無条件で『守りたい』と思う

 誰よりも幸せであってほしいと祈る

 抱きしめたい

 そう感じるのは、いつだって、どんな時だって、ユウナだけ

 だからその都度伝えたい

 あの時叶わなかった想いそのままに

 

 コトノハ

 

     「そんな質問にはお答え出来ません」

 余裕すら見てとれる色違いの瞳は思いのほか楽しそうで、そんな想定範囲外の出来事に一瞬だけうろたえる。
 目の前で微笑む彼女は記憶の中のその人となんら変わってはいなさそうだというのに、こんな、ふとした瞬間にまざまざと思い知らされるのは『2年の空白』だ。

 もう戻ること叶うまい。

 望みはユウナの幸せただ一つ。

 清々しい大気の中で、父親という存在へようやく笑顔を向けられた、それが最期の記憶だったようにも思う。

 それからは、一体何処でどうしていたものか皆目見当もつかないけれど、あの『最期』からスピラの海に浮上するまではとにかく『あやふや』な場所でぼけーっとしていました、という感じだ。
 だからこそ、まだ、夢を見ているのではないか―――と。

 自分の記憶ではついこの間、それでも実際は2年も経っていたあの頃の少女は、今や『スフィアハンター』として輝かしい生活を送っている。
 話を聞けば聞くほどに、居た堪れない気持ちになったりもするけれど、『今』を手に入れるきっかけは、やはり自分であったのだと告白されて、ちょっと、というか、かなり嬉しかったのだ。

 言葉にしてしまえば、2年なんてあっという間。

 彼女を取り巻く環境も、驚くべき事件も、言の葉にしてしまえばなんて簡単に片付けてしまえるのかと愕然とした。

 ユウナの気持ちも、不安も、涙も何もかも。

 

 「ユウナのケチ」

 心にもない言葉。

 「キミが大盤振る舞いしすぎなんですぅ」

 こんな軽口の応酬が、あの頃の2人には出来るわけもなくて。

 本当は、あの時の君に言いたかった。
 気がつけば、君の事が好きで好きで堪らなかった。

 『好き』で片付いていい気持ちだったのか、今の自分にはわからない。

 朝なんか来なければいい。

 お前らだけ何を平和そうにキラキラしてんだ。

 彼女の歩みも止められず、自分の結末も変えられないから、そうやって、夜空に瞬く月や星へイライラする気持ちをぶつけてた。

 たった一つの救いは、ナギ節が訪れてもユウナは生きてスピラに居るという事実。

 

 そう、たった一つの真実は、いつだって『ユウナ』だったから―――――。

 

 「・・・いつだってさ、オレからじゃん?『好きだー』とか、そういうの。たまにはユウナからも言って欲しいッスよ」

 もしも再会できたら、なんて・・・夢以上に夢みたいな話のはずだったのに、こうして現実になったのならばあの頃したくても出来なかったことを、と思うのは当たり前。

 『好きで好きでどうしようもない』

 それぐらいのイキオイでがんじがらめになっている自分。

 気がつけば、その気持ちのすべてをわかって欲しいし、伝えたい。

 時も場所も、人目だって憚らず言の葉に乗せて。

 言いたかった。

 伝えたかったんだ。

 『好きだ』

 『愛してる』

 抱きしめて、笑いあって、幸せにしたかったんだ。

 

 『2年間』のブランクは最強で、再会当初こそ、照れて困っていた彼女も今では余裕の笑みまで浮かべて雑誌なんか捲ってる。

 話したいこと、聞きたいことは後から後から湧き出すし、意味のない、些細な会話さえも大切に思えてくる。
 彼女の一挙手一投足を、絶対に見逃したくない。

 そんな、必死な自分の想いは、彼女にキチンと届いてる?

 そう思ったら、気がついた。
 帰ってきてからこっち、自分から『好きだ』の『愛してる』のと言ってはいるけれど、彼女からそういった単語を向けられたことがないのだと。

 ・・・今更、だな。

 言葉をもらえる以上の事を、連日彼女の身に刻んでおいて何を言うか。
 好いてくれていなければ、あんな事はさせてはくれないはずだろう。

 だけど、聞かせて欲しい と、我儘にも要求する気持ちがむくりと起き上がったのもまた事実なわけで、もうそうなると気持ちは『告白していただきたい』方向へ猛然とダッシュしてしまう。

 一体、どんな顔をするだろうか?

 赤くなる?

 困った顔するかな?

 逆に怒ったりして・・・。

 想像するだに楽しくて、楽しい以上に幸せだったわけだけれど、その答えがアレでは・・・

 

 (・・・なんだか、負けた気分ッスね・・・)

 

 自分の方が相手を想う気持ちが大きいような気がして、なんだか釈然としない。
 否、多分、一生かかったってユウナに勝てそうにないことくらい、痛いほどわかっては、いるのだ。

 「・・・ユウナ?」

 2年後の彼女は想定範囲を超えて、だけど愛しくて。

 雑誌からこちらへ視線を移されただけで抱きしめたくなるから仕方がない。

 

 「好きじゃないっす」

 「・・・っユウナ?!」

 

 事も無げに繰り出された回答に思わず声が裏返るも、間髪おかずに舞い降りてきた彼女の唇から紡ぎ出た言の葉は・・・

 

 「あのね・・・愛してるよ?」

 

 そして、観念する。
 一生かかっても、ユウナには絶対に勝てないのだと・・・。

fin

ティーダバージョンのコトノハです。(^^)

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