こんな奇跡もあるのだと、痛いくらいに感動した。
物語
「おい、さっきから見てればお前・・・ユウナへのプレゼントばっかり選んでねぇか?」
「うっわ!イキナリ声かけるなよワッカ!ビックリするっつーの!」
暖かそうなマフラーを何本か手にとって悩む俺の背後から、突然声をかけられて正直驚いた。
『伝説のガード』なんて呼ばれてても何かに集中してたら気がつかないってコトもあるんだよ。
そういうワッカだって両手に抱えてるのはイナミへのプレゼントばっかりのくせにさ。「ルールーにも何か用意したんスか?」
「う・・・そ、それが・・な?」
ああ、その愛想笑いは見た事あるぞ。
困った時に出るそれだ。「仕方ないッスねぇ。一緒に見ようか?」
「助かった!俺はその、どうもよくわからなくてなぁ!」
あ〜あ〜。
一気に肩の荷を降ろしたし。
オレに言わせればさ、嫁さんにあげるプレゼントで悩むワッカの方がわからないッスよ。
すっかり様変わりしたキーリカ。
今はクリスマス用の荷がルカから大量に押し寄せ、近隣の島からはそれを目当てにやってきた人でごった返してる。
通り一面に広がる出店は壮観で、眺めて歩くだけでも十分楽しい。
楽しいと思うほどに、ユウナも連れてくるんだったって思うんだけど、『初めて2人で過ごすクリスマスなんだからどうしてもご馳走を作る!』って言ってきかないかったんスよね・・・。
そういうところは2年前のユウナとかぶるなあって、少しだけ感動して。今日のオレの使命は所謂『クリスマスツリー』を買うことなんだけど、どうしても『ユウナへのプレゼント』に神経が集中して仕方がない。
ツリー関連のものはさっさと買って、残った時間を有意義に使う。
あの頃は、クリスマスなんてどうでもいいと思ってた。
女の子へプレゼントを贈るだなんて、どうかしてると笑ってさえいたんだ。
ザナルカンドを覆い尽くすイルミネーションもうざったくて、近くにあるお手軽な愛に手を伸ばして満足してた。
ビックリ。
今のオレって、どうよ?
あったかそうなセーターを見れば『ああ、ユウナに着せたい』って思うし
綺麗な髪留めを発見すれば『コレはユウナに似合うから』だなんて言い訳がましいことを言いながら速攻で買ってるし
物で愛情を計りたいんじゃなくて、なんていうか、ごくごく自然にそう思ってる。
現に今オレの両手はユウナへの贈り物でいっぱいだし。
か・・・帰ったら怒られるかな。
あ・・・呆れられるかな。
でも、こんな『まともなクリスマス』は生まれて初めての経験で、正直すげぇ浮かれてるんだよな。
一緒に過ごす相手がユウナともなれば、それはもう。
「ほら、ワッカ。これなんかどうッスか?」
綺麗なかんざし。
赤い石がルールーの髪に映えてきっと似合う。
「おおー。さすが遊び人」
「オレが選んだってバラすッスよ」
「悪かった」
謝るくらいなら言うなっつの。
まったく、世話のかかるオッサンだなあ。
それでも
なんだか嬉しそうにルールーへのお土産を買うワッカを見て安心してるオレがいて。
時間は確実に進んでるのがわかるけど
そう
『あの時』オレの物語は終わっていたはずなんだ。
ユウナにクリスマスプレゼントを選ぶ
ケーキとご馳走を前に最愛の人と2人だけで過ごす
夜には星を数えて
少しだけ小さな声で飽きることなく話をして
そんな『奇跡のような』物語が、オレのこの身にやってくるのかと
「ワーッカ!!連絡船!!出ちゃうっつの!!」
「わりぃ!わりぃ!!」
両手には抱えきれないほどの幸せを詰めて一目散に帰るから
ユウナ?
今度は共に紡いで行こう
『物語』を聖なる夜に誓って
fin
『クリスマス』のティーダサイドです。
先に『クリスマス』を読んでいてくださると、少しだけわかりやすいかもしれません。帰還してその年のクリスマスです。(笑)