女の子はいつだって、気になっているものなのだ。

 

ズルイ恋人

 

いつもと変わらない飛空艇の朝。

目の前に座る愛しい人はいつもどおり、折り目正しく食後の挨拶をしている。
しかし、この立ち居振る舞いこそ「いつもどおり」なのだが、ここ最近、一点を除き違う部分があった。

「ユウナさ、どこか具合でも悪いッスか?」

「え?どうして?そんなことないけど・・・?」

唐突な問いかけに首を傾げているユウナへ、それ以上に不思議顔のティーダが彼女の手元を指差した。
其処には「女性用」にと控えめに用意されていたはずの食事がきっちり半分残っているからだ。

「だって最近メシ残してるッスよ?」

昨日今日の話ならまだしも、とでも言わんばかりのティーダの台詞に、一瞬だけ「う!」という顔になったユウナだったが、そのすべてを取り繕うかのように色々な事を口走ったかと思うと、さっさと食堂を後にしてしまった。
彼女のこの様子から「そんなことはない」事もあるわけもなく、嘘をつくのが凄まじく下手くそな恋人の後を追うように、ティーダも食堂を後にしたのだった。

 

「ユ〜ウナ?入るっすよ?」

個人用の居住区にあるユウナの部屋のドアを軽くノックしてから入室する。
こうして返事も待たずに彼女の部屋へ入ることを、まったく躊躇わなくなったのはつい最近のことだ。

キミは特別だから、いつ入ってきてもいいんだよ?

そう呟いたユウナの桃色の頬を思い出しては、つい緩みがちになってしまう口元を必死に引き締めながら、ベッドの上にちんまりと座っている彼女へ近づいた。

「そう毎日嫌いなものが入ってるわけでもないよな?」

バツが悪そうに居住まいを正す彼女の目の前で仁王立ちの姿勢を作り、わざと前置きもせずにいきなり本題を切り出せば、覗き込むほどに逸らされるのは彼女の視線で、「先刻の様々な理由はイイワケでした」と丸わかりなのが可笑しくて。

「う、うん。あの、最近食欲なくて・・・って、あの、別に体調が悪いわけでもなくてね」

「ユウナ?いい加減白状しないと今晩は一緒に寝ないッスよ?」

これが駄目押しとでも言わんばかりにもう一手。

しかしいつもならばこの一言で陥落する牙城も、この話題ばかりは別物らしい。
意地悪なだけの尋問に思わず首を横に振りかけたユウナだったが、それでも、どうしても白日の下に晒したくない事実があるということだろう。鉄の意志を持ってして「・・・いいもんっ」とだけ呟いたのだ。
この予想外の展開に少しばかり驚きを隠せないティーダだったが、目の前でうつむく愛しい人の耳元へ唇を寄せると、至極楽しげな口調で先ほどの上を行くほどの攻撃を繰り出したのだ。

 

「じゃあ、オレ、半月くらいビーカネルに行ってこようかな?」

 

それは、駆け引きというにはあまりに単純で稚拙。

けれど、その言葉の意味を理解できる彼女には、これ以上はない凶器。

 

「や!やだやだ!だめ!絶対に行っちゃダメ!」

そうして、ティーダの思惑通り、反射的に叫んでしまった後で慌てて口元を覆ったとしても、後の祭り。

ティーダの言う「ビーカネルへ行く」ということは、すなわち「マキナ派の仕事を手伝う」ということで、「マキナ派の仕事を手伝う」ということはそのまま、「大将であるギップルに彼が捕獲される」ということになるのだ。こんな顛末でビーカネルへ発掘の手伝いに来ましたなどとティーダが言った日には、あの悪戯好きな意地の悪い悪友殿が、彼をどこへ攫ってしまうものか見当もつかない。
信用できないと言うのもおかしい話だが、あのマキナ派のリーダーはたいそうティーダの事を気に入っており、事あるごとに呼びつけては何やら男同士で密談などしているふしがある。
ティーダにとってはほぼ『初めて』と言っていいほどの『同世代の友人』は喜ばしいことではあるけれど、それはもう楽しそうにされると『良かった』と思う反面、ユウナは焼かなくていいヤキモチを焼いてしまうのだ。

もう、これはティーダを信じていないのではなくて、ギップルが信用できない。

追い詰められていっぱいいっぱいのユウナが出した結論は、「一緒に寝てもらえない」ことよりも、「一週間どこにいるのかわからない方が嫌」ということだった。

 

「だって・・・太った、から・・・」

『観念しました』と言わんばかりの情けない表情でポツリ、と呟いたユウナへ

「へ?!これで?!」

と間髪置かずに切り返す。

そのまま有無を言わさないとばかりに彼女の細い腰を抱えようとすれば、「や!えっち!!ダメ!!」などと逃げられてしまった。
『えっち』なことも『ダメ』なこともまだしていないというのにもの凄い抵抗振りだ。致し方なくすでに半泣き状態のユウナの顔を覗き込んで安心させるように口づけると、ティーダはするり、と彼女の隣へ腰掛けた。

「オレ、全然気にならないけど〜?」

今度はそっと、驚かさぬように細い身体を抱きしめながらため息混じりに告白するティーダへ、ユウナは恨めしげな視線を送りつつもその背中に腕をまわしてきた。

「女の子は気になるの!」

彼女はそんな可愛らしい抗議の声をあげながら、太ってしまった原因の多くはティーダにあるのだ、と恋人の腕の中で責任転嫁をした。
彼が還ってきてくれてからの生活は何もかもが夢のように幸せで、その最愛の人ととる食事がまた殊更に美味しいのが悪いのだと。
『コレ、美味しいッスよ?ユウナ食べる?』
などと、あのハニースマイルで言われたら、それはもうお腹がいっぱいでも食べてしまう、とも。

「丁度いいッスけどね〜?抱き心地とかさ〜。・・・変わってないって、マジで」

ささやかな変化すら判ってしまうほどに抱き合っているのに?

言外にそんな事を匂わせながら、ティーダは腕の中で拗ねているユウナの顔を覗き込み彼女の様子を窺う。
そんな時愛しい少女は決まって居心地が悪そうな、恥ずかしそうな顔をして「ズルイ」と呟くのだ。

「もう・・・っ・・・・ズルイ・・・」

待ち焦がれた一言を捕らえた「ズルイ恋人」は、あっという間にユウナの身体を白い波の中へ縫いとめるとにんまり笑ってこう言った。

「じゃあ、変わったところがあるかどうか、調べてもいいッスか?」

「えっ?!うそ!ダメ!!やぁっ・・・ん!」

そして、綿密な調査のかいがあったのか、その日の昼食以降、ユウナが食事を残すことはなくなったのだった。

fin

2007.7.19up
ティユウ6周年おめでとう!(^^)/

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