伝えられなかった想いも

 伝えたかった気持ちも

 あの時、全部全部閉じ込めて見て見ぬ振りをして『これでいい』なんて

 もう、出来ないね

 もう、しなくていいの

 素直に、キミに伝えたい

 想いのすべてを、言の葉に乗せて・・・

 

     コトノハ

 

     「ユウナはさあ、オレのこと、好き?」

 セルシウス内に設けられた恋人の部屋で夕食後ゆっくりとするのがすっかり日課になりつつあるユウナは、今日もご多分に漏れずティーダの部屋を訪れ、彼の読みかけと思しき雑誌を手に取り、いたずらにページをパラパラと捲っている時の突然の問いかけだった。

 「・・・なあに?突然・・・」

 彼がスピラへ帰還して以来、こんな『突然』は幾度もあって、我が事ながらもういい加減慣れてくれればいいのに・・・などと思うものの、いまだに彼の一挙手一投足に胸がざわめく。
 けれど、そんなざわついた胸中も、決して嫌なものではなく、むしろ幸せすら感じてしまうシロモノだから、いつまで経っても慣れない自分に呆れつつ、まあいいか、とも思うのだ。

 「だからさあ、ユウナはオレのこと好き?」

 ベッドの上で胡坐をかき、こちらの気持ちを探るように瞳を輝かせながら問う、愛しくて止まぬ恋人に少しだけ呆れた。

 

 

 何を今更・・・。

 

 

 そう思うから、少しだけ意地悪がしたくなってわざと強い口調で反撃開始。

 「そんな質問にはお答え出来ません」

 「えええええええっ?!」

 ベッドの上から転げ落ちそうなほどに身を乗り出して驚く姿に思わず笑い出してしまいそうになるのをグッと堪え、手にしたままだった雑誌へ再び視線を落としてみる。
 きっと、彼の中の『ユウナ』は突然の質問に赤くなったり、困ったり、たじろいだに違いないのだ。
 予想を大きく裏切ったカタチに、彼が不満そうに頬を膨らましているけれど、実は、そんな愛しい人の姿が見たかったから、と言ったら更に拗ねてしまうだろうか?

 「ユウナのケチ」

 「キミが大盤振る舞いしすぎなんですぅ」

 『好き』も、『愛してる』も、臆面もなく言ってのける恋人の姿にこそ、連日ドキドキさせられて。

 

 『今更』だから。

 だって、どんなに考えても悩んでも、行き着く先には『彼』しかいなかったのだ。

 

 2年。
 そう言ってしまえばなんて簡単な日々。

 朝が来て、太陽が切なかった。

 日が沈み、何事もなかったかのように瞬く星に、ナギ平原で見上げた夜空を重ねて妬ましかった。

 ナギ節がきたのに笑顔が溢れてるのに、どうして『彼』だけがいないのか、考えても考えても答えはなくて、手を差し伸べることもしなかったあの日の自分を記憶の中から消し去りたかった。

 行ってしまうのだと、諦めて。

 首を横に振ることだけが精一杯。

 理不尽だと叫んで、泣いて、喚いて、他の誰を困らせても、『彼』だけがすべてだったはずなのに。

 

 

 それが、2年の間に出た、たった一つの『答え』だったのだから――――。

 

 

 「・・・いつだってさ、オレからじゃん?『好きだー』とか、そういうの。たまにはユウナからも言って欲しいッスよ」

 『答え』が、目の前で少しだけ膨れ面。

 その顔が可愛くて、愛しくて、幸せを実感する。

 心の中の疑問符はいつでもどんな時でも堂々巡りで、だからこそもう、諦めたり、納得した振りをするのはやめようと誓った。
 誓いは時として鋭く心を抉り、ともすればすぐにでも挫けてしまいそうになる自分を奮い立たせるように愛しい人の残像をこの身に焼き付けて、笑ってみせた。

 見えるはずのなかった果てに『答え』が居て、それは『奇跡』という言葉で片付けてしまえるようなそんな結末ではなかったのに・・・。

 「・・・ユウナ?」

 不思議そうな顔の、『今更』な恋人。

 今を感謝しない日々など一日とてない自分に、そんなことを問うて。

 「好きじゃないっす」

 「・・・っユウナ?!」

 真剣に驚いている彼の耳元へ唇を寄せて、最大級の攻撃を。

 

 

 「あのね・・・愛してるよ?」

 

 

 そして、今日もまた想いを紡ぐ。

 彼へ伝えることの出来る幸せに、感謝を――――――。

fin

 

SUGAR初期作品『コトノハ』のユウナバージョンです。

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