こういうコトは、キッチリさせておくのが一番なんだからね!

 

 ブリッツ観戦


 ブリッツシーズンが開幕しリーグ戦も最終局面を迎えているルカは、連日スピラ中から集まってきたブリッツファンでごった返している。

 ナギ節が永遠のものになった今、以前よりはブリッツボールに対する人々の関心こそ薄くなりつつあったものの、今大会より華々しく復帰をしたティーダの出現により、その人気も盛り返しつつあった。
 鬼神のごとき活躍をみせるティーダに、誰もが熱い視線を送る。
 万年最下位に甘んじていた ビサイド・オーラカも、今大会はシード権を獲得していたこともあり、決勝戦まで駒を進めていた。

 「今日もす〜〜〜ごかったねえ!アイツ!」

 いまだ興奮冷めやらぬといった様子のリュックが、アイスクリームを片手に隣を歩く少女へ声をかける。
 スピラではただ一人、青と翠の2色の瞳を持つ彼女は嬉しそうに微笑みながら小さく頷く。

 「必殺シュートでさー!ばし〜〜〜ぃんっって!!かっこよかったねえ!」

 「リュックは興奮しすぎ」

 やや後方から呆れたような声が飛んでくる。
 『だってさあ!』と頬を膨らませながら振り返った先には、パインが苦笑まじりについてきていた。

 スタジアムを出ると、すぐ脇には各チームの控え室へ通じる階段が姿を現す。
 しかし、今は各チームのサポーターでごった返しており、その場所をウンザリした顔で眺めながらパインはユウナへ向けてため息をついてみせた。

 「行くか?」

 「う・・・ん。行かない方が、いいかな?」

 そう言って困ったように笑うユウナへリュックがすかさず抗議の声をあげる。

 「なーんーでー?!行こうよ!ユウナん!!」

 目の前で地団太を踏んでいるリュックを軽く小突いたパインが、階段方向をあごで指し示して現実を叩き込む。

 「あの中を掻い潜って、オーラカの控え室までいけると思うか?」

 日に日に増えているであろうオーラカの・・・というよりも、ティーダのファンでごった返しているあの階段を通らなければ、控え室にはたどり着けないのだ。
 たとえ たどり着けたとしても、少なくない女性サポーターにいらぬ反感を買うのもどうかとも思う。

 「あとでホテルで会えるんだし」

 しばらくの間階段を睨みつけていたリュックが諦めたように微笑むユウナへ向き直り、びし!と指を突きつけて宣言する。

 「ダメだよ!ユウナん!!アイツ、ああ見えても最近すっっっっっごく人気あるんだよ?!この際、びし!っとケジメておかなきゃ!・・・行くよ!!」

 「ケジメって・・・?!リュック?!」

 リュックに腕を引っつかまれ人ごみに消えてゆくユウナをしばらく見つめていたパインは、盛大にため息をつくとその後を追いかけていった。

 

 「はいはいはい〜〜〜!通してね〜〜〜!カモメ団でーっす!ユウナ様のお通りでーす!!」

 

 リュックの掛け声に人波がどんどん割れてゆく。
 腕をつかまれたままのユウナはどうすることも出来ずに、頬を赤くして俯いてしまっている。
 この人ごみさえどうにかなってしまえば、控え室になどあっという間に着いてしまう他愛もない距離なのだ。
 恥ずかしさのあまり、何をどう『ケジメ』ておくのかも聞けないまま、ユウナはとうとうオーラカの控え室の前まで来てしまった。

 スフィアハンターとしてもさることながら、実際は『大召喚士』であるユウナの登場に、周囲の人々も興味津々といった表情で見つめている。

 

 「リュック・・・帰ろうよ」

 

 我慢できずに小さく呟かれた一言に、ようやくつかんでいた腕を解放したリュックは 後方からパインが到着するのを確認すると、突然バンバンと控え室のドアを叩きだした。

 「リュ・・・っリュック?!」

 「お〜〜〜〜い!ティーダ〜〜〜!!いるんでしょお?!来てやったぞおーー!!」

 慌てて止めようとするユウナを『だいじょおぶ!』と制してさらにドアを叩き続けているリュックに呆然としてしまう。
 それは周囲の人々も同じのようで、水をうったような静けさだ。

 一体、何が大丈夫だと言うのか?

