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いつでも笑ってるアンタは・・・そう、思ったことはないのか?
うまく言えない
・・・スピラの、空。
どこまでも澄んでいて、どこまでも遠くまで広がっていて、あの、どこか息が詰まるような・・・限られた範囲でしか広がっていないのだと思わせるようなザナルカンドの空とは・・・違う。
当たり前のことだけれど、太陽が昇れば朝がやってくるし、月が輝けば皆ひっそりと眠りにつく。
本当に、本当に、至極当たり前の、スピラの・・・。
「甲板に居たのか。ユウナが探してたぞ」
小さな機会音と共に背後から突然朴訥とした声がかかる。
その性格そのままといっても過言ではないとも思えるキッチリとした足音を聞きながら、舳先に腰掛けていた黄金の髪の青年が声の主へ顔を向けた。「サンキュ、パイン。ちょっと空なんか見たくなってさ」
ふわりと浮かんだ優しい笑みに、彼の1メートル手前で足を止めたパインが腕組みをして小さなため息を漏らした。
初めて会った時から、いまだこの青年を掴みきれない自分がいるのだ。
性格はいたってわかりやすいし、人付き合いもそつなくこなす。
なにより明るい。
ユウナが彼のことを『太陽』だといって憚らない気持ちも良くわかる。けれど、リュックから掻い摘んで聞いた『あの日』の出来事と今の生活を、目の前にいる青年は一体どう思っているのだろうか。
いや、この際、『どう思っているか』は関係なく、ただひたすら単純に・・・
「不安・・・じゃないのか?」
気持ちが良さそうに空を仰いでいる青年へパインは思わず尋ねてしまったことをすぐに後悔した。
突然投げかけられた疑問符に、それこそ青い瞳をめいっぱい開いた青年はしばらくパインの顔を見つめていたが、『聞いてしまったあとに凄まじく後悔してます』と言わんばかりの彼女に、彼は盛大に吹き出してみせたのだった。謝罪するのもおかしい。
しかし、質問をしておきながらこの場を立ち去ることも出来ない。
居た堪れない表情で立ちつくしているパインへ青年は『そこへ座れば?』と笑顔で言ったが、彼女はその申し出をやんわりと断った。
「不安・・・ッスか」
ごろりと仰向けに寝転がり空を見上げながら呟かれた一言に、パインはやはり聞かなければ良かったと改めて思う。
いつ見ても幸せそうに笑うこの青年が、ユウナと共にナギ節を永遠のものにした『伝説のガード』であり、己の命をもってして『召喚士』の・・・というよりも『最愛の少女』を救ったなどと、俄かには信じられなかったのだ。そして、今目の前に存在している『彼』が・・・・。
「いや、いい。忘れてくれ」
踵を返し、エレベーターへ向かうパインの背中に彼のいつもどおり楽しげな声が届く。
「不安じゃないって言ったら、嘘になるッスね。オレ、またある日突然『消える運命なんだ!』とか言われないかなあとか、本当は夢見てるだけじゃないか、とかね」
深刻な告白のはずなのに、やけに明るいその口調にパインは思わず振り返り彼の表情を確認する。
そこには、やはりいつもどおりの笑顔で『うまく言えないんだけど・・・』と前置きをしてから愉快そうにしゃべる彼が居た。
「けどさ、オレの不安はユウナには敵わないんだ」
「・・・ユウナ?」
青年は不思議そうな色を湛えた赤い瞳を見つめ、やや自嘲気味に微笑むと祈るように言の葉を紡ぐ。
「今のオレの『不安』なんてさ、ユウナの2年間に比べたらちっさいコトだと思うから」
「小さい・・・こと?」
「そう。こうしてスピラの空を見てたりするとさ、いろんなこと思い出したり・・・これからのことを考えたり・・・でも、それは『不安』って言うんじゃなくて・・・う~ん・・・『希望』っつーの?よくわからないけどさ、難しいことは」
『希望』だと、そう言いきれるその『強さ』はどこからくるのか・・・。
「もしも、また『お前は消える』とか言われたって、ユウナがスピラにいる限りは素直に聞くつもりもないし・・・ああ!逆にユウナがいなかったらオレがスピラにいる理由もないわけで・・・。う~ん、とにかくさ、もうユウナを手放すつもりもなければ、離れる気もさらさらないんだよ、オレ」
印象はいつも笑顔。
その明るさは周りまでも巻き込んで、それこそ天に輝く太陽のように温かくさせる。
あの悲しい運命を受け入れざるを得なかった1000年前の青年が、今目の前で笑う『彼』だったならスピラは大きく変わっていたかもしれない。
そう思うことは酷く間違っているかもしれないけれど、とパインは心の中で勝手な我が身を戒める。
軽薄なのかと思えば凄まじく誠実。
軟弱かと思えば信じられないくらいに強靭。
「やっぱり、アンタのことはよくわからないな」
知らず零れ出た笑みにパイン自身でも驚きながら青年へ語りかける。
「あ、オレにも尊敬ポイントってあるッスか?」
勢いよく起き上がってそう尋ねてくる彼へ、パインは小さく肩をすくめて見せると『減点はされてないな』とだけ言い、甲板を後にするべく歩き出す。
「満点なのか、O点なのか、教えてから帰って欲しいッス」
不満そうに呟かれた一言が密やかに笑う彼女に届いたかどうかはわからないけれど。
fin
それこそ『うまく言えない』感じ満載のSSでした。(土下座)←(笑)