なにもなくても、いつだって

 君の顔を見ていたいんだよ?

 

 膝枕  


 「ユーウーナー」

 「なあに?」

 「ユウナってば!」

 読んでいた本を下から奪い取られる。

 「ごそごそ動くから、くすぐったいよ」

 苦笑まじりに悪戯な恋人へ抗議をする。
 緩やかな午後のひと時。
 ユウナはベットへあがりこみ、枕を立てかけて背もたれ代わりにして座っている。
 『ごそごそ動く』愛しい恋人はといえば、なかば強引にユウナの膝枕をゲットし満喫していた。

 ブリッツシーズンが終了し、今はつかの間のお休み。

 しばらく練習もないティーダにあわせてユウナもスフィアハンターのお仕事は休業して、ビサイドへ『里帰り』をしていた。
 『休み』とはいえ、あと2〜3日もすればガマンできなくなった『ブリッツバカ』のワッカが、猛烈な勢いで練習メニューを組み立てるのは目に見えていて、だからこそ、ここぞとばかりにティーダはユウナに甘え放題だ。

 その『ブリッツバカ』で2人の『家族』であるワッカが家を建ててくれた。
 普段は飛空艇で生活する2人も、ブリッツシーズン前や短いオフはビサイドで過ごすことに決めていて、いつまでも宿舎生活では都合も悪いだろうと『地上用』と称して用意してくれたのだ。
 地上用とはいえ立地条件は海の上で、ザナルカンドの住まいを髣髴とさせる船の家。

 『結婚』こそはしていないものの、2人の仲は村中が知るところで 取り立てて反対もなく、今に至る。

 

 「この本、邪魔ッスよ。ユウナの顔、見えない。」

 奪い取った本をユウナの足元へポイ と置くと、憮然とした表情でユウナを見上げる。
 そんなティーダの態度に自然、笑みが零れる。

 「だってキミ、本当に寝ちゃうから。」

 「もう起きましたー」

 窓辺から入ってくる優しい風にゆらゆらと揺れる黄金の髪。
 何度みても『綺麗』だと思ってしまう青の瞳は、今は悪戯っぽい光を帯びてキラキラと輝いていた。

 「なにッスか、それ」

 「わがままッスよ?ただの」

 悪びれもせずにティーダが言ってのける。

 こんな、他愛もない言葉の応酬に幸せを感じずにはいられない。
 目の前に、愛しい人が存在してくれる 奇跡。

 シューインが『彼』ではないと認めてしまったあの瞬間、自分は絶望的なまでに打ちのめされたのだ。
 それは決して、表には出せなかったけれど・・・・・・。

 「ユウナ?」

 自分を通り越してどこかを見つめているユウナに、不思議そうな色を浮かべて見上げているティーダに慌てて取り繕う。

 「ごめんね?なんでもないよ・・・ただ、幸せだなって思って・・・」

 肌から感じる愛しい人の体温と、確かなその質感に それまでの心の痛みがどこかへ行ってしまう。
 けれど・・・。
 思い出さずにはいられない。
 彼を追いかけた、あの時間を・・・。
 求め続けた心の声を・・・。

 眼下で揺れる黄金の髪を優しく梳きながらユウナは嬉しそうに微笑むと、背もたれとなっている枕の後ろへ手をいれ、あらかじめ用意されていたらしい『予備』の本を取り出す。

 「あああ!!なんスか?!それ!!反則っ!!」

 「先に寝ちゃったほうが反則です。」

 幸せすぎるから、『幸せになれなかった2人』を想う。
 胸が少しだけ痛んで、泣きそうになっている今の顔は見られたくないから、本で顔を隠して・・・。

 「・・・それなら、こっちにも考えがあるッス」

 言うが早いか突然ティーダは愛すべき膝枕から別れを告げ、ユウナが手にしている本の脇から少しだけ顔を覗かすと 意地悪そうな笑みだけを残して、つい と姿を消した。

 「えっ?!なあに?・・・っきゃあ!」

ティーダの行動を追うよりも早く、太ももの内側から甘い痛みが走る。

 取り落とした本の向こうに広がる光景。

 それは、ユウナの足をがっしりと抱えてにんまりと笑う愛しい青年の顔。
 痛みの元と思われる場所には、赤い花びらが 一つ。

 「・・・っや!ひどい!!」

 恥ずかしさでみるみる赤くなる頬を両手で覆い、少し半泣きで抗議する可愛らしい恋人に太陽の名を冠した青年はこの上もなく幸せそうに微笑むと、固定していたユウナの足を解放した。

 「オレだって寝るつもりはなかったんスよ?あんまり気持ちがよくってさあ」

 「もう!知らない!!」

 「・・・ユウナの膝枕、スキ。」

 足を解放してくれたとはいえ、ベットの上でユウナと向き合うように座り、すがるように見つめてくる青の瞳と視線を合わせたとたん、ユウナは身体も心も囚われて動けなくなってしまう。

 「膝枕・・・だけ?」

 それだけ言うのがやっと。
 そんなユウナの呟きにティーダは小さく笑うと、温かで大きな手をまだ少し赤い愛らしい頬に寄せ甘く囁く。

 「全部スキ」

 囁きとともにもたらされた優しいキスに、幸せで眩暈がする。

 こみあげてくる愛しさは、呆れるくらいに際限がない。
 それを自覚するたびに『あの時の気持ち』や『悲しい恋人たち』に想いを馳せたりもするけれど・・・。

 

 「ユウナ。膝枕、もうおしまい?」

 唇が触れ合うほど近くで、甘い誘惑。
 抗える訳もない。
 小さく苦笑してこつん、と額をつけると

 「もう、悪戯しないでね?」

 と、クギをさす。
 嬉しそうにいそいそとユウナの膝枕へ戻ったティーダは、おもむろに先刻自分が取り上げた本を読み出した。

 突然の恋人の行動に戸惑いながらも『本』に向かって問いかける。

 「おもしろい?」

 「う〜ん。よくわからいッス」

 「ティーダ?」

 「なんスか?」

 「ティ〜〜ダ!」

 明らかに流し読みであろう本を上から奪い取る。

 「本、邪魔だね。キミの顔、見えないッスよ」

 「だろ?」

 勝ち誇ったようにユウナに笑いかけると、もう一回口づけをするべくティーダは起き上がった。

 

 

 『あなたたちの分も、このスピラで生きて、幸せになる』

 そんな風に思うのは、おこがましいことかもしれないけれど。

 

 今の幸せに感謝しながら、ユウナは静かに瞳を閉じた・・・・・・・・。

fin

うちのサイトはこうだ!!(念仏のように繰り返してます)←(笑)

ty−top