もう、諦めたりしない。
mnologue
「正直なところ、諦めようとしたこともあるんだ」
エンジンの動く音が遠くで少しだけする月明かりだけの部屋。
目の前には、愛しい青年の寝顔。
2人で寝るには少し狭い寝台の上で 見た目よりもがっしりとした腕に抱かれたまま、ユウナはティーダの寝顔を見つめていた。それは小さな、小さな独白。
彼の眠りを妨げぬように心の中で、いつも繰り返していた言葉を紡ぐ。
諦めよう。
前を向こう。
笑顔でいよう。
彼を、思い出にしよう。
忘れることはないのに。
忘れられるはずもないのに。
時が戻せるのなら、今すぐにでもそうして『あの時』を取り戻したい。幾度、そう思ったか。
けれどその事実を言の葉にのせて、紡ぎだされる事はなかった。
もしも、紡いでしまえば その重みに耐え切れずに潰れてしまうだろうと思っていた一言だった。『諦める』ことさえできたら。
けれど、今でも鮮明に思い出せる。
『あの時』の、彼の笑顔・・・。シンと戦い、永遠のナギ節を勝ち取った彼の笑顔。
迷いもなく、何処までも続く澄み切った青空と同じ色の、青―――――。
思い出すことは、容易。
けれど、思い出すたびに涙が出た。
どうして、『あの時』泣けなかったのだろう・・・・?
どうして、『あの時』「行かないで」と言えなかったのだろう・・・・・?
自問自答は繰り返されるばかり。
答えは解っている・・・そう・・・"自分が彼に、そう言われたくなかった"からに他ならない。「だから、なにも言わなかった」
(言えなかったんだよ)
「キミの決意を受け止めた」
(離れたくなんか、なかった)
「スピラに、希望をもたらしたかった」
(そう思わなかったら、立ち上がれなかった)
思い返せば、なんて小さな自分。
言葉をすべて飲み込んで、「ありがとう」としか言えなかった。
すり抜けた彼の温もりを、どうにかして取り戻したかったくせに。
そっと、瞳を閉じる。
そこにあるのは、『あの時』失った温もりと確かな心音。
感じることは出来るのに、瞳を開けた瞬間失ってしまいそうにも思う。
ただ、夢を見ていたのだと。
思い出に縋っているだけなのだと。
「・・・眠れない・・・?」
少し眠たそうな掠れた声が不意に耳元に響いた。
「び・・・っくりした・・・」
顔を上げて愛しい人を見つめる。
心底驚いたという顔の自分を見て、ティーダが笑う。「だって、ゴソゴソ動くからくすぐったいッスよ」
「あ、う・・・ごめん、ね?」
少し頬が熱くなった。
もう一度抱きなおされて、小さなため息が一つ零れた。
彼の温もりに包まれてこの上もなく幸せだと実感する。「もしかして、寝にくかった?別に寝る?」
「・・・っいや!」
反射的に叫んで顔を上げると、そこには悪戯っぽく微笑むティーダの顔があった。
「もう!からかって・・・!」
「ごめん」
他愛もないこと。
こんな瞬間が、とてつもなく幸せだ。
微笑はそのままに、優しい口づけが舞い降りてくる。「ねえ?」
「うん?」
「もう、離れないから」
「・・ユウナ?」
「キミがいなくなるなら、今度はなにがあっても一緒に行く」
「・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・。」
それは 小さく、静かな『決意表明』。
誰にも聞かれなくていい。
認めてもらわなくてもいい。
あんな思いは、もうしない。
これからは、ずっと一緒に。
貴方以上に愛しい人は、この世には存在しないのだから・・・・・。
fin