気になるッスよ、それはね?
真っ赤
作戦は練ってある。
特別、作戦なんて立てなくても素直な君は聞き入れてくれるだろうけど。
だけど、少しばかり勇気が必要な、自分にとっての『重要ミッション』だから。
聞かせて欲しい、君の本音を。
「ごちそうさまでした!」
ティーダは大きな音を立てて顔の前で両手を合わせ、愛する人へ感謝の気持ちを表現する。
「お粗末さまでした」
ユウナは空になった食器を片付けながら嬉しそうに微笑み、小さくお辞儀をしてみせる。
改めて決めたことではないけれど、いつの間にか2人の間で『そうする』ことが当たり前になったささやかな幸せの儀式。ティーダがスピラへ帰還してから半年が経ち、生活もなんとなく落ち着きをみせ始めた今日この頃。
ブリッツシーズンも目前に迫り、現在目立ったスフィア波もないということもあり、ビサイド・オーラカの一員として練習に参加しなくてはならないエースを飛空艇で送ってくれたカモメ団のメンバーは『バカンス!』などと叫び全員下船してしまったのだ。どうしても残ると言ってきかなかった人物がただ一人だけ居たのは言うまでもないことだけれど、そこは最強を誇る元気印がなかば強引に引きずりおろしたと言っても過言ではないかもしれない。
ティーダにおいては、ブリッツシーズン中ビサイドで生活をする、と決定はしているものの、急な話でもあり当面の寝泊りは旧青年同盟宿舎でしなくてはならない。
当然、愛しい青年に付いてセルシウスを降りるユウナは、寺院に残された彼女の自室で生活をすることとなる。スフィアハントの予定が入らず、暇を持て余しているのをいいことに、恋人達だけを残して総員下船の決定を下したのは、ユウナを愛して止まない彼女の従兄妹と銀髪の美貌の剣士その人だった。
『最近のユウナは何をするにも嬉しそうだ』
昨夜、リュックがぽつりとそんな事を言ったのを思い出す。
カウンターの向こうで食器を片付けているユウナはまさにそんな感じで、皿一枚洗うにしても非常に楽しそうに手を動かしている。
口元には常に微笑が浮かび、なにやら即興で鼻歌まで歌っているではないか。「ユウナ、幸せ?」
頬杖をつき何気なく問いかけると、満面の笑みで『幸せ』と答えが返ってきた。
そんなユウナの顔を見るたびにティーダは内心、自分も凄まじく幸せだ、と思う。
もっと、彼女を幸せにしたい。
もっと、彼女のことを知りたい。
幸せだと思うほどに貪欲になってくる自分の本能がいて、その存在に思わず苦笑してしまう時さえあるけれど。
知りたい。
ユウナのこと、もっと。
誰よりもユウナを知っていたい。
だから・・・。
「ユ〜ウナ?こっちおいで?」
片づけが終了したのを見計らって声をかける。
満面の笑みで、彼女に向かい両手を大きく広げ、それはもう『来なさい』と命令しているようなものなのだけれど、それでも素直なユウナは嬉しそうに駆け寄ってきた。「なあに?」
迎え入れられるまま、すとん、とティーダの膝の上に腰掛けたユウナを後ろからそっと抱きしめる。
「ティーダ?」
「オレさ、最近心配なことがあって、夜も眠れないんだ」
「・・・え?」
ユウナの腰へ両手をするりとまわし、小さな背中へ頬を寄せる。
腰に回された手にキッチリと『拘束』されているにも拘らず、ユウナは恋人が呟いた『心配事』で頭がいっぱいらしい。
けれど、背後から抱きしめられた体勢では愛しい人の顔を確認することも出来ず、もどかしそうに『どうしたの?』と尋ねるだけだ。「オレ、どうしてもユウナに聞きたいことがあるんだ」
「何?」
「・・・答えてくれる?」
「もちろんだよ・・・」
心の底から心配した。
自分に聞きたいことってなんだろう?
それも『心配なこと』などと言うではないか。
彼の不安なことを自分がどうにか出来るというなら、どんなことだってしよう、とさえ思う。真剣に、そう思っていたのだ。
『もちろん』と答えた10秒後までは。
「ユウナさ、オレとのえっちに満足してくれてる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!」
恋人のとんでもない質問から逃げ出そうと身を捩ってみるも『後の祭り』とはこの事だ、とユウナは切実に思った。
後ろから抱きしめられ、あまつさえ彼の膝の上に座らされているという体勢のまま、床に足を降ろすことさえ許してもらえない自分は、ただただ赤面するしか道はなく、そんなユウナの様子を楽しげに観察しているらしい悪戯な恋人は、さらにとんでもない事を臆面もなく言い出したのだ。「今日はユウナが気持ちいいところをガッツリ教えてもらうッスよ!」
『答えてくれる』って約束したもんな?
耳元で聞こえた彼の声は、嬉しそうに、それはそれは嬉しそうにご丁寧に念押しまでし、逃げられないと覚悟したユウナは、真っ赤な顔で俯くしか出来なかったのだった。
fin
スケベ大王ご降臨の兆しです。(爆笑)