月明かりの中で静かに眠る君の顔を見ることが出来るのは、自分だけ。
寝顔
「昨夜も私、先に寝ちゃった・・・・・・・」
白い素肌にシーツを巻きつけただけのユウナが、ベッドの上でガックリとうなだれる。
「いいじゃないッスか。ユウナの寝顔かわい・・・・っぶ!」
その隣で寝そべったまま楽しそうに笑う恋人の顔へ枕を押し付ける。
いつも、いつも、自分のほうが彼よりも先に眠りに落ちてしまうのだ。
願い、祈り、追い求めて、奇跡の果てに手に入れた幸せが、本当は夢だったのではないのかと眠りにつくことさえ不安だったユウナは、ティーダと肌を重ねるごとに少しずつ安心できるようになっていった。
『不安』からではなく、『幸せ』だからこそ彼の寝顔が見てみたい。
そうはいってもまったくティーダの寝顔を見たことがない、とも言い切れない。
移動中、飛空艇内の共同の居住区でチョコボに埋もれるようにして昼寝をしていたり、ユウナの部屋で本を読みかけてそのまま沈没してしまったり、それはそれは愛しい寝顔を、彼が起きないように細心の注意をもってして堪能したことは、ある。
けれど。
星が瞬く静かな夜でのそれには、お目にかかった例がない。
毎夜、身体の内にくすぶっていた熱が静かに消えてゆくのを感じた瞬間、もう眠りについている自分が情けない。
襲いくる睡魔と必死で格闘しているユウナの瞳に最後に映るのは、幸せそうに微笑む愛しい人の笑顔のみ。
「今日こそは絶っっっ対に寝ないもん」
何度目かわからなくなった決意表明に、押し付けられた枕を抱えてティーダは思わず苦笑する。
「どうしてそんなにオレの寝顔が見たいッスか?」
「・・・どうしてって・・・」
下から見上げられて、一瞬たじろぐ。
「私ばっかり、恥ずかしいから・・・」
あながち嘘とも言い切れない理由を口にする。
しかし、本当の、ホンネのところでは、それよりももっと『恥ずかしい』事情があるのだ。陽光を受けて転寝をするこの愛しい人の寝顔は、ユウナが息をするのも忘れてしまうくらいに『綺麗』だ。
やんわりと部屋を照らす頼りなげな月明かりの中で見る彼の寝顔は、どんなに綺麗なのかがどうしても知りたい。
けれど、情けない自分の身体は彼でいっぱいに満たされると、気持ちだけを置き去りにしてアッサリと眠気に降伏してしまうのだ。
「・・・ふうん。」
まるで『何もかもお見通しですよ?』とでも言わんばかりのティーダの視線から逃れるように背を向ける。
こんな邪な考えの下、日々格闘しているなどと彼に知られた日には、それこそ恥ずかしくて失神してしまいそうだ。「もう!今日はとにかく寝ない!」
それだけ宣言して着替るべく立ち上がろうとしたその瞬間、寝ていたはずのティーダに腕をつかまれてベッドの中に引き戻されてしまった。
「ティーダ?!」
「だーめ。ユウナが寝るまで、オレも寝ないッスよ?」
日向の匂いがするたくましい腕に抱きしめられて、耳元から聞こえる少しかすれた声に、ユウナは身体が硬直してしまう。
首筋へかかる彼の吐息にゾクゾクしながら、やっとの思いで声を出す。
「ど・・・して?」
「だって、ユウナの寝顔、夜にしか見れないから」
「え?!」
驚いた様子のユウナへティーダは優しく微笑むと、そのまま白く華奢な身体をゆっくりと押し倒して、シーツの波にユウナを器用に縫いとめてしまう。
「ユウナのこと独り占めしてるって実感したいから、ユウナが寝るまで寝ないッス」
意地の悪そうな光を青の瞳に湛えた恋人の、次の行動をやんわりと察知したユウナはなんとか起き上がろうともがいてみるが、所詮力の差は歴然としていて諦めざるを得ない。
「あの・・・・着替えない?」
「着替えない」
おずおずとお伺いを立ててみるもアッサリと却下されてしまう。
自分を押さえつけている恋人の瞳は、明らかに楽しそうだ。「ユウナ?」
「はい?」
「しよっか」
「ええええっ?!ダメ!!ダメっ!朝・・・・っあん・・・・っ」
ユウナが敏感に反応してしまう場所へ舌を這わせながら、ティーダは湧き上がってくる自分の想いに苦笑する。
実際はユウナの寝顔も見たいのだが、それよりもなんだか必死に眠気と戦っている彼女が『どうしようもなく可愛らしい』ので、それを眺めているのが最近の楽しみだとはどうしても言えないな、と内心ほくそえむ。「今でも十分独り占めだけど」
嬉しげに呟かれた一言が、ユウナの耳に届いたかどうかはわからないけれど・・・・。
fin