
何より、今の幸せは絶対に訪れない。

時折、視線を合わせては幸せそうに微笑みあっている2人をこうして眺めていることが、自分をどんなに幸せな気分にさせているだろう。

シンを倒したあの瞬間、別れなければならない恋人達を何も出来ずに見守ることしか出来なかった自分が、どんなに情けなかったことか。

そして。

キマリから預かったあのスフィアを見た時の、絶望にも似た『希望』・・・。

愛すべき従兄妹は、いなくなった『彼』だけを追い求め、諦めきれずに止まったままの時間の中をただ必死に生きていたから。
彼女が『彼』を諦めない限りは、自分も信じていようと決意したあの日のように、再会を果たした彼等の幸せはとことん追求してゆくのだ、と密やかに心に誓う。。
そのための努力ならば、いくらしたって構わないとさえ思っているのだ。

「やっぱ、あの2人はず・・・・っと一緒にいなくちゃ」

自己暗示でもかけるかのようなリュックの呟きに、パインがあからさまにため息をついた。

「で?自分の幸せはいつ追求するんだ?」

「・・・へ?」

相変わらず世界はユウナを中心に回っているらしいアルベドの少女へ、パインは赤い瞳を勝ち誇ったように細め、愉快そうに言い放った。

「ギップル」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!」

飲みかけていたジュースを派手に吹き出した『元気印』の彼女自身の『幸せへの追及』は、まだ遠い先の話のようである。

fin

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