やっぱり、ついて行けば良かったかな?

 

 おかえりっ

 

 きちんと整理整頓された部屋。

 ベッドには洗い立てのシーツと、お日様の匂いがするふかふかの布団。

 床はピカピカに磨き上げられていていい気持ち。

 食卓の上に並ぶのは彼の大好きな物ばかり。

 

 「・・・あ・・・どうしよう、もう、やることなくなっちゃった・・・」

 

 そんなどこもかしこも幸せ色でいっぱいな部屋の真ん中で、その場の雰囲気に似つかわしくない壮絶なまでに情けない顔のユウナが困ったように呟いた。

 リーグ戦間近のこの時期、スピラ中のブリッツチームは交代でルカのスフィアプールを使い合宿をする。
 張り切るワッカに連れられて、ビサイド・オーラカの面々がルカへと向かったのが2週間前のこと。
 イナミがまだ小さいこともあり、今回の合宿にはついて行かないと言うルールーと共にビサイドに残ると決めたユウナだったが、恋人を送り出したその晩には早くもその選択を後悔していたのだった。

 幼子と残る姉代わりのルールーが心配だったということもある。

 しかし、スピラ中の人気者であるところの『彼』を自分は普段から独り占めしているという事もあり、せめてブリッツボールをしている時の彼くらい、貸してあげてもいいかな?などとも思ったのだ。

 今思えばとんでもない強がりだ。

 こんなにも自分が『ダメダメ』さんになるなんて、夢にも思わずにいたというところがまた情けない。

 けれど、その彼が、今日2週間ぶりに帰ってくる。

 朝から落ち着かないユウナへ、ルールーは幾度となく楽しげに笑った。

 『家に帰って待ってたら?』

 呆れ顔でそう言うルールーに、ユウナは頬を赤らめながら拗ねたように視線を足元へ落とし、消え入りそうな声で呟いた。

 「だって、独りで居ると余計に時間が遅く感じるんだもん・・・」

 通信スフィアで予定通り夕方着の連絡船に乗ると連絡が入り、ルールーと昼食を済ませた後ようやく、ユウナは愛しい人の出迎えの準備をするべく家へと帰ったのだった。

 それが。

 彼が帰ってくるまでもう少しかかるというのに。

 すべきことが全部終わってしまったのだ。

 予定では掃除も洗濯も食事の準備も、すべてが終わった頃に愛しい人が帰ってくるはずだった。

 待っている間の時間を家事に没頭することで感じないようにという、ユウナにしてみたら『完璧』な作戦だったのだ。
 あえて敗因を挙げるとするならば、『没頭しすぎた』というところだろう。

 拗ねたような顔で小さなため息を一つつくと、近くにあったソファーへぽすんと身を沈める。
 いつも彼が座っている場所へ置かれていたモーグリのぬいぐるみを手に取り、きゅうっと抱きしめると 再び切なげなため息が漏れた。

 このぬいぐるみは彼に貰った初めてのプレゼント。

 愛しい人からの初めてのお土産に、ユウナはそれはもう喜んだのだ。

 開け放たれた窓から見える空は夕方の色へ染まってきてはいるけれど、交通機関が『船』という性質上『到着はこの時間!』と言う風には言い切れない。

 「早く、逢いたいなあ・・・」

 ぬいぐるみを抱きしめたままソファーへごろりと寝転がったユウナはぽつりと呟くと、急激に襲ってきた睡魔にアッサリと降伏をしたのだった。

 

 

 

 『ユウナ!』

 ・・・あれ?!もう着いたの?!ご、ごめん!寝ちゃってたよ・・・。

 

 『じゃあさ、指笛が吹けるようになるまでは、離れないってコトで!』

 ・・・え?これって・・・ルカで約束した・・・・?

 

 『ユウナ?好きだよ』

 ・・・ああ、これ・・・夢なんだね・・・キミの、夢見てる・・・今・・・

 

 『ユウナ』

 ・・・キミに名前呼ばれるのって、凄く幸せなんだよ・・・?

