言いたくても、言えなかった日々に。
キミに、会いたい
「ねぇねぇ、ユ〜〜〜〜ウ〜〜〜〜ナ?」
可愛い可愛いわんこが、可愛い可愛い顔をして、可愛く可愛く纏わりつく。
可愛いわんこは遠征合宿から帰ってきたばかり。
お気に入りの白いソファー。
膝の上ではわんこの黄金の髪がふわふわと。
窓から見えるビサイドの空は今日も快晴。
しかも明日は練習がお休みとあって、わんこは自分のがんばりを労いながら大好きなお酒なんか舐めている。
「もう、キミ、酔ってるの?」
呆れ顔でそう聞いてみたけれど、自分から見たって『あれくらい』の量のアルコールに、このわんこが酔っ払うわけがないのだ。
「酔ってないッスよ。だってユウナの口から聞きたいから」
それこそ『わんこ』から『にゃんこ』へ変身してしまったのか、ユウナの太股へすりすりと頬を摺り寄せてティーダは甘ったるい声で再度問いかける。
「オレに会いたかった?」
シーズン前に突発的に行われる合同合宿にティーダが出掛けていって2週間。
監督同士が旧知の仲ということもあり、キーリカ・ビーストと組むことが多いそれは、責任者同士の相談(密談)の上、合宿場所が決められる。
前回の合宿では幸いビサイド島と相成ったが、今回はキーリカ島ということでユウナは2週間のお留守番生活を余儀なくされた。オーラカのエースで彼女の恋人は、毎回毎回断られているにもかかわらずユウナを現地まで連れて行こうと画策するが、そのどれもこれもが失敗に終わり泣く泣く出掛けていくというのが今では恒例となっていた。
そして、今回もご多分に漏れず作戦は失敗に終わり、只今離れていた時間を埋めるべく『わんこ化』しているのである。
『会いたかった?』
そう聞かれれば答えは『会いたかった』に決まっている。
彼がいない日々は時間の進みも遅くて退屈なこと極まりない。
洗濯をしていても、食事を摂っていても、いつも頭の中を占領しているのは、今自分の膝の上で甘えまくっているその人だ。
わかっているくせに、聞いてくる。
根性悪、とも思う。
そういう自分だって、素直に『キミに会いたかった』と言えば済むのかとも思うけれど、尋ねられて正直に答えてしまったら、膝の上の温もりがなくなってしまうとわかってるから。
『ただいま』
『おかえり』
微笑みあって抱きしめて、それもとてつもなく素敵なことなのだけれども。
『会いたかった?』
ただ、自分からその一言を引き出すためにゴロゴロと甘えまくる恋人のことが、好きで好きでたまらないのだと白状したら一体どんな顔をするだろう?
そう思ったら可笑しくて、ユウナは一人含み笑いを繰り返す。
「ユウナ?」
「ん?なんでもないっす」
左手で黄金の髪に触れ、右手は彼の手を握るべくするりと移動させて。
手を握って髪を梳いて膝枕。
スピラの人気者であるところの彼を自分だけが独占できる。
彼が『会いたかった?』などと甘えて尋ねてくるのは、この世界どこを探したって『自分』以外いないのだ。
会いたくて
会いたくて
会いたくて
でもその想いを言の葉にのせることも出来なくて
もしも言霊が『彼』を引き寄せてくれるというのなら、声がかれても、喉がつぶれても、叫び続けたに違いない。
だからこそ・・・軽々しく言える一言ではないのだから・・・。
そんな自分の想いを、彼は一生知らなくていい。
「ユウナ、2週間の間にまた可愛くなった」
眼下で輝くハニースマイルは目に痛いほど眩しくて
「・・・キミの『可愛い』はどこが上限なの?」
おどけて聞いているけれど、鼓動は次第に大きくなって
「ユウナに限っては上がないんだよなあ・・・困ってる、実は」
困るなんて
困るなんて
それを言うなら自分の方
「私・・・キス、したいな・・・今」
「オレなんかそれ以上のこともしたいんスけど!ダメ?!」
『会いたかったよ』って言の葉にのせることは簡単だけど
気持ちを伝えることも必要だけど
温もりが傍にある『今』だから、手を差し伸べる方を選んでしまう自分がいる事実にユウナ自身苦笑せざるを得ないときもある。
「いいっすよ?」
「まじッスか?」
目を丸くする彼も見たいから。
『キミがいなくて、さみしかったよ?』
色違いの瞳を閉じるその瞬間、ほろりと零れ出た恋人の告白に、ティーダはこの上もなく幸せそうに微笑むと、その温もりを確かめるようにきつくきつく抱きしめたのだった。
fin
毎回言ってますけどバカップル万歳。