いつもと一緒じゃん。
雨の日
「はれ〜〜?ユウナんはあ?」
今のところ一番のお気に入りでご自慢の『遊び相手』が、そろそろトレーニングを終わらせる頃だとふんで意気揚々と現れたアルベドの少女が、大きな翠の瞳をさらに大きくしながら目の前の青年へ尋ねた。
「お買い物。リュックも誘わなかったッスか?」
『も』と言われて初めて気がつく。
そういえば、パインの姿も見当たらない。
「誘われたかもしんないけど、あたしさっきまでマキナ弄ってたから」
床に座りゆったりと柔軟体操を繰り返している青年のすぐ傍にしゃがみこみ、少しの逡巡。
多分、マキナに熱中している自分を見て、優しい従兄妹は声もかけずに出掛けたものだと思われる。消耗品の買い足しのためにルカへ停泊したものの今日は朝からあいにくの雨模様で、素晴らしい量の買い物リストを前に『明日にしましょう』ということになっていたのだ。
けれど、せっかくルカに来たのだし。
そうか、遊びに行っても良かったんだ。
今更ながらそんな風に思い、少しだけ残念そうなリュックへティーダが笑いながら言葉をかけた。
「今度は何作ってたんスか?」
「あ!あのねえ今日はこの間スフィアハントで見つけた箱を、こう、ちょちょ〜っと改造してみたんだよねえ〜〜!」
つい、今しがたまでつまらなそうにしていたのに、マキナの話題をふるとあっという間に元気にしゃべりだす。
この明るさに、あの時幾度救われたか。
ティーダがそんな感慨に耽っていると、目ざとく見咎められてすぐに抗議の声が飛んでくる。「ちょっと、チイ、目が遠い!」
「ああ、悪い悪い。それで?」
外は雨。
小窓から見える空は灰色で、まだまだ雨が続きそうだと予感させて。
他愛もない会話に笑顔。
こんな時、ユウナもいればもっと楽しいのにと言い合って2人は更に笑う。
「リュックたちってさ、雨の日はどうしてるッスか?」
今日はたまたまルカに停泊しているから、気晴らしに外へでも遊びに行こうかなどと言えるけれど。
「雨の日ねえ〜。変わんないよお?パインはなんか難しそうな本読んだりしてるし〜ダチとアニキも相変わらずだし〜、シンラは指定席でスフィア弄りに夢中で、あたしはあ〜〜・・・」
「リュックは?」
聞き返されて、ふと考える。
そうか。
目の前の彼が居なかった時は、無条件でユウナの傍で笑っていたのだ。
雨は、行動も制限するし、何より『考え事をする』という時間を彼女に与えてしまうから。
けれど、無理に彼女の隣にいたのではなくて
もっと
もっと
自然に
笑いたかったし、笑って欲しかったから。
「あったしは〜、マキナでも弄ってるかな!」
「なんだそれ。いつもと変わらないじゃん」
呆れたような笑顔のティーダに、心の中では『変わったんだよ』と呟いて。
「チイは?」
「オレ?オレはユウナとベタベタするかな」
おおいばりでそう言う笑顔が可笑しくて。
「チイこそいつもと変わんないじゃん。」
「雨の日はいつもの5割り増しでベタベタする」
ああ。
ユウナん、ユウナん早く帰ってきて。
楽しいよ?
可笑しいよ?
ユウナんもここにいたらもっともっと楽しいと思うのに。
トレーニングの仕上げともいえる柔軟体操もそっちのけで床を転げまわって笑うティーダと、笑う自分の声に更に可笑しくなってお腹を抱えて同じく床を笑い転げるリュックを見て、両手にお土産をどっさり抱えたユウナが呆れたように笑うのは15分後。
居住区に移動して、自分の物よりもティーダ達への物が多いお土産を広げるユウナへ向かい、いかにどちらがいつもと一緒なのかを熱弁する金髪の2人に、熱い紅茶を啜るパインは肩を竦め、ユウナは愉快そうに笑ったのだった。
窓から見る空はどんより灰色
まだまだ雨は降るからね
変わったけれど、いつもと一緒
雨が降っても降らなくっても、きっと楽しい『今』の日々に―――。
FIN
ティーダとリュックが2人でいるのも好きです。(^−^)
ユウナがいないちょっとした時間なんですが、やっぱりユウナがいたほうが楽しいよね!という話が書きたかったと。(笑)
ええ、奴等と同じくユウナ様バカですけど、何か?(爆笑)