私のほうが、絶対にキミのこと好きだよ?

 

 smile

 

 「ユウナん、アタシさ・・・アレはヤバイと思うんだよね・・・」

 ブリッツボールが開幕し、リーグ戦真っ只中のルカはスピラ中から集まってきたサポーターでごった返していた。
 つい今しがた第3戦が終了し、復帰を果たしたティーダと待ち合わせるべく、ユウナはリュック・パインと共に広場へと向かい、そこで待ち受けていた物を目にして、思わず発せられたのがリュックの一言である。

 3人を、というよりも ルカを訪れるすべての人々を歓迎するかのように置かれた『ヤバイ』『アレ』とは、巨大スフィアスクリーンに映し出されたティーダの笑顔だったのだ。

 どうやら今大会に合わせて設置されたらしいそのスクリーンは、試合の中継にも使われているらしい。
 試合が終われば、それは『巨大な広告』へと姿を変え、目の前で輝くティーダの笑顔の横には『ブリッツボール開幕!』の大きな文字と共に数々のスポンサーの名前が次々と現れては消えた。

 彗星のごとく現れて素晴らしい活躍をみせるティーダが有名にならないわけもなく、特にあのルックスも手伝ってか今や驚異的な勢いで女性ファンが増えていっているのだ。
 巨大スクリーンの前でうっとりとしている女性サポーター達の姿を見て、その手のことに疎いユウナでも さすがに危機感を感じずにはいられない。

 「仕掛け人は、リンだろう?」

 腕組みをしてため息混じりにそう言うパインへリュックが大きく頷いている。
 こういった目新しく、尚且つ儲けになりそうな事には 必ずあの男が絡んでいるのだ。

 しかし、今のユウナにとってそんな事は些細なことでしかなく、問題は、ティーダのあの笑顔が『いつ』『どこで』『誰に向け』られたか、という事の一事に尽きる。

 

 「なんか、ムカツキ」

 

 最近ではほとんど出なかった言葉がユウナの口から漏れ出たのが合図になっていたかのようなタイミングで、3人の背後から歓声が轟いた。

 「なっなにぃ〜〜〜〜?!」

 両手で耳を塞いだリュックが思わず大声を上げる。
 振り返ると10メートル先は黒山の人だかりだ。

 「・・・もしかして?!」

 「ティーダ!!」

 そう言ってリュックと顔を見合わせた次の瞬間、ユウナが思い切り指笛を吹いてみると 間髪おかずに群衆の中からそれが返ってくるではないか。

 「あ〜〜〜も〜〜〜!しょーがないなー!」

 盛大にため息をついて『出動』したリュックの後を追うようにしてユウナも駆け出していったのだった。

 

 

 

 「参った・・・。控え室出たらさ、そこかしこにオレが笑ってんの」

 サポーターに揉みくちゃにされながらも無事に『保護』されたティーダはベッドに腰掛けて力なく笑う。

 試合の疲れと人に揉まれた疲れとでヨレヨレになったティーダは、そのままユウナの部屋へ担ぎ込まれたが、肝心のユウナが明らかに不機嫌であるということは、聞かなくてもわかるくらいにムスっとしていることに戸惑いを覚えていた。

 

 「ユウナ・・?なんか、怒ってる?」

 「怒ってない」

 

 このままでは埒が明かないと意を決して尋ねたというのに、その答えは笑ってしまいそうになるほど素っ気ない。

 「ユウナ、頼むよ。オレ、どうして良いのかわからないッス」

 これ以上はない、というくらいに情けない声を出してベッドの端で座るユウナを覗き込んで懇願すると、愛しい少女は泣きそうな、困ったようなどちらとも取れない光を瞳に宿してぽつりと呟いた。

 

 「だって・・・誰に向かって、あんな風に・・・笑ってたの?」

 「・・・・・・・は?」

 

 唐突な質問の意味を理解しきれないティーダをユウナは横目で伺いながら、頬を赤く染めてなおも続ける。

 

 「だって・・・あんな顔・・・私以外に向け・・・」

 

 そこまで言うと黙って俯いてしまった愛しい人の態度に、なんとなくではあるけれど不機嫌の理由がつかめてきた。
 目の前で拗ねている彼女は、あのスフィアスクリーンの中の自分の笑顔が『彼女以外の女性』へ向けられていたものかもしれない、などと思っているらしい。
 ぶっちゃけて言わせてもらえば、『仕事』だと言われれば『笑顔』だっていくらでも作ることは出来る。
 それはあくまで『ブリッツプレーヤー』という『職業』についた自分の『義務』だと思うし、必要とあらば愛想だって掃いて捨てるほど振りまくる覚悟だってある。

 けれど。

 『素』の笑顔をユウナ以外に向けるなんてことは、それこそ天地がひっくり返ったってありえない話なのだ。
 確かに、例のスクリーンに映し出された自分の笑顔は、いわゆる『営業用』のものでなかったのがいけないのだが、それにはちゃんとした理由がある。
 まさか『こんな事』に使われるとは夢にも思わなかったのだ。自分的には至極『格好悪い』あの出来事を、包み隠さず彼女に教えてあげなければ、きっと今日一日中目も合わせてもらえないかも知れない。

 『格好悪い自分』と『ユウナのご機嫌』を天秤にかけるまでもなく、さっさとユウナのご機嫌を選んだティーダは、俯いているユウナの顔を覗き込んで苦笑まじりに告白を開始した。

 

 「あれ撮ったの、ギップル」

 「・・・っえ?!」

 

 ティーダはくすくすと笑いながらユウナの肩を抱いて、その愛らしい頬へ口づける。

 「ユウナの話になってさ。なんか、ユウナの顔思い出してニヤニヤしてたところをスフィアで撮られたんだよ。まさか、あんな事に使うなんて思わなかったッスよ」

 「に・・・ニヤニヤって・・・」

 「うん、そう。だって『今晩ユウナに あんなコトやこんなコトしちゃおう』とか考えてたから」

 「・・・・・・えっちっ・・・・・」

 真っ赤な顔で俯いてしまったユウナに、ティーダは盛大に吹き出しながらその身体を抱きしめた。

 「あー。ユウナのヤキモチ、気分いいッスね〜」

 「もう!知らない!」

 「ね、ユウナ?キスして、キス」

 この上もなく嬉しそうな恋人に、ユウナは勝てた例がない。
 そんな時は決まって『自分のほうがより多く彼を愛してしまっているのだ』と情けなくもなるのだが、後日、ギップルにコッソリと真相を聞くに至って そうでもないかな?とも思いなおしたのだ。

 

 

 『あー!アレな!!あらかじめスフィアを仕込んでおいてな、そっちの方向を指差したんだわ。『ユウナ様が来た』ってな!おっかしかったぜー、アイツ』

 

 

 その、『おっかしかった』彼を見てみたかったけれど、あの笑顔は自分へ向けてのものだったと判明して安堵している自分は凄まじく現金だ、と苦笑せざるを得ない。

 そう、頭ではわかっているのだけれど、スピラ中の人が彼のあの笑顔にときめいてしまう事に、ユウナは少しだけ不満に思ってみたりもするし、反面誇らしい気持ちになったりもする。
 恋をするというのは大変だ、などと思いながら ユウナは愛しい人の腕の中で幸せそうに微笑んだのだった。

fin

ty-top