今までと何も変わらないはずなのに、すべてが変わったように思うのは・・・私だけ?
新婚さん
「・・・ん・・・」
カーテンの隙間から差し込む陽の光に、ユウナは少しだけ身じろいで重たい瞼をゆっくりと開けた。
「・・・あ・・・そうか・・・ベベルに来てたんだっけ・・・」
見慣れぬ部屋の作りに一瞬戸惑ったユウナだったが、昨日自分達に起こった出来事を思い出して小さく呟いた。
ビサイドでささやかに挙げるはずだった愛しい人との結婚式が、何故か本人達のあずかり知らぬところでベベルで盛大に執り行われることになっており、考える余裕も与えられないまま昨日『誓いの儀式』を済ませたのだった。
今、視界に映るのは規則正しく上下する見慣れた恋人の胸。
最初は彼が疲れてしまわないかと心配した『腕枕』も、今ではすっかり『当たり前のこと』として受け入れてしまっている自分がなんだか可笑しくて、自然笑みが零れてしまう。
17歳の時、『彼』と出会い、そして別れた。
『別れた』というよりも、むしろ『離してしまった』と言った方が正しいように思う。
シンを倒して、ナギ節を永遠のものにして、消えるはずだった自分の命と引き換えるようにして・・・『彼』だけが消えた。
それから2年もの間、『大召喚士』であろうと努めて生活していたけれど、どうしても『彼』を忘れることが出来なかった。
このまま一生、『彼』を想って生きてゆくのだ と、諦めにも似た想いでいた自分を動かしてくれたのは、あのスフィア・・・。
逢えるかもしれない・・・?
もう一度、離してしまった手を握り締めることが出来るかもしれない・・・?
追いかけて、追いかけて、ひたすら『彼』だけを想って、走り続けて・・・。
17歳の『あの時』に置き去りにしてしまった自分の時間が動き出したことを実感したのは、陽光に輝く黄金の髪をこの目で確認したあの日からだ。
再会を果たしてから4年・・・。
ずっと、一緒にいた。
離れることも、離されることもなく、穏やかな日々の幸せを噛み締めながら いつも笑い合って過ごしてきた。
それは、永遠に変わらない2人のナギ節・・・。
ユウナは幸せそうに微笑むと、浅く上下を繰り返す逞しい胸にそっと手を置く。
その手には、銀の指輪が小さく煌いていて 少しだけどきりとしてしまう。「結婚・・・したんだよね・・・」
向こう側に投げ出されている彼の薬指にも同じ煌き。
おそろいのそれを確認したとたんに、今までと何も変わっていないはずの朝の風景がまったく違ったものに感じて、妙に気恥ずかしい。
どんどん熱くなってくる自分の身体に居心地が悪くなったユウナは、愛しい人の寝顔の観察も諦めて もそもそと起きだした。「朝飯だったら、後でいいッスよ?」
「・・・?!」
突然の呼びかけに飛び上がらんばかりに驚いたユウナを、青の瞳が愛しげに見つめている。
「お、起きてたの?!」
「うん。ちょっと前に」
黄金の髪を揺らしながら、くすくすと笑いユウナの細い腕をつかみベッドの中へ引き戻すと、あっという間にシーツの波へ彼女を縫いとめてしまう。
「朝飯より先に、ユウナが食べたい」
「えっ?!あのっ・・・ティーダッ?!」
ユウナは、この上もなく幸せそうな『ダンナサマ』の名を、目覚めてから初めて言の葉に乗せた。
fin
『happiness』の続編、でしょうか?(笑)