 夢でも、逢えてうれし・・・・

 

 

 

 「・・・・・・・ぅナ・・・・ュ・・・・・・」

 

 ・・・誰?

 

 「・・・・・ユウ・・・・・・?」

 

 ・・・ダメ。今起こさないで・・・せっかくティーダの夢見てるのに・・・・

 

 「ユウナってば!」

 

 ・・・え?・・・・・・・この声・・・・・・・・・・っ

 

 ゆるゆるとした心地の良い眠りの世界から強引に身体を現実の世界へと引き戻したユウナの視界いっぱいを、愛すべき黄金の髪の青年が占拠していた。

 「・・・っティーダ?!」

 「ユウナ、オレが帰ってきたのに気がつかないんだもん。おかしくってさ」

 くすくすと笑いながらソファーへ腰掛けたティーダに、自分の失態を指摘されたユウナは赤くなった頬を思いきり膨らませて見せた。

 こんなはずではなかったのだ。
 もっと、落ち着いて、可愛く出迎えるつもりだったと言うのに・・・。

 

 「ご、ご飯、用意するね!!」

 

 名誉挽回とでも言わんばかりに慌てて立ち上がり台所へ向かいかけたユウナへ、座ったままのティーダがこみあげてくる笑いを止めようともせずに彼女の左上を指差すと、『寝癖。』とだけ指摘して、再び大笑いした。

 「もう!!いじわる!!」

 おそらく寝癖がついているであろう場所を必死に押さえながら可愛らしい抗議の声をあげる愛しい少女に、ティーダは笑いながら手招きを2回すると、その両腕を大きく広げてみせた。

 「・・・え?」

 「おいで?」

 戸惑うユウナに艶然と微笑みかけ、広げている両腕はそのままに小さく頷いた彼の『そこに居る』という現実に、彼女の本能が『こんなことで拗ねている場合ではないだろう』と警鐘を鳴らす。
 寝癖を押さえることもやめ、華のように艶やかに微笑んだユウナは一目散にその逞しい胸の中へ飛び込んでいった。

 

 「おかえりっ」

 「ただいま。・・・あー、やっと言ってもらえた」

 

 そう言って悪戯っぽく微笑むティーダの日に焼けた頬へ、ユウナは思わず口づけた。

 「ユ、ユウナ?」

 「だって・・・寂しかったんだもん・・・・」

 恥ずかしそうに呟き、首にしがみつく様に抱きついている彼女の華奢な身体をしっかりと抱きしめたティーダは、そんな可愛らしい告白に思わず天を仰ぐ。
 2週間、彼女と離れていた自分が、一体どれだけ必死に我慢していたのかわかっていてそんな可愛いことを言うか、と情けないのを通り越してむしろ悲しい。
 久しぶりに感じるユウナの体温と、えもいわれぬ香りに目眩さえ覚えながら、この罪な恋人にしっかりとわからせる必要があるとティーダは密かに心に誓う。

 「ユウナ?」

 「なあに?・・・・ひゃんっ!!」

 意地の悪そうな笑みを口元に浮かべたティーダの手は、器用にユウナの上着をたくし上げ形の良い胸を遠慮の欠片もなく触りだしているのだ。

 「だっだめ・・・!ティ・・・・っあ・・・は、疲れちゃ・・・・っ」

 「オレだってもの凄く寂しかったッスよ?だから、帰ったら真っ先にユウナとするって決めてたッス」

 「勝手に、決め・・・・っあん!」

 「ダメ。今ユウナとしないと、オレ、死んじゃう」

 

 次にユウナが『ちゃんと』愛すべき青の瞳を見つめられるのは、寝癖どころの騒ぎではないという髪型にされてしまった頃のこと。
 無駄だとわかりながらも文句を言う彼女に、それはもう溶けてしまいそうな甘ったるい笑顔で応対するティーダがいたのは言うまでもなかった。

fin

ベタベタバカップル様のイチャイチャを書きたかったんです。(笑)

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