ムラムラするなって言う方がおかしいっつーの!

 

 A lucky find 

 

 『せいぜい嫌われねぇ程度にがんばれよ〜!』

 

 帰り際、追い討ちをかけるかのごとく発せられたギップルの言葉を思い出し、ティーダは小さくため息をついた。

 何を言うか。

 日々、一分一秒とかいう単位にいたるまで、嫌われないよう努力しまくっているというのだ。

 我ながら『涙ぐましい』とさえ思えるそんな『努力』も、リュックに言わせれば『まったく見えない!』と一蹴されてしまうけれど。

 

 

 とにかく。

 

 

 

 とにかく、だ。

 

 

 

 今、まさにこの瞬間、それこそ秒単位で、自分は、それはもう凄まじく『涙ぐましい努力』を展開中なのだ。

 

 

 

 視線の先には最愛の少女がやがてやってくるであろう小さな扉。
 不穏な空気から逃げるように飛空艇へ帰ってきたティーダだったが、ユウナをあの場から連れ出そうと苦し紛れに出た言葉が『オレ、腹減ったッス』・・・。
 連れ出しには成功したものの、ちょっぴり邪な考えが浮かんでしまった自分の為に、素直で可愛いユウナは居住区のキッチンまで出張中だ。

 とにかくあの場を離れたくて『空腹』を引き合いに出した以上、今はこのユウナの部屋で大人しく待つしか方法がない。

 「しっかし、凄かったな・・・あの格好・・・」

 いまだにティーダにとって『ドレスフィア』自体が『ナゾ』な上に、イキナリあんな『メイドさん』なユウナは、それはもう誰が何と言おうが拳を握り締めて『反則だ!』と言い切る自信がある。

 しかも、しかも、だ。

 あの、胸を強調するかのような切り替えはどうだ?!

 あのスカートの丈の短さは考えられないだろう!普通!!

 そこかしこに散りばめられたフリフリフリルに至っては、『可愛い』というよりもむしろ『エッチくさい』とまで断言出来る。

 『に、似合わないかな?』

 とんでもない。

 似合わないどころの騒ぎではございません。

 もしもユウナが了承してくれるのであれば、自分と2人きりの間はず〜〜〜〜〜っとアノ格好でいてもらいたいくらいだ。

 その際、普段からその壊れっぷりには自分でも感心している『理性のタガ』は外れっぱなしになるであろうことは、自信マンマンで請け合ってもいい。

 「はああああああ〜〜〜!マイッタ!」

 帰ってから、もう何度目かもわからなくなってしまっているため息を盛大につきながら、ティーダはがっくりと頭を垂れ黄金の髪を掻き毟った。

 「何が『マイッタ』の?」

 突然前方から降り注ぐ愛しい少女の声にティーダの動きが止まる。
 仮にも『伝説のガード』などと言われている自分が、己でついた大きなため息にかき消されたであろうドアの開閉音に気がつかなかったのだ。
 ジョゼ寺院では心から、あの偉そうな養父の存在がないことを嘆いたが、今はそれが凄まじくありがたい。
 こんな失態を見られた暁には、それこそ何を言われるか・・・。

 「い!いや?!なんで、もっおおおおおおおおっ?!」

 「リュックがね?あの、可愛いし、せっかくだから着て行けばって・・・」

 取り繕うように笑顔を作り、慌てて顔を上げたティーダの視界に飛び込んできた『それ』は・・・

 ささやかな『理性のタガ』を速攻でぶち壊してくれる『マイッタ』で『メイドさん』な『ユウナ様』だったのだ。

 

 

 

 「ティ・・・ティーダ?」

 ベッドに腰掛けたまま再びがっくりと項垂れてしまったティーダへ、ユウナが気遣わしげに声をかける。

 「絶対、わかっててやってるよな・・・リュック・・・」

 怒っているような、呆れたような、それでいて凄まじく情けないような声でティーダがぽつりと呟いた。

 そうだ。

 絶対に確信犯だ。

 今頃、それはもう凄まじく面白がっているに違いないのだ。

 それがわかっているくせに、ティーダの中のささやかすぎる理性様が、面白いくらいに勢い良く跳ね飛ばされたのを感じて思わず苦笑してしまう。
 素直で、いまやその愛らしさは『殺人的』とも言い切れるメイド姿のユウナが、項垂れる自分を覗き込むようにして目の前にしゃがみこんでいるのだ。

 

 すいません。

 

 ごめんなさい。

 

 あの、屈まれると、その、強調されてるユウナの胸が気になって仕方がないんですけど。

 

 ユウナが悪いんだからな?
 そんな格好で見つめられて、ムラムラするなって言う方がどうかしてるんだからな?

 

 相変わらずな言い訳を性懲りもなく展開しているものだ、と我ながら感心しつつも、もうすでにこれからの『作戦』を練っているあたりスケベ極まりないとも思う。

 すぐ傍で不思議そうに輝く色違いの瞳は、こんないじましい自分の葛藤など知らないわけで。

 「ユウナ、あのさ?」

 「なあに?」

 自分の中の、イロイロでグルグルな葛藤は笑顔の下に押し隠して、メイド姿のユウナを優しく抱き寄せた。

 「お願いがあるんスけど!いい?」

 「お、お願い?」

 ティーダは悪戯っぽい光をいっぱいに湛えた青の瞳で彼女をあっという間に拘束する。
 腰に回された腕にがっちりと抱きしめられた時点で、その『お願い』が凄まじく不謹慎極まりないものだと看破したユウナが居心地の悪そうな笑顔をティーダに向けたその瞬間、耳元に寄せられた彼の唇から発せられた『お願い』に彼女は言の葉を紡ぐことも出来ず、ただただ赤面するしか出来なかったのだった。

fin

言い訳ならね、イロイロ出るさあ!(爆笑)

ジヴェルニーの庭管理人ナンシー様との共謀企画(笑)でした。
ズバリお題は『メイドさん』!!

ジヴェルニーの庭は閉鎖されましたが、当時はナンシーさんと共謀して様々リレーして遊んでもらってました。

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