ごく、自然に零れ出る感謝の言葉。

 

 伝えたいこと 


 「コーヒー入ったよ?はい、どうぞ」

 「ありがと、ユウナ」

 頭を使うことよりも身体を動かす方が好きだと言って憚らない愛しい恋人は、朝から難しい顔のまま分厚い書類に目を通している。

 昨日、練習の帰りにチームの監督であるワッカに手渡されたらしいその書類は今期の契約内容とスケジュール、それに伴う行動に費やす予定時間など様々なことが書かれているらしい。
 当然、その細かい内容のそれは、行き当たりバッタリでお人よしな『兄』が制作したものではなく、ビサイド・オーラカのマネージメントを担当している彼の細君のお手製のものだ。

 居間に据えられた大きな白いソファーに腰掛けていたティーダは、はたと気がついたように書類から視線を上げ傍に立つユウナへ笑顔を向けた。

 「ここ、座る?」

 「うん。ありがとう」

 空けてもらったスペースへと嬉しそうにちょこんと収まったユウナがティーダの手元の書類を覗き込む。

 「なんだか、以外っすね」

 「ええ?何がッスか?」

 「キミがこんなに真剣に契約書とか読むとは思わなかったっす」

 「それ、ひどいッス」

 ティーダは少しだけ拗ねたような顔を作りながらテーブルへ置かれたコーヒーへ手を伸ばす。
 隣に座る愛しい少女は、愉快そうに笑いながら自分のカップへ口をつけた。

 「一応ね、プロだから。移籍したりするつもりはないけどさ、一年ごとに契約更新するって約束だから、こういう書類にはキッチリ目は通すんスよ」

 「えら〜い」

 「えらいッスよ〜?」

 見つめ合い幸せそうに微笑みあう至福の時。

 『あの時』は、お互いにこんな一面を持っているなんて知る時間すらなかった。

 繋ぎ止めておきたかった『彼』と。

 守りたかった『彼女』。

 『何が大切?』と尋ねられれば、すかさず『お互い』と答えたはずの『あの時』。

 その想いは今も痛いくらいに同じで・・・。

 「もうこっちは読んだの?片付けておこうか?」

 「ああ、ありがと」

 感謝の言葉を伝えた後、ティーダはテーブルの上の書類を手に取り、楽しげに眺めているユウナの顔を不思議そうに見つめ、小さく苦笑した。

 「ティーダ?」

 ユウナは苦笑まじりに笑い続ける恋人の顔を覗き込む。

 「いや、オレさ?こんなに素直にお礼とかって言える人間じゃなかったッスよ」

 「ええ?!嘘でしょう?」

 「ホント、ホント」

 思いがけない笑顔の告白をユウナは信じる事ができない。

 目の前で笑う青年は、出会った当初から思ったことはすぐに言葉にするし、行動で表す事だって少なくはなかった。
 それは今でも変わることなく、感謝の言葉のみならず、謝罪の言葉や愛の告白に至るまで、それはもう素直に臆面もなく言の葉に乗せてくれるのだ。

 「ユウナの影響かなあ?ほら、オレってザナルカンドにいた頃ってさ、なんでも手に入ったし、してもらってトウゼン!みたいな環境で育ってたから。・・・まあ、捻くれてたっていうの?それ」

 読みかけの書類を放り出し大きく伸びをしたティーダは、微かに潮の香りが混じる風が吹き込む窓へ視線を移した。

 四角い枠いっぱいに広がるビサイドの青い空。

 ところどころに浮かぶ白い雲はやがて来る夏の到来を知らせるようにキラキラと輝いている。

 ザナルカンドから突然やってきた時も

 暗闇の世界から『この場所』へ帰ってこられた時も

 変わらない青空と、白い雲。

 ・・・そして、少しだけ変わった『彼女』の笑顔と。

 「ああ、あれだな!やっぱりユウナかな」

 「私?」

 「うん。ユウナってさ、『ありがとう』とか『ごめんなさい』とか自然に言えるだろ?」

 「そうかな?」

 「そうッスよ?オレさ、ユウナからいっぱい気持ちもらうから、ちゃんと返したいなあって思って」

 ユウナは『自然なのは今目の前で笑う彼の方に違いない』と心の中で密かに思う。
 想いと共に溢れ出た気持ちは微笑みになり、その愛らしい笑顔をじっと見つめていたティーダが突然真面目な顔で『キスしてもいい?』と呟いた。

 「え、えと、そういうことは、あの、聞かないで?」

 耳まで赤く染めたユウナが消え入りそうな声で言ったその言葉尻を捕まえて、ティーダは盛大に吹き出した。

 「あはははは!だって!ユウナってば突然キスしたらいっつも怒るだろ?」

 「そ!それは!外とか、皆がいる前でも突然するからっ!」

 頬を膨らませて可愛らしい抗議の声をあげる愛しい少女の身体をソファーの隅へ追い詰めたティーダは、この上もなく幸せそうな笑顔を満面に湛えてユウナの瞳を覗き込んだ。

 「じゃあ、2人っきりでいる時は聞かなくてもいいんだ?」

 「え?!まっ・・・ん!」

 

 

 これからも伝えていくよ。

 たくさんの『ありがとう』と

 たくさんの『ごめんなさい』と

 それから、君が数え切れなくなるくらいの『愛してる』も・・・。

fin

我が家のティーダはあけっぴろげで素直ですが、それはやっぱりユウナに出会ってからのものだと思ってます。(笑)

素直に気持ちを伝え合うことって、簡単なようで難しいです。

感じた時に即行動!
太陽様、がんばりましょうね、いつまでも。(笑)

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