 ティーダたちオーラカのメンバーは試合後ここで休息し、ほとぼりが冷めた頃にようやく滞在先のホテルへ帰る事が出来るのだ。
 これではほとぼりが冷めるどころか、帰って人を集めてしまっているではないか。
 ティーダにかかる負担を増やしている事実にどんどん小さくなっていっているユウナを見て、パインがくすくすと笑い出した。

 

 「笑い事じゃ、ないッス・・・」

 

 上目遣いに睨みつけて小さく文句を言ってくるユウナに、思わず吹き出してしまいそうになりながら必死にそれを押さえつけ、前方で繰り広げられている光景に目を向ける。

 

 「あー!もう!!そんなにバシバシ叩かなくたって、聞こえてるっつーの!」

 

 リュックの5度目の『お〜〜〜〜い!』に答えるようにドアが開かれ、中から『スター』になってしまったティーダが顔を出すと、今まで事態を静観していたサポーターから悲鳴にも似た声が上がった。
 今にもティーダを取り囲まんとする気配を察知して、ティーダは素早くユウナを抱き寄せると大きな声で人々に向かって叫ぶ。

 「危ないッスよー!押さないで!!」

 しっかりとティーダの胸の中へ『保護』されてしまっているユウナは、あまりの事に言葉が出ない。
 その様子をこの上もなく嬉しそうに見つめていたリュックが、またも大きな声を張りあげた。

 

 「はいは〜〜〜い!恋人のお迎えが来たのでエース帰りま〜〜〜す!!通して、通して〜〜〜!」

 

 その一言に一瞬目を丸くしたティーダが盛大に吹き出す。

 「何ッスか、それは」

 「本当のことだも〜〜ん!はい!通してくださ〜〜い!」

 

 思考回路の止まってしまったユウナでも、リュックの『ケジメておく』の意味を理解せざるをえない。
 ズカズカと前を行くアルベドの少女は、日ごと増えていく女性サポーターへ『ティーダはユウナのもの』だと宣言しにやってきたのだ。

 この『宣言行脚』は、きっと滞在先のホテルまで続くのだろうと思うと眩暈がする。

 いまだ真っ赤な顔のまま俯いて何も言わないユウナを、ティーダは気遣わしげに覗きこみ、唐突にその華奢な身体を抱き上げて階段を上りだした。

 「やっ!あの・・・っ降ろして?」

 「やっとしゃべったッスね」

 「え?!」

 「ね、ユウナ?今日のオレ、かっこよかったッスか?」

 この状況をなんとも思っていないらしい目の前の恋人は、それはもう甘ったるい声でそんな質問を投げかけてくるのだ。
 すんなりと階段を上りきり、いよいよ街へ向けて一歩を踏み出さんというのに・・・。

 

 前方ではリュックがまだ『宣言』し続け、その隣ではパインが笑いをかみ殺している。

 ティーダはユウナを抱いたまま、降ろしてくれそうな気配は微塵もないし、視線を巡らせれば、驚きつつも微笑ましげに見守ってくれる人だかりだ。

 もう少しすれば、後方からワッカたちも来てしまうだろう。

 

 こうなってしまえば、自分ではもう何も、どうにも、出来ないのだ。

 

 熱くなった耳が冷めるのはまだ当分先だと諦めて、ちらりと恋人へ視線を向けると ユウナは覚悟を決めたようにため息をついて、ティーダにだけ聞こえるように小さな声で呟いた。

 

 

 

 「いつも、かっこいいんだよ、キミは」

 

 

 

 この『宣言行脚』はシェリンダ率いるカメラクルーにしっかりとキャッチされ、スピラ中へと配信されることとなる。

 

 『大召喚士』・『スフィアハンター』に加え、『ビッグカップル』という肩書きが新たにユウナへ付いたのは言うまでもない。

fin

爽やかに!!(爆笑)

リュック様ご活躍の巻。(笑)
でも、さらりと抱っこはしてますけども!はい!

ティーダって、結構恥ずかしいことでも平気そうだなあと思って。
ユウナ一番なんで!!

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