誰に何と言われようとも、絶対にあの場所でやらなくっちゃいけないと思うんだ!

 

 happiness

 

 「やっとするんだってな、結婚式」

 焼きたてのパンを頬張りながら、隣で歩くリュックへギップルが問いかける。

 「そぉだって。やっとだよ、もう。・・・ってか、今回は成功っぽいよ、コレ」

 同じくリュックも もぐもぐと食べながらその出来を評価する。
 今回に限らず月に一度くらいの割合で、もう半ば趣味と化したギップルの『マキナ弄り』の成果を試す為にリュックは呼び出しを受けている。
 成功よりも失敗の方が多い今回の発明品は『自動パン製作機』らしい。
 大げさな作りのマキナから出てきた『見た目が凄まじいことになっている』パンを口に入れることを誰もが躊躇う中、颯爽と現れたリュックはやおらそれを手に取ると、アッサリと口の中へ収めたのだった。

 「あー、でもまだだな。見た目がサイアク。改良の余地アリってとこだ」

 「その前にさ、何回使っても壊れない物作りなよ」

 21歳になったとはいえ、相変わらずの『ニギヤカ担当』な彼女は、いまだ自他共に認める『ユウナ至上主義者』だ。

 そんな愛してやまない大切な従兄妹が、とうとう結婚をすると言う。

 とは言え、4年前に『還ってきた』彼女の想い人との生活は、今更『結婚式』など挙げなくともいいと思えるほどの幸せな現状だ。ユウナ自身が満足しているらしいという手前今まで何も言えなかったリュックだったが、とうとう堪忍袋の緒が切れて『この先どうするつもりだ』とティーダに詰め寄ったのは半月程前のこと。

 

 『ケジメは、つけるつもりッスよ』

 

 あまり見せることはない真面目な表情で答えたティーダが、ユウナを伴って結婚式を挙げると発表するまで そう時間はかからなかった。

 「でもさ、『ビサイドで慎ましく』なんて言うんだよね・・・」

 素晴らしく不満そうにそう呟くリュックを自室へ招きいれながらギップルは不思議そうに尋ねる。

 「いいじゃねえか、ビサイドで。なんか不都合でもあるのか?」

 リュックは足元に転がるクッションを一つ手に取り、抱えるようにしてその場に座り込む。

 「あたしさ、あそこでやらなきゃ、意味ないと思うんだよね」

 「あそこって、どこだよ」

 リュックの向かいに座り、やや憂えた緑の瞳を覗き込むギップルに彼女は決意めいた表情で、小さいがキッパリとした口調で『ベベル』、とだけ答えた。

 「ベベル?!」

 「そう!だって・・・だってね?!ユウナん、ベベルでいい思い出全然ないんだよ?!お父さんも、お母さんも死んじゃって・・・・嘘の結婚式までしようとしてっ生まれ故郷なのに・・・嫌なことばっかり・・・。だから、ものすっっっごく幸せな思い出で塗り替えちゃいたいんだよ!」

 そこまでを一気にまくし立てたリュックは、電池が切れてしまったかのように静かになった。
 お互いアルベド族である。
 『生まれ故郷』などとうになく、彼女の言う『幸せな思い出』ばかりが彼の地に溢れているかと言えば、嘘になる。
 けれど、仲間達と共に過ごした日々はかけがえなく、その思い出こそが『幸せ』なのだとも、思うから。
 普段は明るい目の前の彼女の胸のうちがなんとなくわかるだけに、ギップルもまた黙って考えを巡らせた。

 ベベルでともなれば、それこそスピラ中から人が集まり、それは盛大な結婚式となるだろう。
 どうせやるのならば、派手にすればいいとも思うが それをあの2人がすんなり了承するとも思えない。
 ただでさえ、途方もなく有名なカップルなのだ。『慎ましく』と願う気持ちも理解できる。

 リュックの願いを実現する為には、あの2人には内緒で隠密裏に行動しなくては。

 しばらく黙っていたギップルは『ポン!』と自分の膝を軽く叩き、ベベルのバラライへと連絡を取るべく通信スフィアへ手を伸ばした。

 

 

