夢じゃないって感じたいから、キミと、『そう』なりたい。

 

 First

 

 「それでね、この階に共同の居住区があってハイペロ族のマスターさんが、ごはんとか作ってくれるの。」

 「・・・ハイペロ?」

 屈託なく笑う目の前の愛しい人に、ティーダは少々気圧され気味だ。
 2年以上もの時を経て今日ようやく奇跡の再会を果たした2人は、ビサイドで行われてる宴を抜け出して、海岸へ停泊させている飛空艇へと帰ってきていた。

 「ヒクリって娘も乗ってるの。チョコボと一緒に。2年前にキミも会ってるんだよ?今はチョコボも連れてビサイドに行ってるけど」

 ユウナから繋がれた手は今も離れることはなく、村を出た時そのままに少し前を歩いている彼女の背中を見て、ティーダは『混乱の原因』である会話を思い出していた。

 

 『・・・・・・・・・もしかして、誘ってるッスか?』

 『うん』

 

 冗談のつもりで言った言葉に、事も無げに返された一言・・・・・。
 もうすでに、小一時間は前であろうその会話に、ユウナの『うん』の真意を測りかねて少しだけ混乱していたのである。
 誤解ならば、それをどうにかしなければいけないと思うし、誤解でないのならば・・・・・・どうしていいかわからない。

 

 「ユウナっ・・・・あのさ・・・・」

 

 意を決してユウナへ声をかけると、それと同時に乗り込んでいたエレベーターが止まり、ドアが開いた。

 

 「それから、この階が個人部屋のあるところ。・・・あの突き当りが私の部屋だよ。行こう?」

 スタスタと歩くユウナに引きずられるようにして目的地へ向かう。
 広い飛空艇とはいえ それはもう知れたもので、自身の心のざわつきなどアッサリと無視して到着してしまった部屋の前で、ユウナがくるりと振り返った。
 ふわり、と花のように艶やかに微笑む彼女にティーダは気が遠くなる思いで、やっとのことで繋がれた手を離して慌てて確認をする。

 「ちょ、ちょっと待って、ユウナ?」

 「なあに?」

 「あ、あのさっオレ・・・その・・・」

 言いかけて、はたと気がついた。
 まさか、『先ほどの『うん』は、『そういう意味』ですか?』とは聞きづらい。
 このまま済し崩しにユウナの部屋へ入ってしまえば、自分がどこまで我慢できるか保障できない。

 だからこそ、開かれたドアの前で立ち止まる。

 目の前で何かを言いかけては口をつぐんでしまう愛しい人に、ユウナは自然笑顔になった。
 嘘がヘタな恋人が、今何を自分に伝えたいのかはその様子で一目瞭然だ。
 部屋と通路の境界で石のように固まってしまったティーダの顔を覗き込み、再度優しく微笑みかけると、くるりと背を向けて宣言した。

 

 「あのね、さっきの冗談じゃないッスよ?」

 「ユウナ?!意味わかって・・・」

 「わかってるよ?だから・・・入って?」

 

 背後でティーダが息を呑むのがわかる。
 とたんに緊張したことも、空気から伝わってくる。

 彼にわからないようにと心の中で祈りながら、自分だってどうしようもなく緊張しているけれど・・・でも、それ以上に彼と一緒にいたい。

 

 ティーダと、『そう』なりたいのだ。
 我ながら大胆極まりないとは思うけれど・・・・・・・。

 

 「ユウナ・・・」

 

 背後から聞こえる先ほどまでとは違う、少し掠れた声に心臓が跳ね上がる。
 ユウナはそれとはわからないように小さく深呼吸をして思い切って振り返ると、いまだ部屋の入り口で立ち尽くしているティーダに抱きつき逞しい胸へ頬を寄せた。

 「ものすごくドキドキしてるね、ここ」

 「・・・ドキドキもするっつーの」

 世にも情けない顔をした愛しい人に思わず苦笑してみせると、ティーダもそれにつられてようやく笑顔になり、思い切ったように部屋へ足を踏み入れた。

 

 「あー!もお!!覚悟決めたッス!!ユウナは?!」

 「いまさら聞く?そういうこと」

 「う・・・ごめん」

 

 覚悟を決めたわりに落ち着かない様子のティーダの手を改めて握り、ユウナはもう一度確認するように小さく呟いた。

 「おかえり」

 愛する少女のその一言で、ざわざわとしていた胸の内が急に静かになる。
 しかし、それに取って代わるようにしてどうしようもないくらいの愛しさがこみ上げてきて、さっきからまったく余裕の欠片もない自分にティーダは思わず苦笑する。

 「ユウナ?」

 「なあに?」

 「ごめん・・・キス・・・したいんだけど・・・すごく」

 「いいよ?」

 アッサリと返される承諾の言葉に、少しだけ頬を赤く染めたティーダが 視線を宙へ泳がせながら慌てて付け加えた。

 「いや・・・あのさ、キスしたら・・・止まりそうもないんスけど・・・」

 『覚悟を決めた』はずの恋人は、この期に及んでまだ躊躇しているらしい。
 しどろもどろなその姿に、可笑しくて思わず笑ってしまう。

 

 「いいよ?・・・だけど、明かりは消してほしいな」

 「・・・・・・・了解ッス」

 

 そこでようやく、ティーダは愛しい存在を優しい手つきで抱きしめた。

 頬を寄せ、まるで悪戯を思いついたかのように密やかに笑い合う2人を外界から遮断するかのようにドアが静かに閉じていった。

fin

続編。(笑)

しかし、ティーダ・・・・・。情けないです。(笑)
だけど、ユウナんからOK出ない限りは、越えないと思うんですね、一線を。

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