月見が丘

 

南国の、他より一割り増し元気な太陽が沈んで代わりに輝くのは月と星。
ザナルカンドの家の窓からは見ることもなかったし、見上げたって街の明かりにかき消されて、ああ夜だったなと認識する程度のことだった。
毎日作りすぎては朝昼晩と同じメニューを食べて、それが嫌になれば外に食事に出かける。
便利と言えば便利。
楽しいと思えば楽しかったのだろう。
けれど今となってはもう、何故それらの日々が良かったのかわからない。

だって、「彼女」が居ないから。

「星、綺麗ッスねぇ」

ソファーに四肢を投げ出して、なんとなく口をついて出たのはそんなこと。
とりたてて意味を持たない呟きは台所で忙しそうに働く彼女には届かない。
後片付けくらい手伝ったって良いのに、させてくれないからつまらないのだ。
食器を拭くくらい、隣でしたい。
もうたくさん話したけれど、手伝うついでにもっと話したい。

否。

話したい、けど、そうでなく。

「どうかした?食べ過ぎた?」

ぼんやり窓の外を眺めている様子に台所から現れたダイスキな笑顔が一つ。

「んー?まあそれもあるけど」

「けど?」

「つまんないッス。ユウナいないから」

「いないって・・・」

まるで駄々っ子だ。
居るのに。
傍に。
此処に。

「だって触れない」

一緒に居られて嬉しいから、だからもっと触っていたいのだと宣言したら、「こまったさん」の称号と共に苦笑い。

今日は月も星も綺麗だから散歩に行こうと誘う。
それは理由にしかならないけれど。
月も星も、もうどうでもいいのだけれど。

「オレねえ、ユウナが考えてるよりこまったさんだよ?」

色違いの瞳を覗き込んでそう言ったら、「じゃあ、ものすごいこまったさんだね」だなんて笑うから、「そうだよ」とお返しして桃色の唇にキス一つ。
そう、こんな幸せな瞬間は月にも星にも見せたくない。
でも、理由が欲しいから「月が綺麗だよ」だなんて言うんだと自己分析なんかして笑うそんな夜。

fin

スキマスイッチの歌「月見が丘」が、個人的に大当たりティユウソングだったので。

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