願うのは、愛すべき貴女の幸せなのです。
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「チィはちゃんと食べてるかあ?!」
ビサイドでは昼間からずっと、お祭り騒ぎが続いていた。
その様子を少しだけ離れた場所に座り込み、やや気の抜けたような顔で眺めている青年のもとへ大皿にたくさんの料理を乗せたリュックが近づいてきた。「もう腹いっぱいッス」
苦笑まじりにお腹をさすってみせる青年・・・ティーダが、この『お祭り騒ぎ』の原因といっても過言ではない。
『永遠のナギ節』をユウナとともにスピラへもたらし、忽然と姿を消した『伝説のガード』。
ユウナの運命を変え、祈り子たちを救い、嘘をつきとおして空へと溶けていった太陽の化身が、今日2年以上もの時を経て、ビサイドの海へ降り立ったのだ。オーラカのメンバーと大騒ぎしているワッカを嬉しそうに見つめているティーダに、リュックが呆れながら笑って言う。
「ワッカってばチィに、ものすっごく食べさせてたよね」
「・・・知ってて『食べてるかあ?!』は、ないんじゃない?」
「むふふ〜」
どかり、とティーダの隣に座り込んで料理に手をつけた。
突然の祝い事だったけれど、村中の人たちが持ち寄ってくれたご馳走はどれもこれも美味しくて、先刻まで、それはそれは、ものすごい勢いでこれらを食べさせられていたティーダを思い出して可笑しくなる。
ワッカの不器用で、それでいて直球の優しさが痛いほどわかってしまうから。もし、この瞬間にティーダが消えてしまったら・・・。
もし、今目の前にいる彼が『夢』だったら・・・。きっと、『食べさせる』ことで安心したかったのだと、そう思う。
ワッカは単純だから。そんなこと考えているとはおくびにも出さずに、食べ続ける。
ティーダは、目の前で繰り広げられている光景を、懐かしげに、そして眩しげに見続けている。
『良かった』・・・心からそう思った。
『前の旅』の時も『今回の旅』の時も、愛すべき従兄妹の幸せを願わずにはいられなかった。
願って、祈って、それでも自分にはそれ以外に何も出来ない現実を、嫌というほど思い知らされながら、それでも『幸せに』と強く願った。
『もう、忘れようよ』
『やめちゃいなよ』
ビサイドの海に向かって、毎日指笛を吹くユウナに、何度そう言いたかったかしれない。
彼女のことだから、そう出来るなら、とっくにそうしてる。
それをしないのは、ユウナが、今でもティーダのことを想っているから・・・。
ユウナが信じるなら、自分も信じる。
ユウナが諦めないなら、自分も諦めない。
なにも出来はしないのだけれど、彼女の想い人が過去そうだったように、信じることも諦めない事もとにかく実行し続けたかった。
もう一度、彼に逢えたら。
そんな願いが現実になった今、やるべきことは唯一つ。
「あのさ、言いたいこと あんだよね」
「えっ?なにッスか?!」
唐突な投げかけに一瞬ビックリして慌てているティーダを ちら と一瞥し、手にしていた食べ物を皿に戻す。
これだけは、何としてでも言ってやりたかった一言だ。
「ユウナん、ものすごく泣いたんだからね」
多分、ティーダにとっては一番痛いはず。
やるせない表情でひざを抱えて、ぽつりと「うん」とだけ返してきた。
だけど、まだまだ許せない。
「独りで、すっごくがんばってきたんだからね」
あの2年という長い月日を。
「ずっとずっと、チイのことだけ、好きだったんだからね」
幾度となく浜辺できいた指笛に。
「・・・・・・うん。」
ティーダのほうは見ない。
向こうで大騒ぎしているワッカを見つめたまま。
「なんだかさ、自分1人でものすごいかっこつけちゃってさ」
『諦めない』と、ユウナに言った分だけ彼にも言ってあげたかった。
「・・・・・・うん。」
胸が、痛くなる。
人知れず泣いているユウナを見守りながら、わが身の不甲斐なさに自分も泣いたのだ。
もしも、アイツが還って来るようなことがあれば、一言 言ってやらなければ気がすまない。
そんな風に想い続けることで、念仏のように繰り返すことで、彼女の背中を見つめる己を奮い立たせてきたのだから。だって、ユウナはなにも言わない。
過去も、今も、きっと言わない。
『ユウナの代わりに』なんて、おこがましいとは思うけれど、だけど、やっぱり、この『事実』だけは嫌でも何でもキッチリ叩きつけておくべきだと 強く決心する。
「ユウナんには、ティーダしかいないんだからね。・・・過去も、今も、1000年経ったとしても」
「リュック・・・」
「もう、どこにも行くなよってコトだよ!」
ずっと視線を合わさずにいたけれど、そこでようやくティーダの瞳を捕らえた。
『約束』を連呼していた彼は、最期になって何も残してくれずに消えてしまったから。だから、ここで、『約束』を――――。
「大丈夫・・・もう、ユウナと離れたりなんかしない」
一瞬の静寂。
ワッカの声も、村人達の声も、なにもかも聞こえなかった。
静かに瞬く星だけが、小さいけれど強い決意を見守っている。
次の瞬間「ふう!」と大きなため息を漏らすと、それが合図であったかのように先ほどまでの喧騒が二人の周りに戻ってきた。立ち上がり、大きく伸びをして真剣な顔のままティーダに尋ねた。
「ねえ」
「な、なにッスか?まだなにか・・・」
戦々恐々と言わんばかりのティーダの顔を覗き込んで、
「ユウナん、どこよ?」
こんな話は、ユウナがいたら出来なかったのだけれども、それでも彼の隣にいて当然の存在が一向に見当たらない、という事実に今更気がつく。
ティーダは、ぷ。と吹き出して、少しだけ諦め口調で宿舎方面を指差し、「あっちで捕まってる」
「もーーーー!しょうがないなあ!おたすけ屋リュック出動ー!」
今にもものすごい勢いで駆け出していきそうな背中に、ティーダが慌てて声をかけた。
「リュック!」
「なにー?」
「ありがとうな!!」
ふふん、と鼻を鳴らして腰に両手をあててふんぞり返るポーズをして見せると、目指すユウナに向かって駆け出していく。
『ごめん』なんて言おうものなら1発ケリでもお見舞いしてやろうかと思っていた。
今日、この日から確実に訪れるであろうユウナの幸せがずっと続きますように。
なにも出来はしないのだけれど、心から、心からそう願い続けていくから・・・・・・・・・。
fin