こんなに、素直に零れ出る想い。

 

寂しい

 

『寂しい』

 これだけは、絶対に、絶対に、言ってはいけない一言だと心の中で誓ってた。

 思ってしまえば、言ってしまえば、背伸びをしたまま上ばかり見上げている自分の気持ちが壊れてしまうと思ったから。

 『彼』が居なくて

 彼『だけ』が居なくて

 もしもその禁忌の言の葉を紡いでしまったら、その後に待つのは呪詛ともとれる醜い想いそのものだけ。

 

 召喚士にさえならなければ

 

 旅立たなければ

 

 彼の笑顔の嘘を、追及するだけの勇気さえあれば

 

 出てくるのは後悔だけ。考えても仕方がない言葉ばかりが脳裏に過ぎる。

 けれど、後悔したくなかった。

 だから、言わないし、言えなかった。

 それでも、そう決めたのみかかわらず、胸の底に在り続けるのは、後悔ばかりの情けない小さな自分。
 だったら、言えば良かったのだ。
 困らせても、自分が泣くことになっても。
 結局、たくさん泣いたのだから。

 

 

 

「寂しいなぁ」

 寂しい寂しい寂しい。
 あの日々の自分の決意はどこへやったものか、と呆れるほどにすんなりと言の葉にのせる。言わなくても泣く、言っても泣くのであれば、言わずに付いてくる後悔が甚だしく馬鹿げたものであると、嫌というほど身に染み付いている少女は誰に向けるでもない脹れ面を海面へ向け続けている。
 待ち人はいまだ現れず、この『待つ』という時間軸が恐ろしく進みが遅いということもわかっていて尚、待ってしまう。

 だってあの笑顔が傍らにない。

 もう、1週間も。

 今から帰るって連絡きたけど、ギップルさんに捕まってないかな?
 そんな思考に囚われている。

「『も』とか、思っちゃうし。・・・欲張り」

 欲張り。

 自分でも吃驚した。

 2年も待てたというのにたった1週間でもう駄目だなんて。

 あの頃は『掴み取れただけで十分』だと思っていた。

 なのに、太陽に輝く黄金の髪も、向けられたら誰だってつられて笑ってしまうハニースマイルも、聞いてるだけで幸せになるあの声も、全部全部自分だけのものにしたい。

『そんなこと言わなくたって、オレはユウナのものなのに』

 呆れたように

 嬉しそうに

 でも、少しだけ照れて笑う顔。

 

 

「もー!さみしいのー!!」

 青い青い空に向かって大きな声で叫んだ。

 

 

 ねえ、聞こえてる?

 指笛じゃなくて、私の声で飛んできて

 大好きなの

 大好き

 大好き

 大好き

 私の世界にはキミだけでいい

 探して

 キミが私を

 ずっとここに居るから

 

 ねぇ?ティーダ

 

 探し続けたのだから、探して欲しいなどと思っておきながら、その実すぐに見つけられる浜辺で待機してしまう。
 通信スフィアからの連絡どおり、ほどなく聞こえてきた轟音は静かなビサイドの浜辺へ着陸した。

「ユウナあ?!ああ、やっぱここにいたんスね、思わず探し、どあっ?!」

 飛空艇のハッチが開く音と同時に焦がれ続けた声が飛んでくる。

 駆け寄って、そのまま飛びついて、ぎゅっと抱きしめた。

「・・・ただいま?」

 もっと

 もっと

 寂しかった分を取り戻したくて

 だけど、早くキミの笑顔も見たくて

「・・・おかえりっ」

 そして言う

 いつもは余裕たっぷりな彼の、少しだけ赤くなる頬を見たいから

「寂しかったっす」

「う、すんません」

 そして笑う。

 『寂しい』の後にはこんな『幸せ』が約束された『今』に。

 

 

「あのさ、ユウナ・・・アレ、終わった?」

 声を潜めてお伺いをたてる青の瞳に、思わず笑ってしまうのだけれど。

fin

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