『昨日』で『今日』なのに、どうしてだろうね?
A Happy New Year
一年の終わりを告げるカウントダウン。
出逢って最初の年はそれどころではなく
その次の年、そのまた翌年には愛すべき姿は隣にはなく
3年目、初めて『彼』と迎えることができたあの瞬間は祈るように
そして、4年目の今年はルカの花火を見上げて―――。
『5,4,3,2,1!ハッピーニューイヤー!!』
一際盛大に打ち上げられた大きな花火と、そこかしこに特別設置されたスピーカーからのやかましいくらいの音楽とナレーションに、ティーダとユウナは思わず顔を見合わせて笑い合う。
シンの脅威から解放され、スピラ全土が『幸せ』を満喫できるようになってから毎年ルカで行われる年越しのイベントがあるのだと耳にした恋人が『ちょっと行ってみたい』と言ったのがきっかけだった。そしてユウナにしても年を重ねるごとに盛大になっていくこのイベントが気になっていたこともあり、二つ返事でビサイドを飛び出したのだ。
「それにしても、派手ッスねえ・・・」
寒さに吐く息が白くなるのを面白そうに眺めながらティーダが呟いた。
新年を祝う派手なイベントはザナルカンドでも当然の事のようにあったものの、当時は来る年に対しさして思い入れもなく、さらには『どこが目出度いんだ』くらいの勢いであったから今の状況が楽しくて仕方がないらしい。
「私もここまで盛大だとは思わなかったよ?」
スタジアムの周りをぐるりと取り囲むように立ち並ぶ露店。
スフィアプールの特設会場から次々と打ち上げられる色とりどりの花火。
そして、このお祭り騒ぎに参加しようと集まったスピラに住まう人々。
はぐれないようにしっかりと握り締められた手に力を込めてユウナが囁く。
「あけましておめでとう」
立ち止まるでもなく
視線を合わせるでもなく
歌うように祈るように
そんな恋人の声に少しだけドキリとして、思わず立ち止まりそうになって・・・
手を引いて歩いていたはずなのに、いつの間にか少し先を彼女が歩く。
少しだけ、ほんの少しだけ斜め後ろから見るユウナの横顔は、煌々と点けられた露店の明かりと花火の色に照らされていっそう凛として見えて。
「・・・なんか、ヘンな感じッスね」
「なあに?」
「だって、『昨日』から『今日』に変わっただけなのに『おめでとう』ってさ」
確かに『年が明けた』という事実は『おめでとう』なのだろうけれど
お祭り騒ぎも楽しいのだけれど
昨日も今日も明日も明後日も
繋いだ手を離さずに
彼女を愛して愛して愛していくことは『何も変わらない日常』なのに
「なんだろ・・・オレ、ユウナと「おめでとう」って言い合うために遊びに来たんだよな」
黄金の髪を無造作に掻き揚げながら、ポツリと呟いたその一言が可笑しくて
「そうだね、変わらないのにね」
立ち止まって
振り返って
ゆるり、と『ユウナだけの世界』へ身を任せて
「だけど、やっぱり私の中では「おめでとう」だよ?キミと、こうして年を重ねていけるって、なんて素敵って思うから」
人の波から守るように抱きしめた彼女の身体は折れそうに儚くて
けれど、唇から零れ出る数々の言の葉はいつも自分に力を与えてくれていて
「そっか。やっぱり「おめでとう」かも」
「ね?」
今年もどうか幸せに
彼女と
彼と
来年の今日も「おめでとう」と笑顔で言い合えますように―――
恋人達のささやかな願いを約束するかのように、その瞬間に打ち上げられた大きな花火が一際大きく煌いた。
fin