 ジョゼでの密談から約一ヶ月後。

 真エボン党へ戻ったバラライやイサールたちの尽力によってようやく落ち着いてきたベベルへ、スピラ中から信じられないくらいの人々が集まりつつあった。

 「まじッスか・・・?」

 窓から外の様子を覗き見て 凄まじく情けない声をあげた青年の背後から小さな笑い声が届いた。

 「笑い事じゃないッスよ・・・ユウナ?」

 振り返り、盛大にため息をついたその先には、純白のドレスに身を包んだユウナが楽しそうに笑っていた。

 「だって、ここまで来ちゃったら仕方がないッスよ」

 「・・・にしったてさ、派手すぎない?」

 ギップルに無理矢理着せられた正装に落ち着かない様子のティーダは、とぼとぼとユウナへ近寄りその身体を抱き寄せて再びため息をついた。

 今日、しかもまだ太陽も昇らないうちに叩き起こされた2人は、わけがわからないままベベルまで連れてこられ、混乱している頭に『今日が結婚式だ』と言われ、今に至るのである。
 当事者以外は誰もが了解していたらしく、セルシウスにはワッカを初め島の住人のほとんどがすでに乗り込んでいたのだから驚きだ。

 「リュックがね、犯人なんだって」

 楽しげにそう言うユウナを改めて見つめたティーダは、先ほどとは意味合いの違ったため息を漏らす。

 「ユウナ、綺麗だな」

 「キミも、かっこいいよ?」

 「・・・今日だけッスか?」

 「今日は特別」

 顔を見合わせて密やかに笑い合うスピラで一番幸せであろう2人の下へ、不躾なノックと共に『犯人』が乱入してきた。

 「時間だよー!・・・っあ!チューしたらダメだからね!!後にとっておくのー。せっかくお化粧してるんだから!」

 ズカズカと2人の間に入ってそう言うリュックに、ティーダは憮然とした表情で答える。

 「はいはい。わかってますよ!」

 「それならヨシ。チィは先に行って花嫁を待つ!外でパインが待ってるから、行って!」

 いまだ躊躇う花婿をさっさとドアの向こうに追い出すと、リュックはこの上もなく幸せそうに微笑みユウナへと抱きついた。

 「・・・リュック?」

 「ユウナん、ありがと」

 「・・・え?」

 「あたしのワガママ聞いてくれて」

 「そんなことないよ?ありがとう・・・リュック」

 この幸せな一日を用意してくれたのは、他ならぬ目の前のリュックなのだ。
 正直、『ベベルで式を』と言われた瞬間は、偽りの花嫁を演じたあの時を思い出して戸惑った。
 生まれ故郷とは言え、いい思い出のないこの場所で最愛の人と結婚式を挙げるなどとは夢にも思わなかった事態だからだ。
 しかし、『ここで挙げることに意味があるのだ』と必死に訴えるリュックに、とうとう2人は根負けしてしまう形でここにいる。

 

 「ユウナん。ずっと、幸せでいてね」

 そして今、そう呟いたリュックの瞳には、他人には滅多に見せない涙が煌いていた。

 

 

 

 「あ〜〜〜っいいな〜〜〜っドレス〜〜〜〜っ綺麗〜〜〜〜っ」

 陽光の下、スピラ中からの祝福を受け幸せそうに微笑みあう新郎と新婦を、少し離れたところから見つめながらリュックは大きなため息をついた。
 会場には関係者以外参列はしていないものの、シンラお手製のスフィアスクリーンで挙式の模様はしっかりと配信されている。
 すったもんだの後、誓いの儀式がなんとか終了し、ティーダたちは参列者一人一人に挨拶をしているところだった。

 そんな、ため息をつき続けているリュックの隣で式の様子を眺めていたギップルが意外そうな顔で尋ねてきた。

 「なに?オマエもあんなの着たいわけ?」

 「着たいに決まってるでしょお〜〜!信じらんない!」

 ギロリと睨みつけて即答したリュックに、ギップルは謝る代わりに盛大に吹き出して綺麗にセットされた彼女の髪の毛をグシャグシャとかき回した。

 「やー!!もう!何すんのさー!!」

 「ま、そのうちにな?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」

 大きな瞳をさらに大きく見開いたまま固まってしまったリュックを残して、ギップルは今日の主役の下へと歩き出す。

 「そっ・・・『そのうち』って、どおゆうことよー?!」

 我に返ったリュックが大声で叫んだが、『そのうち』なギップルは振り返りもせずに右手をヒラヒラと振って見せただけだった。

 「もうっ!」

 頬を膨らまし、小さく抗議の声をあげたリュックは 勢いをつけて愛すべき新郎と新婦へ向けて走り出した。

fin

結婚式です。(笑)

私はベベルで盛大に挙げる設定で考えました。
カデンツァというティユウの同人誌へ参加させてもらったときの基盤になったネタです。

そして、なんとなくギプリュ。(?)
ちゃんとギプリュかはわかりませんがー。(苦笑)
ギップルの『そのうち』発言が書きたかっただけ、とも言えます。(笑)

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