好きで好きでたまらない。

 

 Honey

 

 好きで好きでたまらない。

 今この瞬間にだって、彼女の白く華奢な身体をこの腕の中へ閉じ込めて どこへも行けないようにしてしまいたい。
 普段は快活な彼女の愛らしい唇が、どんな風に熱い吐息を吐き出すのかも、キラキラと輝くオッドアイがどうしたら切なげに潤むのかも、自分だけが知っている。
 知っているからこそ『今以上』を求めてしまうし、そんな己の欲望は止まる事を知らぬらしい。

 

 「はあああああああ〜〜っ」

 

 プールサイドでひざを抱えて座っている青年の髪が 太陽に反射して煌めいた。
 多分、スピラ中で1番情けないため息をついているであろうその青年に向かって、ものすごい勢いでブリッツボールが飛んできた。

 

 「くぉらあああああ〜〜っ!まぁ〜たサボってるかぁぁぁ!」

 「・・・・ワッカ・・・」

 

 突然飛んできたボールにさして動ずるでもなく受け止めて、青年・・・ティーダは立ち上がる。

 「お前は目を離すとスグにサボるからな」

 「そんなことないッス。メニューは全部こなしてる」

 少し拗ねたように言うティーダに呆れながらも、その瞳には優しい光をたたえてワッカが隣に座った。

 ワッカ率いるビサイドオーラカは、現在ブリッツシーズン開幕に向け、ルカのスフィアプールを使って合宿していた。
 開幕前のこの時期、ルカのプールはスピラ各地から集まってきたブリッツチームの練習場となる。
 サポーターや追っかけも集まってくるため、ルカは連日大賑わいだ。

 「・・・・・あと、何日だっけ・・・合宿・・・」

 プールサイドに再び座り込み、ひざを抱えた格好でなおも不機嫌そうにそう尋ねたティーダへ苦笑まじりのワッカが

 「あと5日」

 と答えるのも、ここ最近の日課となりつつあった。

 「だったら最初ッから一緒に行けば良かったんだよ」

 呆れているという事実を隠そうともせずにワッカが言う。

 「今は そう思う」

 憮然とした表情のままブリッツボールを弄ぶティーダを、ワッカは少しだけ眩しそうに見つめて、次の言葉を待った。

 「だけどさ、ブリッツの練習はしたいし・・・ユウナだってスフィアハンターの仕事だってあるしさ・・・。」

 勢いをつけて立ち上がり、手にしていたボールを天高く蹴り上げた青年は、以前そうやって現れたそのままに、突然スピラへと舞い戻ってきて皆を喜ばせた。
 『舞い戻る』に至っては、その背景に彼の恋人である少女がただただ、奇跡を願い祈り、掴み取ったのではあるけれど。

 「カモメ団には入ったけどさ、やっぱオレはこっちが本業ッス」

 落ちてきたボールを器用に頭で受け止めて、にかっと笑う。

 「だったら合宿中は身を入れて練習すれよ」

 「そうもいかないっての。ワッカと違って若いんだからさ」

 「くぉのー!!」

 プールサイドで楽しそうにじゃれあう2人の元に、突然それは舞い込んできた。

 

 ピーーーーーーッ!!

 

 「!」

 反射的に身体を起こしたティーダにまともに当たられたワッカがプールへと落ちていく。
 しかし、そんなことはおかまいなしのティーダは、指笛の方向に向かって走り出した。

 その先には、太陽の光にも負けないほどに輝く愛しい彼女の姿。

 

 「ユウナッ!!」

 「ただいま!」

 

 勢いよく飛び込んできたユウナをしっかりと抱きとめると 久しぶりの感触に理性がバラバラになりかけたティーダだったが、そこはグッと堪える。
 そんな自分の心など伝わっていないのであろう愛しい恋人は、少し首をかしげティーダを見上げて華のような艶やかな笑顔で、

 「ねえ、寂しかった?」

 などと言うのだ。
 さすがに、今の攻撃は効いたかも知れない。
 だいぶ意地悪そうな笑みを浮かべてユウナを一度覗き込むと、有無を言わさないとばかりに抱えあげる。

 「きゃあ!!ティーダッ?!」

 「ワッカ!オレもう帰るから!!お疲れっ!!」

 やっとの思い出這い上がってきたワッカにそう叫ぶと、ユウナを抱えたまま走り出す。

 

 「ティーダッ?!」

 

 好きで、好きで、たまらない。

 部屋に帰って鍵を閉めて、この腕の中に閉じ込めてどこにも行けないようにしてしまおう。

 熱い吐息の中、愛してると言わせるまで・・・・・・。

fin

ty−top