それは、溢れんばかりの愛のカタチ。

 

スフィア 

 

 月明かり。

 ぼんやりと照らし出す部屋は穏やかで。

 ベッドへ視線を巡らせれば、最愛の女(ひと)の愛らしい寝顔。

 自分は『此処』へ還ってきたのだとその都度確認するかのように、彼女の熱を貪って。

 それでもまだ、素直に瞳を閉じるには『あの時』の記憶が鮮明すぎて。

 セルシウスのユウナの部屋でこうして月を見上げるようになってからどれくらい経ったかな?
 ティーダはそんなことをふと思いながら、静かに椅子に腰掛ける。

 そう広くはない彼女の部屋は、どこもかしこも『彼女の雰囲気』に包まれており居心地がいい。

 リュックには
 『チィはさぁ、自分の部屋で寝てないんだからもうユウナんの部屋に引っ越せばぁ?』
 などと非常に痛いところをつかれているのだが、カモメ団のリーダーで彼女の兄がそれを断固として阻止!という姿勢を崩さない為、今のところ『一応』は『自分の部屋』へ帰ったりもしているが、断然、ユウナの部屋にいることが多いのも事実だ。

 小さな窓から見える月は紛れもなくスピラの輝きで、ティーダはその優しい光を浴びながら小さく微笑む。

 「お、そうだ・・・リュックにもらった・・・アレ、と」

 部屋に帰る寸前に、リュックから手渡された物の存在を唐突に思い出したティーダは、もう一脚ある椅子へ掛けたままにされていたボトムスのポケットをまさぐる。

 やがて出てきたのは手の中にすっぽりと入る大きさの小さなスフィア。

 『映像スフィア』なのだと手渡されたそれを起動させるべくスイッチを押す。
 向こうで眠る愛しい少女を起こさぬように、音声は鳴らないように設定して・・・。

 ブゥ・・・ン・・・。

 小さな機動音と共に現れたその映像に思わず目を見張る。

 頼りなげな映像の中には懐かしい召喚士姿のユウナが笑っていた。

 旅に出る前はビサイドの寺院で『大召喚士』として生活していたのだとユウナから聞いてはいた。
 毎日訪れる謁見の人々の話を聞き、言葉を与え、笑顔を贈る。
 それは単調な毎日ながらも、スピラの人々の役に立っているという充実感はあったのだ、とユウナは笑った。

 多分、ユウナには秘密で撮影されていたのだあろうそのスフィアは、日を変え、時を変え、様々な彼女がその映像を彩る。

 たまにワッカが現れたりしているところをみると、撮影していたのはリュックだけではないらしい。
 その証拠に撮影者がワッカらしい時の映像は、所々とんちんかんで思わず吹き出しそうになってしまうのを堪えるのに大変だった。

 

 ユウナが笑う。

 でもその笑顔はどこか儚げで、胸が締め付けられる。

 時折、何処か遠くを見つめている背中は『あの時』の彼女のようで。

 それでも、幸せそうに笑うユウナのいくつもの笑顔に、ティーダも自然笑みが零れた。

 

 「・・・・・ティ・・・ダ?なあに?それ・・・」

 背後からかけられた小さな問いかけにティーダは驚く風でもなくゆっくりと振り返る。

 もぞもぞと起き上がったユウナの髪には小さな寝癖がついていて、可愛らしいことこの上ない。

 「リュックがね、くれたッスよ。ユウナの2年間」

 「・・・2年間?」

 不思議そうな顔をしたユウナが、身体にシーツを巻きつけてティーダの傍らへ立ちその手元を覗き込んだ。

 「・・・あ!?いつの間に・・・っ」

 ティーダは頬を赤く染めて慌てるユウナの身体を抱き寄せて己の膝の上に座らせる。

 「オレ、ユウナのところに帰ってこれて良かった・・・・」

 ユウナの首筋へ顔を埋め、思わず零れ出た自分の本音に泣いてしまいそうになりながら。

 「うん。もう、離さないっすよ?」

 ティーダを覗き込むようにして微笑んだユウナの笑顔は、映像の中のそれとは比べるまでもなく艶やかで綺麗だ。

 「ユウナ、綺麗になっててビックリしたッスよ」

 スフィアの中で少しずつ女性へと成長していく彼女も、あの日、セルシウスから飛び降りて駆け寄ってきた彼女も、そして今、目の前で微笑む彼女も。

 「キミがそばに居てくれるからだよ?」

 彼女の2年間を埋めてあげる術はないのだけれど、これから先の彼女の時間は、共に歩んでいけるのだ。

 「オレ、自惚れそう」

 「自惚れてくれていいっすよ?」

 月明かりを浴びて小さく笑い合った恋人達はそっと口付けを交わし、幸せそうに小さなスフィアを覗き込んだのだった。

fin

彼の帰還がSUGARのすべてです。

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