自分でも、呆れるくらいに君に 溺れてる。

 

我慢できない

 ティーダは昼食を済ませた後、自室へは戻らず 共同居住区へ備え付けられているベッドに腰掛けて窓の外をぼんやりと眺めていた。
いつもならユウナと一緒に食事をとるところだが、今日に限って信じられないほどの寝坊をかまし、一人寂しく昼食(朝も兼用)となったのだ。

 普通ならば そのまま心地の良い惰眠を貪っているところだが、ここ最近の自分の行動を振り返り、少々反省しなくてはならないのではないかと密かに思う。

 ユウナに対して、だ。

 再会を果たした『あの夜』、愛しい人と初めて肌を合わせた。
 白く華奢な身体は想像するよりもずっとしなやかで、強く、それでもどこか壊れてしまうのではないかと、心配さえもした。

 『あの夜』から1ヶ月。

 ティーダは与えられた個人用の自室で朝を迎えたことがない。
 盛大にため息をついて黄金の髪をぐしゃぐしゃと掻きまわして項垂れる。
 自分が反省したいのはそのことに対してではなく、彼女と一緒にいると どうしても、悪戯をしてしまう我が身の理性のなさに対してなのだ。

 「ガマン・・・出来ないんスかねぇ」

 再び吐き出されたため息と共に、そんな呟きが漏れる。

 あのかわいらしい声も

 くるくると表情を変える色違いの瞳も

 仕種と共に揺れる栗色の髪も

 もう、『存在』自体が愛しくて堪らないのだ。

 溢れかえった愛しさは 止め具の緩んでしまった理性の扉を易々と蹴破り、気がつけばユウナを押し倒してしまっている。
 このままいけば、ユウナに嫌われてしまう可能性だってあるのではなかろうか。
 百歩譲ってそれはないとしても、夜、一緒に寝てくれなくなってしまったりしたら、それはもう死活問題にまで発展してしまう。

 「せめて、夜までガマンしようよ・・・オレ・・・」

 情けなくもそう呟いたティーダの耳へ、聞きなれた足音が居住区へやってくることに気がついた。

 その軽やかな足音は、紛れもなくユウナのもので・・・。

 

 「マスターさん、ティーダ 来たかな?」

 「上で寝てる〜〜よ?」

 「ありがとう」

 

 (うわ、やば・・・)
 このままいけば 間違いなくこちらへ向かってくるであろう愛しい人を目の当たりにした時、今まで反省していたにもかかわらず『我慢できなくなる』ことは火を見るよりも明らかだ。
 階段を駆け上がってくる足音に、ティーダはとっさにベッドへ倒れこみ、寝たふりを決め込んだ。

 

 「ティーダ?」

 

 背後からどうしようもなく可愛らしい声が聞こえる。

 (冷静に、冷静に)

 念仏のように繰り返しながらも 名前を呼ばれただけでとたんに跳ね上がる心臓に、我ながら情けなさを感じる。
 そうしている間にも、さっさとどこかへ行ってしまいそうになる理性を必死に繋ぎ止めているティーダの枕元へ、ゆっくりとユウナが近づいてきた。

 

 「・・・寝てる?」

 

 遠慮がちに発せられた声は、先ほどとは比べ物にもならないくらいに近く、『ああ、もう諦めよう』と観念したその時、ティーダの唇に柔らかく 温かな感触が重なった。
 それはいつも自分が愛らしいと思ってやまない彼女の唇そのものだということは、目を開けずともわかる。

 「ユ・・・ウナ?」

 「・・・あっ!」

 めったにユウナから『そういう事』をしてもらえないティーダが驚いたように瞳を見開くと、そこにはそれ以上に驚いているらしい色違いの彼女の宝石が輝いていた。

 「今の・・・キス?」

 「起きてたの?!・・・えっと・・・あの・・・、うん」

 ティーダは上体だけを起こしてベッドサイドに跪いているユウナの顔を覗き込むと、密やかな行為だったはずの事が愛しい人に知られてしまったことに耳まで赤く染めて俯いてしまっているその様子に目眩を覚える。
 必死に繋ぎ止めていたはずの理性をさっさと手放してティーダは艶然と微笑むと、ユウナに逃げられないようにそっとその腕をつかんだ。

 「ユウナ?」

 真っ赤になった耳元へ唇を寄せて甘ったるい声でその名を呼ぶと、ユウナは華奢な身体をぴくんと震わせて消え入りそうな声で呟いた。

 「寝てるキミ・・・綺麗だなって思って、それで、あの・・・、えっと、我慢、出来なくなっちゃったっていうか・・・その・・・・ごめんね?」

 ユウナの思いがけない告白に、どこかへ飛んでいったはずの理性が帰ってくる。

 一体、何が『ごめんね』なのだろうか?

 それならば、まず 自分が彼女に『ごめん』ではなかろうか?

 なにより、目の前の愛しい人にも『我慢できない』という現象があるということがわかっただけでも、凄まじく嬉しいというのに・・・。

 そう思った瞬間、堪えきれなくなったティーダは爆発的に大笑いしていた。

 「どっどうして笑うの?!」

 ユウナはベッドの上で腹を抱えて大笑いをしている恋人に向かって精一杯の抗議の声をあげるが、一旦こうなってしまったティーダがなかなか元に戻らないのは百も承知だ。

 「もう、いいッス!」

 いまだ笑い続けているティーダに向けて、ユウナは思い切りふくれてみせると その場を立ち去ろうとしたが、それよりも早く再びティーダに捕まってしまう。

 「ごめん、ごめん!」

 今しがたまでベッドの上でごろごろとしていたというのに、あっという間に起き上がったティーダは背後からユウナを抱きすくめてそのままベッドへと座らせる。

 「知らない!」

 「ごめんってば。あんまり嬉しかったからさ」

 耳元で響く彼の声は必死で笑いをかみ殺しているけれど、その言葉どおり嬉しそうでもある。

 「ユウナに襲ってもらうのを待ってみるっつーのもいいかも」

 「・・・・・・・・・っ!!」

 慌てて抗議をするべく顔を向けたユウナの唇を『待ってました』と言わんばかりに自分のそれで塞いだティーダは、心の中で密やかに幸せを噛み締める。

 もっとその幸せを感じたいから、この後はユウナの部屋へ行こうなどと考えている不埒な自分には、結局『我慢』など出来ないのだ。

 先ほどの反省は一体なんだったのか、というくらいにアッサリと自己完結したティーダは、溢れてくる愛しさに抗うことなく、ユウナの身体を抱き上げた。

fin

あー、楽しい。
素イチャ最高。(笑)

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