こんなことに緊張してるって言ったら、可笑しいかな?
2人で1つ
大好きな『彼』を追いかけて、追いかけて、探して、手繰り寄せて、そして抱きしめてからの毎日は『怒涛の勢い』と評してもいいかもしれないというくらいに慌ただしく、時間の流れも大急ぎ。
ビサイドで大召喚士として過ごしたあの日々は、きっと世界中の時計が狂っていたのだと断言できると思う自分に気がついた時、ユウナは少しだけ自嘲気味に笑うのだ。
なんて欲張りで身勝手な自分。
それでも、そんな自分は嫌いじゃないのも事実であり、そう感じられる今は『彼』が傍で微笑んでいてくれているからに他ならず、『恋』とはこんなに素晴らしいのか、と感動さえ覚えつつ日々を暮らして・・・・。
『どこで契約してもいい』
やせ我慢がバレバレな優しい兄の申し出に『オーラカで』と答えた愛しい人。
黄金の髪越しに見えたワッカの顔は面白いくらいに歪んでいて可笑しかったけれど、でも、その一言がユウナ自身にとっても凄まじく嬉しかったのだ。
思わず『ありがとう』と言ったユウナに向けて、太陽の化身は眩しすぎる笑顔で『こちらこそ』と囁き、2人でセルシウスを降りた。それからは、毎日毎日朝から晩までブリッツボール漬けの日々。
『少しは休ませろ』と文句を言いながらもウキウキと出掛けていくティーダと、『文句を言わずについてこい』と豪快に笑うワッカを、ルールーと2人で見送る。
その後は彼が帰るまで、寺院の仕事を手伝ったり、イナミの面倒を見たりとそれなりに忙しかった。
なにより、帰還することがなかったはずのユウナの部屋を、手付かずのまま残してくれていた寺院の皆へ少しでも恩返しをしたかったから。
「ユ〜ウ〜ナ?な〜に考えてるッスか?」
「えっ?!きゃあっ」
突然の呼びかけに我に返ると、目前にティーダの笑顔があることにユウナは思わず声をあげた。
「きゃあって・・・。ユウナ、どれがいいか決めた?」
苦笑まじりのティーダが呆れたような口調でそう言いながら、人差し指で前方を指し示す。
「い・・・いいかって・・・あの・・・・えと・・・・」
言いよどんでいるうちに耳が赤くなっていくのが自分でもわかるくらいに熱い。
恋人が指し示す先には大きなベッドが所狭しと並べられており、今日、自分達はこの中の『どれか』を購入するためにわざわざルカの家具屋まで来ているのだ。怒涛の勢い。
宿舎と寺院で別れて暮らす自分達に、ワッカが家を建ててくれたのは1週間前のこと。
彼のザナルカンドでの生活をそのまま再現したかのような船の家には必要最小限の設備しか整えられておらず、そろそろ少しずつ買い揃えようか、と言い出したのはティーダの方。離れて暮らすには少しだけ不便で、離れて暮らしている意味もないような生活をしていたのも本当で、一緒に住みたいな、などと思っていなかったか?と問われれば否ともいえず、そして、出来上がった家に必要な家具を購入してこいと、ビサイドを追い出されたまでは良かったのだけれど・・・。
「ベ・・・ベッドって・・・あの、1つ?」
今更であんまりな質問だと自分でも思うのだが、目の前に広がる『現実』に凄まじく恥ずかしい気持ちが手伝って、つい、そんな言葉を口走る。
「ユウナが別々に寝たいって言うなら、オレは2つ買ってもいいッスよ?」
そんなことを言うはずないのに・・・。
思わずそう言いかけて意地悪な恋人を見上げると、そこにあるのは愉快げな笑顔そのもので・・・。
「ひ・・・・・1つで、いいもん・・・・」
にこにこ笑って事の顛末を見守っている店員の視線を避けるように呟いたのに
「ユウナは2人で1つのベッドでいいんだ?」
落とした視線を追いかけるように覗き込んできた青の瞳はやっぱり少し意地悪で
「ひとつが、いいの」
結局はティーダの思うがままに言わされてしまうのに、それも幸せだなと思う自分もいて
おそろいの食器
その食器たちが納まる予定のアンティークの食器棚
ティーダが一目惚れした2人がけの白いソファー
そして
独りで寝るには大きすぎるけど、2人で寝るなら少しだけ窮屈なベッド
この先も、きっとずっとこんな風に、2人で使う色々な物を2人で共に買い揃えて
「素敵だね」
世界は
恋は
幸せの日々は
繋いだ手に力を込めて思わずそう呟いた。
「ユウナがいるからね」
自分の右側の、少しだけ見上げた場所で優しく微笑む恋人に『キミがいるからだよ』と反論したら、青い瞳が少しだけ驚いて、再び笑い、こう囁く。
『2人でいるから』
だから、世界は素晴らしいのだと。
fin