そう想う時って、どんな時かなって。

 

 kisses

 

 「あのね?変な事きいても、いい?」

 カーテンの隙間から差し込んでくる朝日に起こされ、ゆるゆると瞳を開けたティーダの耳に滑り込んできたのは愛する人のそんな一言。

 「・・・・う、ん?」

 まず第一声が、『おはよう』でも『起きた?』でもなく、『変な事』とはなんだろう?

 ユウナの真意は汲み取れないまま、ティーダはまだ仲良くしていたいと主張する己の瞼をこすり、彼女の次の言葉を待ってみる。

 色違いの瞳を窺い見れば、いつもとは違う真剣な眼差し。

 

 『真剣』?

 いや、どちらかと言えば『複雑そう』と言った方が正しいかも。

 

 一生懸命言葉を選んでいるらしい愛しい少女の顔を見ながらそんな思いに耽っていたその時、意を決したようにユウナが言の葉を紡ぎだした。

 

 

 

 

 「あの、ね?えっと、キミが、その、私のこと、『好き』って思う時って、どんな時?」

 

 

 

 

 「・・・・・へ?」

 思いもよらないユウナの質問にティーダの中で僅かに残っていた眠気も一気に吹き飛んでしまった。
 眠たげだった青い瞳をこれ以上はない、というくらいに見開きユウナを見つめれば、多分己の発言を酷く後悔しているらしい赤い頬。

 「い、いいっす!今のナシ!!」

 「ナシっていうのナシー!」

 ティーダは笑いながら慌ててシーツの中へ逃亡を図ったユウナの身体を引き寄せ腕の中へ閉じ込めた。

 「どうして急にそんなこと思ったのか白状しないと、今日は一日このままでいるッス!」

 「えええええっ!」

 情けない声と共にこちらを見上げたユウナの額に軽く口づけを落とし愉快そうに笑うティーダは内心、『どちらにせよ、このままでもいいかも』などと思っているのは彼女には内緒だ。

 「ほら、どうする?聞いてきたのはユウナだろ?」

 「・・・う、そうだけど・・・」

 「ん?」

 うろたえる色違いの瞳をしっかりと捕らえ、ティーダは艶然と微笑んだ。

 そして見事に捕らえられたユウナは『理由』を白状するしか道は残っていないわけで・・・。

 

 

 「き、今日ね?キミより早く起きられたの」

 「うん?」

 「それでね?えと、眠ってるキミの顔見てたら、『すっごく好きだな〜』って思って・・・」

 「うん」

 「あ、そう思うのってね?今日に限ったことじゃなくて、いつもなの」

 「・・・?」

 

 

 太陽の光に反射して輝く黄金の髪を目にした時。

 

 『美味しい』と笑って食事している顔を見た時。

 

 ぼんやりと考え事をしている横顔を見た時。

 

 差し出された手の温もりを感じた時。

 

 

 数え切れないくらいの『他愛のない瞬間』に『そう』想うのだと、腕の中の愛しい少女が告白する。

 その瞬間はつい先ほども訪れ、眠るティーダの顔を見て、ふと疑問に思ったのだという事も。

 耳まで赤く染め、それを隠すようにもぞもぞと自分の胸元へ顔を摺り寄せたユウナの愛らしさに、ティーダは笑い出してしまいそうになるのを堪えることに集中した。

 彼女のささやかで可愛らしい疑問に答えるのは非常に簡単極まりない。

 『自分もユウナと同じ』だから。

 けれど、素直にそう伝えてしまうには、今朝のユウナはもったいないくらいの愛らしさで。

 

 「う〜ん。そうッスね〜・・・ユウナに名前呼んでもらう時かな?」

 「・・・・・っ」

 とたんに曇ってしまったユウナの顔をティーダは不思議そうに覗き込むと、今にも泣き出しそうな声の小さな呟き。

 「・・・キミの名前・・・あんまり呼ばないね、私・・・」

 

 可愛すぎ。

 そんな顔を見ても『好きだ』と思っている自分は不謹慎?

 

 ティーダはとうとう堪えきれずに小さく吹き出すと、『ごめん、ごめん』と謝りその華奢な身体を力いっぱい抱きしめた。

 「え?!な、なあに?ごめんって?」

 「いや、オレ今、意地悪したから」

 「いじわる?」

 「そ。オレね、寝ても醒めてもユウナのことが好きだーって思ってるんスけど、それじゃダメ?」

 僅かに身体を離してユウナの反応を窺うと、少しだけ不満げにこちらを見上げる色違いの瞳と視線がぶつかり思わず笑ってしまいそうになる。

 「ダメみたいッスね」

 「もっと具体的なのがいいっす・・・」

 

 具体的・・・。

 『可愛いと思った時』っていうのも却下されそうだな、と思い巡らせ天井を仰ぎ見たティーダの脳裏に、素晴らしく『具体的』且つ、『ユウナを納得させられそう』な『理由』が一つ。

 

 「ああ、じゃあこれは?」

 「?」

 「ユウナにキスするたびに思うけど?」

 

 起きてから眠りに就くまで数え切れないくらいにされる『キス』。

 

 

 「合格?」

 そう言いながら勝ち誇ったように微笑むティーダを見上げ、ユウナは恥ずかしそうに『・・・合格』と呟いたのだった。

 自分でも呆れるくらい、『寝ても醒めても』ユウナを愛してる。

 キスのたびに好きと思うのか、好きと思うたびにキスをするのかわからないくらいに溺れてる。

 可愛い。

 好き。

 愛してる。

 いくら伝えても足りないから。

 だから贈るよ。

 足りない分は唇に乗せて。

fin

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