ちょっと不謹慎だけどね?

 

  

 

 「あ。空光ったよ?」

 朝食を終え、後片付けをしながらなんとなく目の前の小窓へ視線を上げたユウナの瞳に一筋の光が走り消えてゆく姿が飛び込んできた。

 「雷ッスか?」

 「うん、多分この後雨が・・・」

 ユウナが言い終わる前に大粒の雨がポタポタと音を立てて舞い降りてくる。

 「あ!雨!!」

 「オレ洗濯入れるからっユウナはいいッスよ!」

 その声に振り返れば愛しい人の姿はすでになく、ユウナは小さく笑って彼の思いやりを甘んじて受け取った。

 ビサイドは朝から快晴で、きっともうすぐワッカが『練習日和だ!』などと叫びながら大ハリキリで登場するに違いない、と2人で笑っていたところだったのだ。
 素晴らしく晴れていると思っていた空が、少しだけ目を離した隙にもくもくと雲を広げている光景を目の当たりにした時、ユウナは心の中で『もしかしたら雨でも降らせてくれるのかな?』などと不謹慎にも考えていたなどという事は、ワッカには内緒だ。

 南国特有の大雨。
 雷を伴って突然現れるこの雨はしばらく待てばすぐに止み、やがて素晴らしい青空を見せてくれる。

 雨が止み、晴れてしまえば愛しい人は練習に駆り出されるだろうけれど、それまでは2人きり、家でのんびりしていられるのだ。
 毎日一緒に過ごしていながら、と呆れられるかもしれないけれど、ユウナにとって突然の雨は『嬉しい贈り物』に他ならなかった。

 いよいよ雨脚が強まる直前というところで、洗濯物を抱えたティーダが飛び込んできた。

 少しだけ濡れてしまった恋人を笑顔で迎え入れ、その身体にタオルをかける。

 『先に拭いて』とお願いしているのにティーダは洗濯物を干す場所を作ると言ってきかない。

 鼻歌まじりに洗濯物を干しなおすティーダの後ろから、少しだけ困ったような顔のユウナが濡れてしまった黄金の髪を優しく拭う。

 ささやかなことが、こんなにも嬉しい。

 今まではリュックほどではないにしろ、雷は苦手だった。
 ゴロゴロという響きは、とうに決心したであろう小さな心を嘲笑っているようで妙に不安な気持ちにさせられたのだ。
 大雨に身動きの取れない自分は、ひどくちっぽけな存在に思えて寂しさに拍車がかかった。

 けれど。

 もう、シンはいない。

 決心もいらない。

 覚悟だって必要ない。

 永遠に、ずっと、ずっとナギ節は続くのだから。

 いつのまにか雷は小さな幸せの音になりつつある。

 目の前で揺れる黄金の髪に『彼』の存在を確かめながら、どんなにくっついていたって飽きないと思う自分に少しだけ呆れて。

 「ね?服も着替えた方がいいよ?」

 髪を拭き終えたユウナが洗濯物を干し終えたティーダを覗き込み湿った服を つい、と引っ張ってみせる。

 「そうッスね。じゃあ、練習も休みだし着替えるついでにしよっか?!」

 Tシャツを脱ぎながら臆面もなくそんなことを言ってのける恋人にユウナは苦笑まじりに『だめ』と言い窓を指差して空を見るように促した。

 「まだ降りそうッスよ?」

 「止むよ?だってほら、向こうの空明るくなってきたもの」

 ユウナはくすくすと笑いながら、ティーダが脱いだ服を嬉しそうに受け取り浴室へ向かって歩き出す。

 「あー・・・。やっぱ、止んだら来るかなあ、ワッカ」

 ガックリと項垂れて大きなため息をついているティーダがなんだかもの凄く可愛らしくて、やっぱり、今、凄まじく幸せだな、などと改めて思う自分にユウナはさらに笑顔になった。

 そうだ。

 あえて決心と覚悟が必要だとすれば、『彼』を誰にも渡さないということだ。

 大きなTシャツにコッソリと口づけ『うふふ』と笑ったユウナの耳に、酷く残念そうなティーダの声が滑り込んできて、少しだけビックリしてしまったのだけれど。

 

 「ユウナさん?キスするならこっちにしてくれませんか?お願いだから」

 

 躊躇いながら振り向けば、やけに嬉しそうな愛しい人の愛しい笑顔。

 キスしたら、キミを離したくなくなるからなんて言ったら、どんな顔を見せてくれますか?

 ティーダの肩越しに雷が一筋光ったのを確認したユウナは艶やかに微笑むと、最愛の人の唇に口づけるべく瞳をそっと閉じたのだった。

fin

 

イチャイチャしてます、今日も明日も明後日も!!(爆笑)

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