それはどこまでも続く幸せの道のり。
2人の影
少しだけ先を歩く、大切な大切な人達。
その背中を見つめるだけで、泣きそうになるのは自分だけではないはずだ、とリュックは心の中でそっと想う。
その想いはまるで世界に唯一つしかない宝石のように、普段はそれはもう大切に、大切に、心の中のずっとずっと奥の方へとしまわれているけれど、ふとした拍子にその想いを掬い上げては幸せを噛み締めるのが最近の楽しみの一つだ。
マキナを弄る。
美味しいものを食べる。
面白そうなモノに手を出してみる。
奇跡に感謝を捧げて眠る。
たくさんの『楽しい』と『幸せ』があるけれど、それでも、今一番心を温めてくれるのは・・・・・・・。
「リュック、さっきから気持ちが悪い」
緩みっぱなしの頬を軽く小突かれて現実に戻り、リュックは隣を歩く美貌の剣士へと視線を向ける。
「だってぇ」
いつもよりも少しだけ声のトーンを落としているのは先を行く恋人達の邪魔をしたくないから。
「いつも思うけど、そんなにあの2人を眺めてるのが楽しい?」
パインの呆れた声はいつもよりも2割増し。
「楽しいよ」
リュックは満面の笑みをもってしてそう切り返すと、再び前方の2人へ視線を戻す。
手にしたスフィア探知機から聞こえる機会音は、目的地がだいぶ先だということを知らせてくれている事実に、まだ当分は自分の幸せが保証されたことに安堵さえする。
「・・・楽しいよ?」
もう一度。
まるで誰かに伝えるかのように。
「あのね、嬉しいから、話してもいいかな?」
『普段はこちらの予定などお構いなしにマシンガントークをかますくせに』と苦笑まじりに呟いたパインの言葉に『そうだねぇ』と笑顔で頷いたリュックは、前方を歩く2人の影を指差してぽつりぽつりと語りだした。
「影」
「影?」
「『あの時』の旅の時はね?こうやってユウナん達の影を見て歩くって、出来なかったんだ」
余裕がなくて。
ただ、答えがない問題にもがき苦しんで。
好きあっているはずなのに公言することが憚られて。
だけど
だけど
どうしても
『最期』のその時までは
せめて
どうか、せめて、愛しい人と共にあって欲しいと我儘にもそう願って。
「みんなわかってたからさ、こう、少し離れて歩いたの。・・・ちょうど、今ぐらいの距離」
本当は、振り返って、幸せそうに微笑む彼女を見たかった。
その笑顔を、どんなことがあっても守るんだ、と改めて誓いたかった。
あがいても
あがいても
旅の終焉の土地がどんどん近づくほどに、己の無力さに絶望しかけて。
「アイツがいなかったら、もっと頭グルグルなってたよ、絶対」
照れたように笑った笑顔の中に少しだけ幼さが見え隠れしていて、今、前を行く『彼女』をこちらが呆れるくらいに愛してきたリュックもまた、あの2年間は辛いものだったのだろうとパインは改めて思う。
「でもね、あの時と違うのはこうやって堂々とユウナん達の後ろを歩けるって事だけじゃなくてね?・・・ほら、そこ」
指差された先には重なった影。
視線を上げればしっかりと繋がれた2人の手。
「もうね、誰に見られてもいいの。何も言われないの。だってもうシンはいないからさ」
「・・・そうだな」
リュックのユウナ至上主義ぶりにパインの顔に思わず笑みが零れたその瞬間、前方を楽しげに歩いていた2人が立ち止まりティーダが大きな声で会話に割ってはいる。
「おーい!リューック!まだ着かないッスかー?!」
「もおすぐー!!」
ティーダに負けないくらいの大声で返事をしたリュックは、再び歩き出した恋人達を見て盛大にため息をついてみせた。
「せっかく気を使ってあげてるのにねぇ」
「・・・リュックが見たいだけのくせに」
ねぇ?
今、すごく楽しいよ?
マキナを弄ったり、スフィアを探したり
平凡な日常って、なんだかすごいね
あの時は想像もつかなかったけど
だからね?毎日毎日ありがとうって想うから
ねぇ?
おっちゃん達も、今、幸せだって信じててもいいよね?
大丈夫。こっちは今日も幸せだから・・・。
fin
あの時の旅の折にはティーダとユウナは後ろでひっそりと手を繋いで後から歩いてくる、っていう感じだったじゃないですか。(笑)
今日は珍しくリュック視点で幸せ噛み締めてますけど、結構リュックから見た彼らの話も好きです。
リュックとアーロンのコンビもスキでした。無駄に前向きで。(笑)