ただのワガママだって、わかってるけど

 それでも君には丸ごと全部受けとめて欲しいから。

 

 LOVER

 

 「前に着てた服に、戻したりしないんスか?」

 飛空艇内のユウナの部屋で、ゆったりとした時間を満喫中 ふいにティーダが切り出した。

 「・・・・・・・・・・え?」

 一体なんのことやら見当もつかないという顔のユウナを認めると、ティーダはバツが悪そうな顔のままゴロゴロとベットの上を転がり、思い切り良く枕へと顔を埋めてしまった。
 いつもは快活な彼がごにょごにょと言いにくそうにしている様は、『どうしたんだろう?』と思う反面 なんだか可愛らしくて、つい微笑んでしまう。

 ぐりぐりと枕に顔を押しつけている愛しい恋人へそっと近寄る。

 「ねえ、なあに?」

 この上もなく優しげに微笑んでベット脇にしゃがみこみ、ティーダを覗き込むと、恋人のの笑顔を見たいという誘惑に負けたのか、枕の中から少しだけ青い瞳が顔をのぞかせた。
 それでも答えてくれないティーダになおも近寄り、なんとなく彼が言わんとしている事に気がついた。

 

 「・・・もしかして・・・前に着てたって・・・『召喚士』だった時の服?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。」

 

 しぶしぶ答える彼は今、自分の発言に猛烈に後悔しているのがありありと見て取れる。
 こみあげてくる笑いを必死で抑え努めて平静を保つことに集中して、ユウナはティーダにもう一度やんわりと尋ねた。

 「ねえ?どうして?」

 「いいッス!なんでもないっ!忘れてっ!!」

 それだけ言うと、大好きな青の瞳は再び枕の砦へ一目散。
 思ったことは思ったときに、そのまま伝える。
 そんな性格のティーダが、なんだか『言いにくそう』にしている姿はなんだかとっても可笑しかった。
 よくよく観察してみると、耳が少し赤くなっているのは気のせいではないようだ。

 愛しさが溢れて、堪えきれずに笑顔になる。

 見た目以上に柔らかい彼の金の髪にそっと手を伸ばして優しく梳る。

 

 「今の服よりも、前のほうが スキ?」

 

 まるで拗ねている子供をあやすように、ゆっくり優しく問いかけると、枕の国の住人はくぐもった声で答えてきた。

 

 「今も、昔も、ユウナはユウナだから・・・。これ、ホンッとにオレのわがままッス」

 「わがまま?」

 そこでようやくティーダが顔を上げ、ユウナを見つめる。
 ユウナはといえば相変わらずベットサイドにしゃがみこみ、愛しい人を楽しそうに観察中だ。
 元来、あまり辛抱強い方ではないティーダは、そんな彼女の顔を見て『もう降参』と言わんばかりに大きなため息をつくと、ぽとぽつと白状し始めた。

 

 「・・・・・・・・・見せすぎッスよ・・・・・・・・・それ・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・見せすぎ?」

 

 唐突な本題は彼のクセ。
 とにかく、一番伝えたいことから切り出してくる。
 時にはわからないこともあるけれど、彼のそのクセは嫌いではない。彼の思考回路が順調に回りだすまでおとなしく待っていれば良いだけだ。

 やがて、考えがまとまったらしいユウナの『待ち人』は『苦虫を噛み潰して飲んでしまいました』というような顔で次の言葉を紡ぎだした。

 「大体さ・・・前の時だってだいぶガマンしたんだ。あの・・・背中とか、脇から見えるラインだとかさあ・・・もう、屈まれたりしたら ホント『ごめんなさい』ってカンジで・・・」

 真剣に抗議を始めたらしいティーダの顔を見て、ぷ、と思わず吹き出してしまった。

 「なあにそれ?」

 ティーダが言うところの『今の服』・・・。
 胸元が開いていて、その中央にはティーダが所属していた『ザナルカンドエイブス』のマークをかたどったものがあしらわれている。
 激しく動いても邪魔にならないようにと選んだショートパンツからはスラリとした綺麗な足。

 ユウナは、くすくすとこみあげてくる笑いを止めようとせずに仰向けに寝転んでいるティーダの横へ腰掛けた。
 視線を合わさないように天井ばかり見ている『ごめんなさい』な恋人は、もう止まらないとばかりに抗議を続けるつもりらしい。

 「足だってさ、丸見えだし・・・。そりゃ可愛いっすよ?似合ってるッスけどね?オレとしては、すっごい複雑なわけで・・・」

 「もしかして、ヤキモチ?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべたユウナに図星をさされてしまい口をぱくぱくさせているティーダに、ユウナは胸が『幸せ』でいっぱいになって、なんだか身体中がムズムズする感覚にいてもたってもいられない。

 

 好き。

 

 好き。

 

 どうしよう。大好き。

 

 溢れた想いはユウナを動かし、愛しい人にそっと口づけしてうふふ、と笑うと勢いよく彼に抱きついた。

 「ね?ヤキモチ?」

 どこまでも甘く。
 以前は、自分から『こんなこと』をするなんて、思ってもみなかった。『変わった』といえば『変わった』のかもしれない。
 けれど、今の自分は嫌いじゃない。
 ティーダのことが好きで好きでたまらない。
 どんなに自分が彼を想っているのか伝われば良いのに・・・そう思う瞬間がどんなにあることか。

 

 ユウナから与えられた甘い甘いキスに、先ほどまでの拗ねた表情はどこかへ消え去り、幸せそうな微笑を浮かべたティーダが優しく抱き寄せる。

 「そ。ヤキモチ。実はオレ以外の誰にも見せたくない」

 

 ここから先は、恋人たちの甘い秘密の時間。

 

 こういう状況になった時だけ、ティーダは『今の服』に少しだけ感謝する。
 ヤキモチは、際限なく妬くけれど。

fin

「honey」の対みたいなもんです。(笑)

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