ねえ?君の事をどれくらい泣かせたのかな?

 

 

 

 「そんでさ、『ビサイド・オーラカの監督には休みがあるのになんであなたには休みがないわけー!!』って、もう、奥さんがスフィアの向こうから角生やして出てきそうなんだよ!オレ、おっかしくてさぁ!」

 「や、やだ・・・うふ、ふふふふふ」

 遠征合宿が終わり寄り道もせずに帰宅して、ユウナの身体が壊れてしまうんじゃないかってくらいにきつくきつく抱きしめた後、オレは思い出の引き出しを開けて見せる。

 遠征にはついて来てくれない優しい人に、楽しかったことすべてを。

 たとえばワッカがルールーの目が光っていないのをいいことに練習に参戦して足がつったこと。

 たとえばキーリカ・ビーストの監督さんの奥さんがすっげぇ怖かった話とか、いろいろ。

 ユウナが傍に居てくれないのがオレにとっては寂しいことでも、こうしてお互いがいない間の話をしあうことの楽しさがわかってきたから、今は笑顔で行ってきますって出掛けられる。

 今回は特に可笑しいネタが多すぎて、多分一晩じゃ足りないくらい。

 「それでもオレ達ワッカが足つったの知らなくて、なーんかヘンな動きしてるなーって思ったら溺れてやんの」

 「あは、あははははは、おなか、痛いっす・・・っ」

 隣に座って、腹抱えて笑うユウナが嬉しくて、毎回少しだけ誇張して話すこともあるけどさ?

 「その時のワッカの顔、こんな」

 「や、やだやだ!あははははっこっち来ないで!ふふふふふふっ」

 あの日、無理に笑って見せたユウナじゃなくて

 召喚士様の笑顔じゃなくて

 今は、ただの22歳の女の子の笑い声

 そんな些細な事が嬉しいし、幸せだなって感じられるオレ自身もきっと凄く変わったんだなって思いながら、それでもユウナを笑わせることに余念がないわけで・・・。

 笑って、笑って、ユウナの瞳から涙が零れて

 「こ、降参!話の続き・・・っ待って待って!!」

 涙を拭うその姿に、『ああ、オレはどれだけこの子を泣かせたのかな』って思って。

 

 

 あの時、どれだけ辛い涙を流させたのかなって・・・・想う時もあって―――。

 

 

 「ユ〜ウナ〜?」

 必死に乱れた息を整えながら、その瞳からはまだポロポロ涙が零れてる。

 「な、なあに?」

 だけどオレを見つめてくれる瞳はこの上もなく幸せそうで、それだけで酷く安心して。

 「オレが君の涙を拭ってあげましょう!」

 「え?・・・・きゃあああああああっ?!」

 細く見える身体はやっぱり細くて、簡単に押し倒すことも出来る。

 吃驚しても、抵抗しないでいてくれるのがなんだか嬉しいとか思ったり。

 「ユウナの涙もしょっぱいんだ・・・」

 「もっ・・・もう!!キミのそれは『拭う』じゃなくって、『舐める』って言うんですー!!」

 だって

 だってさ?

 悪戯に頬を染める君が可愛くて仕方がないんだって言ったら、きっと拗ねてしまうから。

 傍に居て

 君を嫌というほど笑わせたいんだ

 どれだけ泣いたかなんて、ユウナは絶対に話してくれないってわかってるから

 だからこそ、あの時流した涙以上の笑顔を君に贈りたいんだ

 オレの勝手なエゴだけど。

 ユウナは嬉しい涙だけを知っていればいいんだから。

 オレの引き出しが空になるまで話すから。

 「ユウナのは甘いと思ってた・・・オレ」

 「・・・もう、キミって人は!涙なんだからしょっぱいに決まってるでしょう?」

 ふざけあって、笑い合って、たまにはユウナの涙なんか舐めたりして怒られて。

 「ユウナ、キスしてもいい?」

 「いいよ?」

 最後にはやっぱりユウナの笑顔に包まれて、甘えるだけのオレだけど。

 「・・・ユウナのキスは甘いッスよ?」

 「・・・キミのキスが甘いんだよ」

 秘密を共有するように笑い合って

 そして、改めて祈る

 これから先の君の笑顔も

 これから先の君の涙も

 全部全部オレのものであったらいいと―――。

fin

バカップルです。(断言)←(笑)

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