感心を通り越して、呆れたよ。

 

 久しぶりの休日 

 

 片付けても、片付けても、後から後からやってくる書類の山に正直疲れたと思っていた。

 一日中座りっぱなしで身体のあちこちからは軋む様な悲鳴が聞こえ、心底『休みたい』と思っていたのだ。

 まさか心の底から願って止まなかった休暇をこんなにも持て余してしまうなどとは思いもよらずに。

 

 

 「・・・・はぁ」

 目覚めてからもう何度目かわからないため息をつく。

 いつもは書類だらけの机の上はスッキリと片付けられており、忙しなく出入りする僧官の姿も今日はない。
 清々としていたのはゆったりと読書を開始した1時間だけで、その後は訳もなく部屋の中をうろうろとしてみたり、読みかけたまま放り出された本をパラパラと捲ってみたり。

 『仕事』がなければこんなにも空っぽになってしまう自分に、我ながら感心を通り越していっそ呆れてしまう。

 こうして議長室に陣取っているのがいけないのだと解ってはいても、ベベルの街へ繰り出す気力もない。
 よしんばその気力があったとしても、真エボン党議長である自分が、何もないのにたった一人でブラブラと歩くのもどうかとさえ思う。
 突然舞い込んだこの休暇をどう有意義に使おうか、そればかり考えていたというのにこの始末では、自嘲気味に笑ってみせる他ないだろう、と自己弁護にも近い独り言を呟いた。

 

 こんな時、ふと思う。

 

 自分はこの世界でたった独りなのではないかと。

 

 そして同胞を想う。

 

 彼らはすでに己が歩むべき『道』を

 

 共に進むべき『仲間』を手に入れているのだと――――。

 

 窓の外で鳥が鳴いた。
 なんとなく、つられて視線を移すとそこには瞳を焦がしてしまいそうな強い太陽の光。

 「・・・彼は、元気なんだろうな・・・今日も・・・」

 知らず零れ出た言の葉は、半年前に出会った『太陽』へのもの。

 

 一番近くにいて

 

 一番遠くにいた

 

 焦がれて、掴み取りたくて、そのものになりたかったのかもしれない。

 

 きっと、今でもその憧憬は止まず

 

 だからこそ思い出す―――あの眩い『太陽』の光を。

 

 

 

 「そういえば、この窓からゆっくりと外の風景を眺めたことさえなかったな」

 窓辺に佇み、眼下を見下ろしたその先・・・・・。

 「・・・・・え?」

 太陽が

 「・・・嘘だろう?」

 陽の光を受けて輝く黄金が

 

 

 「今日、休みだって聞いたから遊びに来たんだけどー!!」

 

 

 笑う太陽の周りには人々の笑顔。

 その中にはかつての同胞の姿さえもあって。

 

 

 窓を開ける。

 開くことさえなかったこの大きな窓を。

 そして身を乗り出し、陽光を全身に受け止めて

 

 「退屈で死にそうだったんだ。何処かへ連れて行ってくれないか?」

 

 『死にそうだ』などと、冗談でも言うものかと思っていたというのに、口にしてしまえば存外簡単なことであったのだと冷静にも分析さえして。

 

 

 「メシはバラライのおごりだからな」

 ギップルのおどけてしゃべる口調は昔から変わらない。

 「そんなにたくさんは勘弁してくれよ。ああ、女性陣だけになら喜んで」

 微笑み、ふわりと踵を返して『あの場所』を目指す。

 「キザー!!」

 背後でそんな声が聞こえても。

 

 

 

 『仕事』で満たされるのもいいのかもしれない。

 其処が自分の在るべき場所だと思えたなら。

 そして、時折でいい。

 その他にも羽根を休める場所があるのだと知らせてくれる存在を感じさせて欲しい。

 相変わらず、身勝手で自己中心な自分だけれど

 「きっと、笑うんだね・・・『久しぶり』って・・・」

 

 

 思いがけない休暇

 信じられない客人

 そして、何よりも驚くのは・・・『太陽』に向けて素直に笑える自分が居たということに・・・。

fin

議長も、幸せになろうよ計画。(笑)

 

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